現場を変えるMobilityのアイデア

第13話:形骸化させない"働き方"改革

コラム

2020.04.09

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Mac Fan誌で2015年12月号から2018年12月号まで連載。
仕事や学びを変えていく、明日から使えるヒントがここにあります。

福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com

企業には今、社会の急激な変化や消費者ニーズの多様化に対応するため、「ワークスタイル変革」が求められている。労働人口の減少、育児・介護の問題、グローバル化への対応、ワークライフバランスの実現、震災などの災害後の在宅勤務、長時間労働による生産性低下など、課題は枚挙にいとまがない。ワークスタイル変革の本来の目的は、このようなさまざまな課題を解決するために、ITを活用したリモートワークやモバイルワークによって、個人の働き方を環境や生活に合わせて選択できるようにするものである。

しかし、現実にはITツールの導入が先行してしまい、個人の働き方はあまり変わっていないことが多い。私が関わっているアップル製品の導入の現場でも、iPhoneやiPadが電話やメールの機能の置き換えにしかならず、ビジネス上のどのような課題を解決したいのかを考え抜いた導入事例はまだ少ない。

生産性の向上を目的とし、長時間労働の解決策としてモバイル活用が注目される。MDM(モバイルデバイス管理)などの言葉とともに「エンタープライズ・モビリティ管理(EMM)」も企業に浸透してきたようだ。その中でITツールの導入検討と合わせて、個人デバイスを企業に持ち込んで業務に使用する「BYOD(Bring Your Own Device)」、企業が用意したデバイスの私的利用を認める「COPE(Corporation Owned Personally Enabled)」、従業員に使用するITツールの選択肢を持たせる「CYOD(Choose Your Own Devise)」といった導入方式から何を学び、どのように設計するかが課題になっている。

デバイスの購入や通信量の負担から、管理、サポートに至るまで、モバイルの導入方式によって検討すべき事柄は変わってくる。その範囲が広くなると大概モバイル導入のスピードは遅れ、従業員個人が生産性を上げるために、「勝手に」私的デバイスやアプリを業務で利用するようになる。「シャドーIT」と呼ばれるこの問題が広がってきているが、従業員がそれを行う理由は「使い慣れたデバイスのほうが効率的に仕事を行え、生産性もアップするから」といったように、利便性を重視した合理的な判断であることが多い。それゆえ、多くの企業ではそれを黙認し、早急になんらかのモバイル導入を進めようとしているが、日常の業務に追われて着手できないケースが多い。

なぜ、このようなことが起こってしまうのか。それはワークスタイル変革におけるモバイル活用について、企業側も従業員側も誤解があるからである。

モバイル活用におけるリモートワークやモバイルワークの本質は、自宅やカフェなどどこでも働くことができることではない。モバイルなどのITツールでもなく、オフィスや自宅などの環境でもなく、「マインドの置き所」が重要なのである。モバイル活用の本質はより複雑な問題の解決を目的として、効率的に業務を行うために、時間や場所の制限を超えて業務を行えるようにすること。そのために自分自身の行動を決めるマインドセットを重要視することである。それがなければ、いくらモバイル活用のためのITツールを導入してもムダである。

現場で感じることは、業務内容に踏み込んでいないモバイル活用が非常に多いことである。今一度、その仕事は本当にバリューを生んでいるのかを見直してほしい。たとえば、報告書作成は「報・連・相」の仕事であり、価値を生み出す仕事ではない。報告書作成のためにモバイルを活用するのではなく、より複雑な課題を考える時間を創出するためにモバイルを活用して業務を進めるのである。モバイルの導入方式や管理方法にとらわれず、マインドを維持するためのツールとしてモバイル活用を実現してほしい。


この記事は、Mac Fan連載「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年11月号)。

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