探訪!オートデスク株式会社
福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com
ちょうど1年前の本誌の特集「iPad導入 成功のシナリオ」に寄稿した。非凡な現場から学ぶiPadの正しい使い方と、必要なマインドセットについて書いたのだが、PCの行き届かなかった現場にこそ、価値のあるiPad活用の可能性があると考えていた。それから1年が経過し、この連載を担当することになり、モビリティがどのように現場を変えることができるかを伝えてきたわけだが、企業や教育機関において、モビリティが定着しているとはまだまだ言い切れないのが現状である。
私は日々、さまざまな企業や教育機関のiPad導入担当者と話をしている。その際に相談される内容の多くは、導入検討段階における、ファイル共有などのアプリやMDMなどの端末管理ソリューションの話である。しかも、担当者からは必要な要件に対し、その機能が備わっているのかどうかといった、機能の比較検討の話が中心だ。
そのような話になった場合は、iPad導入で検討すべきことが機能偏重にならないように、デバイスやシステム、業務プロセス、関わる人など全体を俯瞰し、「どのように使っていきたいか?」を最初に検討するように伝えている。また、アプリやソリューションの検討においては、無料アカウントやトライアルでしっかり製品に触れることおすすめしている。そうすることで導入後の活用イメージが具体的になり、その後の選定に役立つからだ。iPadの導入は、導入後のイメージの明確化(Think Big)、段階的な導入(Start Small)、迅速な展開(Scale Fast)で進めることが成功のステップとなる。
では、そのステップで進めるうえで重要なことは何か。それは「型(カタ)」である。ここでの「型」は、機械や工業製品の型ではなく、武道や伝統芸能、スポーツなどでの規範となる行動様式を指す。武道や伝統芸能における型稽古(練習)のように、基本の動作を繰り返し、基本の動きを体が覚えることで、いざというときに体が動くようになるし、体が動くようになって初めて応用が利くようになる。だから、モビリティの導入にも「型」が必要だ。
たとえば、店舗接客の場合、お客様からのリクエストに対し、その場でインターネットを検索して答えるといったことである。専用アプリがあれば、在庫検索や納期確認も可能だ。長時間にわたる社内研修や勉強会のような場面では、即座にカメラやボイスメモを起動し、記録を残すような動きが当てはまる。移動中の電車の中や休憩中には、次の打ち合わせの準備のために資料を閲覧確認し、事前準備を怠らないようにすることである。その瞬間のまず最初の動きにモバイルデバイスがあり、体が即座に反応するようなiPad活用が望ましい。
このような所作はiPadを導入すれば身につくものではなく、モバイルデバイスの特性を活かした働き方である「モビリティ」の導入が前提となる。モビリティの導入に必要な視点は次の3つである。
まずは「何かの置き換えではなく、既存の仕組みを超えたものであるか?」。つまり、PCの代わりにiPadを使うのではなく、現場の対話から生まれる理想と現実のギャップが問題解決のヒントになる。次に、「導入が簡単で、シンプルなプロセスで利用することができるか?」。テクノロジーの恩恵を受け、スムースな導入ができるのが理想的だ。最後に「習熟に時間がかからず、すぐに習慣化できるものか?」。プライベートで使っているモバイルデバイスのように、特別なトレーニングを必要とすることなく、使い始めることでユーザの負担を大きく軽減することが可能になる。
仕事や業務の中で新しいモビリティを定着化させるということは、モバイルデバイスの使い方ではなく、モバイルを使った動きや考え方を身につけることである。基本の「型」を身につけ、時代や環境の変化に対応できる働き方を目指してほしい。
この記事は、Mac Fan連載「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年8月号)。
現場を変えるMobilityのアイデア 記事一覧
- 第30話:モバイル活用の本質を見直すタイムマネジメント
- 第29話:結果につなげる 「×考え方」のビジネス方程式
- 第28話:CXを高めるApple製品の客室導入
- 第27話:不快を味わい「学び」をアップデート
- 第26話:CYODの実現に最初に必要な Why? の問い
- 第25話:他社を真似ずに自分たちで“事例”は作る
- 第24話:「ソリューション」という幻想に惑わされない秘訣
- 第23話:AI時代のエコシステムと価値創造に必要な対等な“ツッコミ”
- 第22話:“デジタル変革”に もっとも大切な 目的の明確化と共有
- 第21話:企業の体質改善に求められるITの"目利き力"
- 第20話:心地良さの追求がIT機器導入を「変革」へと導く
- 第19話:iOSによる教育現場の化学反応
- 第18話:企業カルチャーを創り出すオフィスとiOS
- 第17話:知的好奇心を刺激する学び
- 第16話:ITサポートに求められるのは"寄り添う"姿勢
- 第15話:創造力を守るための時間確保
- 第14話:日本のEnterprise ITに足りないもの
- 第13話:形骸化させない"働き方"改革
- 第12話:志は高く、目線は低く、ユーザー視点で
- 第11話:幸せを呼び込むタスク管理
- 第10話:変化するのは人か、 テクノロジーか、 それとも…?
- 第9話:モビリティの成功の秘訣は「型」にあり
- 第8話:ムダな会議を撲滅、 有意義な時間を創出
- 第7話:教育現場でのiPad機能制限、絶対反対!
- 第6話:モビリティの三段活用
- 第5話:悪いルーティーンを打破するiOS
- 第4話:そのプレゼンは聴く者を動かしているか?
- 第3話:情報共有はInformationからKnowledgeへ
- 第2話:目的の定まった"定着する"モバイルの活用
- 第1話:そのマニュアルは使われているか?
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