探訪!オートデスク株式会社
福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けてホテル業界では新規開業や既存施設のリニューアルが加速しており、アップル製品の導入相談も増えている。一部のホテルでは、接客サービスやバックヤード業務の効率化のためにiPadを導入。客室内でもタブレットを配備し、独自のコンテンツを提供している。最近では、VOD(ビデオオンデマンド)システムの代替として、インターネットTVを視聴するための端末として、アップルTVを設置しているホテルもある。
客室体験を提供するデバイスとしてアップルTVに注目が集まる理由として、現状のVODシステムが導入時の設備投資のコストも保守等のランニングコストも高いことが挙げられる。しかも利用頻度が減ってきているため、アップルTVのようなデバ イスの導入検討が始まっているのである。ホテル側としても最新コンテンツが提供できないか、もっと新たなエンターテインメントが提供できないかと模索しているのだ。
客室体験の向上とは何を目指すべきなのか? 以前よりiPadを客室導入している企業と話してきた経験から、アップル製品のホテルの客室導入において、考慮すべきポイントを共有したい。
まず、宿泊者のターゲットを明確にすることが重要である。宿泊者がどんな目的でホテルに泊まっているのか、性別や年代、国籍などの条件に対して、ホテル側が提供するサービスとして配備するデバイスからアプリ、コンテンツを検討することから始める。そして、当たり前のことだが、サービススタートまでの期間と予算の確保も必要だ。どういったアプリやコンテンツを提供するかを検討するための期間がほとんどなく、開業目前で導入相談を受けることがしばしばある。こうなってしまうと、本来の導入目的から離れ、デバイスを導入することに目的が置き換わってしまって、客室体験の向上について熟考する時間がないまま、ただ自由に使えるiPadやアップルTVが置かれているだけになる。
iPadにしても、アップルTVにしても、設置して「はい、おしまい」という訳にはいかない。法人利用する場合には、導入後の運用管理も踏まえた設定を実装する必要がある。一斉にアプリやOSのアップデートが可能か、特定の機能を制限することができるかなどを導入前に決めておかなければならない。
客室体験の向上を目的とするのであれば、ホテルスタッフのアップルウォッチ利用も大きな可能性を秘めている。タブレットやスマートフォンを使った接客業務よりも、お客様に対面で向き合い、コミュニケーションを取れる状態を実現するうえでは、手首で通知を受け取り、情報を確認できるアップルウォッチのほうが接客業務に向いている。
「ホームポッド(HomePod)」の登場に期待も高まっているが、すでに市場にあるグーグル・ホーム(Google Home)やアマゾン・エコー(Amazon Echo)のような音声コントロールによるデバイスの普及によっても、ホテルの客室は大きな変化を期待できる。言語のギャップを超えて、空調や照明の操作から、チャットボットとの組み合わせによるヘルプ&サポートまで、効率的に宿泊者の満足度を高められる。客室内のデジタル化を促進することにより、設備面でのバリアフリーを実現するだけでなく、また来たい!と思わせるための「心のバリアフリー」に時間をかけられる。
今後はホテル業界に限らず、すべての業界で「顧客体験のデザイン」が求められる。これまでのサービス業はどのように変化すべきかを考えるうえでも、「ITによるサービス」と「人によるサービス」のミックスのさせ方が肝になる。ITの実装に留まらず、人の体験にフォーカスすることが、もっとも大事な視点となることを忘れてはいけない。
この記事は、Mac Fan連載「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年11月号)。
現場を変えるMobilityのアイデア 記事一覧
- 第30話:モバイル活用の本質を見直すタイムマネジメント
- 第29話:結果につなげる 「×考え方」のビジネス方程式
- 第28話:CXを高めるApple製品の客室導入
- 第27話:不快を味わい「学び」をアップデート
- 第26話:CYODの実現に最初に必要な Why? の問い
- 第25話:他社を真似ずに自分たちで“事例”は作る
- 第24話:「ソリューション」という幻想に惑わされない秘訣
- 第23話:AI時代のエコシステムと価値創造に必要な対等な“ツッコミ”
- 第22話:“デジタル変革”に もっとも大切な 目的の明確化と共有
- 第21話:企業の体質改善に求められるITの"目利き力"
- 第20話:心地良さの追求がIT機器導入を「変革」へと導く
- 第19話:iOSによる教育現場の化学反応
- 第18話:企業カルチャーを創り出すオフィスとiOS
- 第17話:知的好奇心を刺激する学び
- 第16話:ITサポートに求められるのは"寄り添う"姿勢
- 第15話:創造力を守るための時間確保
- 第14話:日本のEnterprise ITに足りないもの
- 第13話:形骸化させない"働き方"改革
- 第12話:志は高く、目線は低く、ユーザー視点で
- 第11話:幸せを呼び込むタスク管理
- 第10話:変化するのは人か、 テクノロジーか、 それとも…?
- 第9話:モビリティの成功の秘訣は「型」にあり
- 第8話:ムダな会議を撲滅、 有意義な時間を創出
- 第7話:教育現場でのiPad機能制限、絶対反対!
- 第6話:モビリティの三段活用
- 第5話:悪いルーティーンを打破するiOS
- 第4話:そのプレゼンは聴く者を動かしているか?
- 第3話:情報共有はInformationからKnowledgeへ
- 第2話:目的の定まった"定着する"モバイルの活用
- 第1話:そのマニュアルは使われているか?
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