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日本デザイン学会(JSSD) 会長
武蔵野美術大学 基礎デザイン学科 教授
小林 昭世氏
デザイン団体訪問シリーズです。今回は、日本デザイン学会(JSSD)会長の小林昭世氏(以下、敬称略)にお話をお聞きしました。
日本デザイン学会は、「会員相互の協力によってデザインに関する学術的研究の進歩発展に寄与する」ことを目的として活動している、日本学術会議登録・認定の学術団体です。 多様なデザイン課題に対する活動の成果を国内外に発表して、デザインを基軸にした社会と文化の発展を目指しています。
学術的な研究からデザインにアプローチする
Too:まずは日本デザイン学会がどのような団体なのか教えてください。2023年で設立70周年を迎えられたと聞いています。
小林:日本デザイン学会は、デザインの学術的研究を発展させることを目的として、1953年に設立されました。設立当時は戦後の産業復興に向けて、デザインを産業が発展するためのバネにしようという機運が高まった時代です。その中で、デザインの実践的な活動だけではなく、学術的な研究の必要性が問われ始めたのです。
研究の軸としては大きく 4 つあります。実務としてのデザインに理論やモデル、ツールを提供して貢献する研究、デザインを観察し、記述した知識をデザインに戻して運用する研究、デザインの振興や啓蒙、教育に関する研究、デザインと関連性を増している研究領域と連携する研究です。デザインの発展とともに実務としてのデザインは領域がかなり広がり、グラフィックデザインや工業デザインはもちろん、情報デザイン、建築、医療、社会・公共課題などに広がるとともに、制作だけでなく、調査、企画、ワークショップなどのイベントも含まれます。
会員はデザイナー、教育機関でデザインを教えている人、それから大学院生など、美術、工学、歴史やビジネスに足場を置いた、さまざまな立場の人がいます。近年はデザインを学んでいる学生の就職率がいいこともあり、デザイン学会と学生の関わりが以前とはだいぶ変化しています。学生会員のうち留学生が増えており、日本でデザイナーとしての就職を目指したい、帰国してデザインの先生を目指したい、という学生の加入が多い印象です。
他団体との活発な連携
Too:デザインの研究と一言で言っても、その領域はとても広いのですね。具体的な活動としてはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
小林:活動としては、春と秋の年に 2 回開催される研究発表大会「デザイン学会研究発表大会」、論文集や作品集の刊行などをしています。そのほか、各地に設置されている5つの支部活動、デザイン研究の分野別の研究部会が10以上あります。
他の学会や外部組織との交流も多いです。「Design シンポジウム」という活動は、日本機械学会や精密工学会、人工知能学会など、デザインに関心を持っている工学系の学会と一緒に会議を開催しています。音楽やダンスを含む芸術系の学会との連携するシンポジウムもあります。
また、国際デザイン学会連合(IASDR)という国際会議の運営にも参画しています。アジアやヨーロッパ、アメリカを中心としたデザインに関する学会が多く集まって、学術連携を強化する目的で開催されています。2023 年はミラノで開催される予定です。
他団体との連携は非常に多いです。デザインは独立して活動するというよりも、さまざまな領域と関わることによって生み出されるものだからだと思います。
デザイン学会研究発表大会について
Too:デザイン学会研究発表大会について教えてください。70年の中で、研究テーマのトレンドなどはあるのでしょうか。
小林:研究発表大会は毎年開催地域を変えているのですが、その地域ならではのテーマをピックアップすることもあります。ここ数年は遠隔で開催してきましたが、今年2023年は約300の研究発表が行われ、ラムサール条約湿地に登録されている東京湾奥・葛西沖三枚洲をクルージングしながら、海岸の環境を考えるイベントを実施しました。そうすると、学会に所属していない市民や学生が関心を持って見にきてくれることもあります。
その他の年度の研究テーマも、時流を反映しています。トラクターの自動運転の試験や、ドローンを使った害虫の発見などを使った研究が進む農業デザインは、とても面白い領域です。農地は基本的に私有地なので、制限がない分、試験的研究が進んでいます。
また、社会全体の医療マーケットの拡大に伴って、先端医療へのデザインの実践や、病院のグラフィックデザイン、AR・VR などを活用した治療へのアプローチなど、医療に関連する研究も増えています。研究部会によっては、全国にある看護学科との連携があり、一緒に活動することもあります。
現在準備中の 2023 年の秋季大会は、日本デザイン学会が70周年を迎えたことを踏まえ、関連する学会や組織の現状とこれから何を目指していくのかを共通しながら、デザイン学会のこれからを考えるパネルディスカッションをします。我々だけではなく、工学系や文化系などのデザインに関連する団体と一緒に、目線を合わせることが目的です。
デザインの実践と研究をつなげたい
Too:想像以上にたくさんの分野と連携していることに驚きます。これから力を入れていく取り組みを教えてください。
小林:近年注力しているのは、デザインの学術的基盤を強くしていくことです。デザインは実践が先行するので、工学や経済などと比べて研究を専門にしている人が圧倒的に少なく、研究基盤が弱くなりがちです。また、現場で仕事がうまくいっていれば、デザインについて研究する必要性を感じにくいものです。仕事がうまくいかなくなってからデザインの研究に立ちかえることもあります。
また、デザインの実践と研究をうまくつなげる必要があると感じています。論文を発表しやすくする環境の整備も必要です。例えばワークショップを研究の発表方法に選ぶと、活動の概要以上のことは書きづらいことがあります。これではデザイン学会が発刊している雑誌に活動が掲載されない心配があります。研究成果や実践の成果の発表方法、発表形式が多様化している中で、これらの活動を大切な研究資源として取り込むために、時流に合った形で研究成果として発表できる体制を整えたいです。
Too:それでは最後に、日本デザイン学会様の魅力を教えてください。
小林:今、社会はみんな忙しくなっています。自分の抱えている仕事や研究については取り組みますが、それ以外のことをやる時間がとても少なくなっています。また、大学でも会社でも、効率や成果を第一に求められるので分断化が進んでいます。
私たちが学生の頃は、自分の研究や制作をした上で、他大学の人たちと知り合ったり、合宿をしたり、会議に参加する折に旅をする余裕がある時代だったので、自分の専門以外の研究や実践に触れる機会が多かったのです。デザイン学会は、さまざまな業界、学校から会員が集まっていますから、予想外の研究テーマに参加したり、予想外の人たちと交流できる魅力があると思います。私も大学院生の頃に知り合った人との付き合いが今でも続いています。
そういう意味で、デザイン研究者はもちろん、デザイナー、さらにデザインに期待してデザインを発注する側であるクライアントの会員が増えるとさらに嬉しいです。クライアントの考えを知ることは、デザインのどのような能力が必要とされるかを知る機会になります。社会からもっと関心を持ってもらえるような団体を目指していければと思います。
日本デザイン学会(JSSD) 第70回春季研究発表大会 オーガナイズドセッションのレポートはこちら