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ジャパンデザインミュージアムへの期待 ― D-8の活動の視点から

レポート

2019.11.28

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ジャパンデザインミュージアムへの期待 - D-8活動の視点から 日本にも本格的なデザインミュージアムを!デザイン8団体がその意義を発信

「日本デザインミュージアム」を目指す4人が登壇

経済産業省とつながりのあるデザイン8団体で構成される日本デザイン団体協議会(通称D-8)は、これまで10年以上、共同で日本のデザインについて検討や研究を行ってきました。今回のセミナーではそのうち4団体のメンバーが登壇し、ジャパンデザイン、およびデザインミュージアムに期待される効果について論じました。登壇したメンバーは、日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)の浅香嵩氏、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)の天野幾雄氏、日本空間デザイン協会(DSA)の洪恒夫氏、日本サインデザイン協会(SDA)から杉谷進氏の4名です。

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日本にも本格的なデザインミュージアムが必要では?

はじめにJIDAの浅香氏が、D-8の研究活動とジャパンデザインミュージアム構想の全体像について紹介。日本では、戦後数多くの優れたデザインが生み出されてきました。しかしながら、そういった社会に影響を与えた製品や作品に、若い人は直接触れた経験がありません。そこでD-8では、日本にも本格的なデザインミュージアムが必要ではないかという問題意識が出てくるようになったそうです。

D-8の歴史を振り返ると、日本デザイン団体協議会は東京オリンピックの熱気が残る1966年に発足。所属する団体は、日本ディスプレイデザイン協会(DDA)、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)、日本クラフトデザイン協会(JCDA)、日本インテリアデザイナー協会(JID)、日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)、日本ジュエリーデザイナー協会(JJDA)、日本パッケージデザイン協会(JPDA)、日本サインデザイン協会(SDA)の8団体です。

異なる分野のデザイナーたちが集まるD-8では、これまで「デザイン」をテーマに連携し活動を続けてきました。その中で「日本のデザイン」をより多様的な視点で再考する必要があるという共通認識を持つようになったといいます。そこで「日本にも総合的なデザインミュージアムが必要である」「そのために、まず自分たちデザイナー自身が声を上げよう」という趣旨で2006年に立ち上げたのが、「ジャパン デザイン ミュージアム(JDM)構想」です。

なぜデザインミュージアムが必要なのか。これについて浅香さんは「デザインミュージアムは文明・文化の地図そのもの」と例えました。どこへ行きたいのか、この先に何があるのか。それを判断するには地図が欠かせません。世界には9カ国25館のデザインミュージアムがあり、ヨーロッパやアメリカはもちろん、アジアにもソウルのDDPや香港のM+など、デザインに関連するミュージアムが作られています。一方の日本では、企業単位の博物館はあるものの、デザインという横串が刺されていない状態。日本のデザインをさらに前に進めるために、ぜひデザインミュージアムを作りたい、と浅香さんは意気込みを語りました。

プロの目で作成した「クロニクル」と『アナトミー」

続いてJAGDAの天野さんが、これまでの歩みを紹介。2003年に経済産業省は、「戦略的デザイン 40の提言」を発表しました。その39番目に「デザインミュージアムの設立を通じ多様で優れたデザインに触れる機会の充実」という一文が入っており、デザインミュージアムを求める機運は徐々に高まっていました。日本のデザインをストックし、アーカイブ化する必要性を感じたD-8は、2006年に先述のJDM構想を立ち上げ。「ジャパンデザインミュージアム設立準備委員会」を設立し、定期的なディスカッションを開始しました。

2010年には8団体が共同でJDMの方向性を探るための展覧会を企画します。「DESIGN ふたつの時代 60s vs 00s」と題された展覧会は、日本のデザインが大きく花開いた60年代と当時最新である00年代のデザインを対比することで、日本のデザインの移り変わりを俯瞰的に眺めるものでした。さらにD-8では書籍の出版、研究発表、シンポジウムやトークセッションの開催など、精力的に活動を続けてジャパンデザインミュージアムのありかたを研究しています。

これらの活動を通じて出てきたのが、「クロニクル」と「アナトミー」という2つのコンテンツです。「クロニクル」は、60年代から00年代までの系譜です。D-8に所属する8団体は、いずれも40年から60年の歴史があり、所属デザイナーたちは各時代の実際に自身で体験してきました。そんなプロたちが2カ月に1回集まり、プロの目から見た各時代の代表作品を選び、意見交換してデザイン年表ともいえるクロニクルが作られました。

一方の「アナトミー」は、クロニクルに登場した各分野の作品に、時代を表すキーワードで縦軸を通したもの。そのキーワードとは、戦後日本の近代デザインの創生、住環境の変化、東京オリンピック、高度経済成長、ライフスタイルの変化、国際化、価値観の多様化、バブル経済、デジタル化、グローバリズム、低成長時代の価値観の変化、温暖化による環境問題、ユニバーサルデザインの13個。クロニクルという横軸に対してキーワードという縦軸を通し、その交差点を糸で結んでみたところ、自分たちでも驚くような視点ができたといいます。

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他国の事例

SDAの杉谷氏は、イギリスのロンドンデザインミュージアムの歴史を振り返りながら、ジャパンデザインミュージアム実現へのステップを語りました。ロンドンで現在のデザインミュージアムにつながる活動が立ち上がったのは1982年のこと。スティーヴン・ベイリー氏と、テレンス・コンラン卿によるプロジェクトでした。

はじめは毎回テーマを設けた企画展としてスタート。このプロジェクトはボイラーハウスプロジェクトと呼ばれ、合計23回の企画展を行い、なんと5年間で150万人が訪れたそうです。その成功を受け、次のステップとして1989年にテムズ川沿いのバナナ倉庫を改装してデザインミュージアムをオープン。そして2016年、それまでのデザインに対する貢献やデザイン教育に対しての取り組みが評価され、ケンジントン・ホランドパークにさらに大規模なミュージアムとして移転しました。

杉谷氏は2018年、2019年に実際にケンジントンの新ミュージアムに2度訪問。豊富な写真を使いながら、デザインミュージアムの展示を紹介しました。杉谷氏は、今年再訪するとカフェができたり、パーマネントコレクションが変わっていたりと、デザインミュージアムが現在もどんどん変わり続けていることを指摘。開館時がゴールではなく、そこからがスタートなんだと指摘しました。

ジャパンデザインミュージアムへのステップ

最後にDSAの洪氏が、JDM実現に向けた4つのステップを紹介。ステップ1は「リサーチ」で、外部との勉強会で海外事例等調査しました。8団体のメンバーが毎月勉強会を開催し、ジャパンデザインを考察していきました。

ステップ2はパイロットミュージアムの展開。ジャパンデザインミュージアムの効果を試す実験的な小さな展覧会の開催です。ジャパンデザインを追求するため、60s vs 00sという2つの時代を比較する展覧会を開催しました。先の杉谷氏の説明にもあったようにロンドンのデザインミュージアムも、最初は企画展からはじまって認知と規模を広げていったという歴史があります。

ステップ3は、スモールミュージアムです。いきなり大規模なミュージアムを目指すのではなく、まずは小さな場所でパーマネントな展示をすること。その先に、ステップ4としてジャパンデザインミュージアムがあるのではないか、と訴えました。

最後に洪氏は展示するコンテンツの提案として、ドリームプランを披露。クロニクルやアナトミーを実際の空間に展開したスケッチを見せながら、JDMの姿の一例を提案しました。

会場の部屋の外にはD-8が作成した「クロニクル」と「アナトミー」が展示され、多くの人が日本のデザインの変遷に見入っていました。

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日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)浅香氏「まず自分たちデザイナー自身が声を上げよう」

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日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)天野氏「日本のデザインの移り変わりを俯瞰的に眺められるものを」

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日本サインデザイン協会(SDA)杉谷氏「各団体が垣根を超えて毎月勉強会を開催」

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日本空間デザイン協会(DSA)洪氏「啓発・普及活動を実施したい」

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