探訪!オートデスク株式会社
福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com
仕事で使うMacはクリエイティブの現場や専門性の高い仕事、医療機関など、特定領域での導入がほとんどであった。しかし、企業内でMacを採用する話題が最近盛り上がっている。Mac導入によってTCOを削減したIBMの事例をきっかけに、日本企業でも社員の利用するPCの1つにMacも加えようという流れである。
これは一般的にCYOD(Choose Your Own Device)と呼ばれる導入方式で、社員が利用するPCについて選択プログラムを導入するということである。先月開催されたアップルデバイスの管理ソリューションを提供するJamf社のユーザカンファレンスでも、このIBMの事例に倣い、SAPやキャピタルワン、ウォルマートがMacの利用について選択プログラムの導入を始めていると発表された。
選択プログラムの導入効果は、IBMの事例にあるように、Macを導入するほうがウィンドウズPCを利用し続ける場合と比較してもトータルコストが安い、といったものだけではない。たとえば、社員が「選択できる」ということは、より仕事にフォーカスできる環境が整い、生産性が向上することにつながる。人事部や採用担当者にとっては有能な人材を惹きつけ、定着させるために選択プログラムが有用となる場合もあるだろう。さらに、企業が多様性を認めることは、企業が社員一人一人がゴールに向かって取り組むことについて、全面的にサポートしていることの意思表示も兼ねており、企業文化自体を変化させる可能性も秘めているのだ。
ただし、単に導入すれば効果が自然に生まれるものではない。
選択プログラムの採用について、最初に考えなければならないことがある。それは、「Why?」(なぜ選択プログラムを導入するのか、Macを使いたいのかを考えること)だ。ハードウェアのスペックや使用するアプリケーション、互換性、セキュリティ、サポートなどIT機器の導入検討には考えなければならない要件が膨大にあるが、後々そういった要件の渦に飲み込まれないためにWhy?から考え始めることが何よりも大事である。そして、そのためには、まず目的と目標が必要となる。目的は「Macを導入してどんなカルチャーを作り、社員にどうあって欲しいか?」。目標は、「いつまでに××を成し遂げる、到達するか」である。このWhy?から始めるアプローチは、どんなプロジェクトやタスクを進めるうえでも大事なことである。
それを導き出すためには、社内でiOSデバイスを導入・サポートしたときの経験が役立つこともあるかもしれない。すでにMacを利用している社員からのフィードバックも重要だ。選択プログラムをスタートしたときのコミュニティの醸成にもつなげるために、Mac導入の際には早い段階でアーリーアダプターを巻き込むことも重要といえる。
企業によってこのWhy?は異なるはずで、社内で課題の共通認識を形成することがスタートとなる。課題設定のアプローチは、まずはギャップを認識することから始めよう。ギャップとは理想と現実から生まれる。たとえば、経営の目指すべき姿と日々の現場業務のように、経営陣の強いイニシアチブや目標設定だけでは理想を形にすることはできず、そこには現場の業務遂行能力が必要だ。しかし、現場では目の前の業務を処理することに精一杯になってしまい、少しでも日々の業務の軽減を望んでいる。この経営と現場のギャップを「Meet in the Middle(中間で一致させる)」することが課題設定の第一歩だ。
自分自身の中にあるWhy?を考え抜き、なぜを可視化する。そして、他とのギャップを認識し、課題設定することが目的や目標を達成するうえでもっとも大事なアプローチなのだ。
この記事は、Mac Fan連載「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年11月号)。
現場を変えるMobilityのアイデア 記事一覧
- 第30話:モバイル活用の本質を見直すタイムマネジメント
- 第29話:結果につなげる 「×考え方」のビジネス方程式
- 第28話:CXを高めるApple製品の客室導入
- 第27話:不快を味わい「学び」をアップデート
- 第26話:CYODの実現に最初に必要な Why? の問い
- 第25話:他社を真似ずに自分たちで“事例”は作る
- 第24話:「ソリューション」という幻想に惑わされない秘訣
- 第23話:AI時代のエコシステムと価値創造に必要な対等な“ツッコミ”
- 第22話:“デジタル変革”に もっとも大切な 目的の明確化と共有
- 第21話:企業の体質改善に求められるITの"目利き力"
- 第20話:心地良さの追求がIT機器導入を「変革」へと導く
- 第19話:iOSによる教育現場の化学反応
- 第18話:企業カルチャーを創り出すオフィスとiOS
- 第17話:知的好奇心を刺激する学び
- 第16話:ITサポートに求められるのは"寄り添う"姿勢
- 第15話:創造力を守るための時間確保
- 第14話:日本のEnterprise ITに足りないもの
- 第13話:形骸化させない"働き方"改革
- 第12話:志は高く、目線は低く、ユーザー視点で
- 第11話:幸せを呼び込むタスク管理
- 第10話:変化するのは人か、 テクノロジーか、 それとも…?
- 第9話:モビリティの成功の秘訣は「型」にあり
- 第8話:ムダな会議を撲滅、 有意義な時間を創出
- 第7話:教育現場でのiPad機能制限、絶対反対!
- 第6話:モビリティの三段活用
- 第5話:悪いルーティーンを打破するiOS
- 第4話:そのプレゼンは聴く者を動かしているか?
- 第3話:情報共有はInformationからKnowledgeへ
- 第2話:目的の定まった"定着する"モバイルの活用
- 第1話:そのマニュアルは使われているか?
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