探訪!オートデスク株式会社
福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com
教育現場では、文部科学省が2020年に向けて一人一台のタブレットを使って授業が受けられることを目標としている。しかし、タブレットが一人一台に行き渡り、授業が受けられるようになるためには、多くの課題が山積みである。ここ最近は、週に1〜2回は教育関係者との打ち合わせや相談があり、教育現場の課題について話す機会が増えている。
では、教育現場にはどのような課題があるのか。それは立場によって、タブレット導入の捉え方が違うことである。まず、先生の立場では授業に最新のICTを活用し、子ども達にデジタル体験を教えたいと思っている。一方では、自分の教え方に拘りがあり、新しいものに抵抗のある先生もいる。そして、タブレットを使うことになったら、使いこなすことができるのか不安なのである。
次に子ども達(学生・生徒・児童)の立場では、家庭や個人で所有しているデバイスと同じように自由に使いたいと思う。学校で用意されるものが、個人で所有しているもの、普段使い慣れているものと同じように使えることを望む。究極はBYODのように個人で所有しているものが、授業の中でそのまま使うことができることかもしれない。学校や自治体の立場になると、配付したデバイスがきちんと利活用されているか把握したい、導入効果がどの程度あるのか知りたいという話が多い。
最後に、保護者の立場である。子どもにタブレットを持たせることになったら、コストはどのくらいかかるのか、授業料など月々の家計にどの程度負担になるのかが気になる。また、故障や破損、紛失してしまったの場合の対応や、機能制限はどのようになっているのか。このような不安がある。この4者の課題は、トレードオフの関係にあるものが多いため、解決が難しい。たとえば、保護者や学校、自治体のセキュリティ確保と、生徒児童にとっての使い勝手。
教育現場におけるタブレット導入の本当に価値ある体験とは何か。個人的には、モバイルの画面の中で見たことは何の価値もないと思う。そうではなく、モバイルの画面を通して得た情報を自分自身の目で見て、耳で聞き、行動したことによって得られた体験にこそに価値があるのだ。タブレットは情報のインプット・アウトプットを気軽に手元で行うことを可能にし、コミュニケーションを円滑にしてくれるものである。デバイスの中で完結することではなく、リアルなコミュニケーションがあって初めてモビリティが成立するのである。
企業や教育機関、あらゆる組織において、それぞれの立場の課題を把握し、取りまとめてマネジメントしていくことが求められている。iOS導入の現場では、デバイス調達からキッティング、ネットワーク構築、MDM、アプリ、コンテンツ、運用、保守、トレーニングなど、多くのことを検討しなければならないし、そのすべてをしっかり網羅しなければ、後々課題が増えてしまう。一社単独で顧客のニーズに応えられるケースもなくはないが、各領域を得意とするパートナーと連携し、スピーディーに課題を解決していくことが、成功へのステップである。
パートナーを選ぶポイントは「具体性」だ。それぞれの強みや得意なことを机上で議論していても何も進まない。具体的な案件やプロジェクトを一緒に推進することで、お互いの得意不得意が見えてくるものである。
具体性を持たせるためには、共通の顧客(もしくは課題)が必要であり、それを一緒に考え抜くことが大切だ。そして、実際に目に見える形にする「プロトタイプ」を作ることで問題解決が進む。本質的な問題解決というのは、このような課題のトレードオフを前に思考停止せず、答えの「落とし所」を関係者を巻き込みながら探るところにある。
この記事は、Mac Fan連載「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年11月号)。
現場を変えるMobilityのアイデア 記事一覧
- 第30話:モバイル活用の本質を見直すタイムマネジメント
- 第29話:結果につなげる 「×考え方」のビジネス方程式
- 第28話:CXを高めるApple製品の客室導入
- 第27話:不快を味わい「学び」をアップデート
- 第26話:CYODの実現に最初に必要な Why? の問い
- 第25話:他社を真似ずに自分たちで“事例”は作る
- 第24話:「ソリューション」という幻想に惑わされない秘訣
- 第23話:AI時代のエコシステムと価値創造に必要な対等な“ツッコミ”
- 第22話:“デジタル変革”に もっとも大切な 目的の明確化と共有
- 第21話:企業の体質改善に求められるITの"目利き力"
- 第20話:心地良さの追求がIT機器導入を「変革」へと導く
- 第19話:iOSによる教育現場の化学反応
- 第18話:企業カルチャーを創り出すオフィスとiOS
- 第17話:知的好奇心を刺激する学び
- 第16話:ITサポートに求められるのは"寄り添う"姿勢
- 第15話:創造力を守るための時間確保
- 第14話:日本のEnterprise ITに足りないもの
- 第13話:形骸化させない"働き方"改革
- 第12話:志は高く、目線は低く、ユーザー視点で
- 第11話:幸せを呼び込むタスク管理
- 第10話:変化するのは人か、 テクノロジーか、 それとも…?
- 第9話:モビリティの成功の秘訣は「型」にあり
- 第8話:ムダな会議を撲滅、 有意義な時間を創出
- 第7話:教育現場でのiPad機能制限、絶対反対!
- 第6話:モビリティの三段活用
- 第5話:悪いルーティーンを打破するiOS
- 第4話:そのプレゼンは聴く者を動かしているか?
- 第3話:情報共有はInformationからKnowledgeへ
- 第2話:目的の定まった"定着する"モバイルの活用
- 第1話:そのマニュアルは使われているか?
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