現場を変えるMobilityのアイデア

第28話:CXを高めるApple製品の客室導入

コラム

2022.03.07

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Mac Fan誌で2015年12月号から2018年12月号まで連載。
仕事や学びを変えていく、明日から使えるヒントがここにあります。

福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けてホテル業界では新規開業や既存施設のリニューアルが加速しており、アップル製品の導入相談も増えている。一部のホテルでは、接客サービスやバックヤード業務の効率化のためにiPadを導入。客室内でもタブレットを配備し、独自のコンテンツを提供している。最近では、VOD(ビデオオンデマンド)システムの代替として、インターネットTVを視聴するための端末として、アップルTVを設置しているホテルもある。

客室体験を提供するデバイスとしてアップルTVに注目が集まる理由として、現状のVODシステムが導入時の設備投資のコストも保守等のランニングコストも高いことが挙げられる。しかも利用頻度が減ってきているため、アップルTVのようなデバ イスの導入検討が始まっているのである。ホテル側としても最新コンテンツが提供できないか、もっと新たなエンターテインメントが提供できないかと模索しているのだ。

客室体験の向上とは何を目指すべきなのか? 以前よりiPadを客室導入している企業と話してきた経験から、アップル製品のホテルの客室導入において、考慮すべきポイントを共有したい。

まず、宿泊者のターゲットを明確にすることが重要である。宿泊者がどんな目的でホテルに泊まっているのか、性別や年代、国籍などの条件に対して、ホテル側が提供するサービスとして配備するデバイスからアプリ、コンテンツを検討することから始める。そして、当たり前のことだが、サービススタートまでの期間と予算の確保も必要だ。どういったアプリやコンテンツを提供するかを検討するための期間がほとんどなく、開業目前で導入相談を受けることがしばしばある。こうなってしまうと、本来の導入目的から離れ、デバイスを導入することに目的が置き換わってしまって、客室体験の向上について熟考する時間がないまま、ただ自由に使えるiPadやアップルTVが置かれているだけになる。

iPadにしても、アップルTVにしても、設置して「はい、おしまい」という訳にはいかない。法人利用する場合には、導入後の運用管理も踏まえた設定を実装する必要がある。一斉にアプリやOSのアップデートが可能か、特定の機能を制限することができるかなどを導入前に決めておかなければならない。

客室体験の向上を目的とするのであれば、ホテルスタッフのアップルウォッチ利用も大きな可能性を秘めている。タブレットやスマートフォンを使った接客業務よりも、お客様に対面で向き合い、コミュニケーションを取れる状態を実現するうえでは、手首で通知を受け取り、情報を確認できるアップルウォッチのほうが接客業務に向いている。

「ホームポッド(HomePod)」の登場に期待も高まっているが、すでに市場にあるグーグル・ホーム(Google Home)やアマゾン・エコー(Amazon Echo)のような音声コントロールによるデバイスの普及によっても、ホテルの客室は大きな変化を期待できる。言語のギャップを超えて、空調や照明の操作から、チャットボットとの組み合わせによるヘルプ&サポートまで、効率的に宿泊者の満足度を高められる。客室内のデジタル化を促進することにより、設備面でのバリアフリーを実現するだけでなく、また来たい!と思わせるための「心のバリアフリー」に時間をかけられる。

今後はホテル業界に限らず、すべての業界で「顧客体験のデザイン」が求められる。これまでのサービス業はどのように変化すべきかを考えるうえでも、「ITによるサービス」と「人によるサービス」のミックスのさせ方が肝になる。ITの実装に留まらず、人の体験にフォーカスすることが、もっとも大事な視点となることを忘れてはいけない。


この記事は、Mac Fan連載「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年11月号)。

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