探訪!オートデスク株式会社
藤井 将之氏
日本デザイン団体協議会(DOO)
デザイン保護委員長
藤井環境デザイン
代表・環境デザイナー
エンジニアからデザイナーに転向し、公共空間を中心としたサイン計画やV.I.・ランドスケープ・プロダクト・内装・展示会ほか、屋外広告物ガイドラインなどの都市計画などの環境デザインに携わる。日本デザイン団体協議会【DOO】では知財を中心としたデザイナーを支援する仕組みづくりを推進。「ボーダーレス(国際化・市場拡大)」「カテゴリーレス(他業界・産業との連携)」「エイジレス(幅広い年齢層との価値共有)」の方針を挙げ、デザインの社会的価値向上とともに産業の発展を目指す。
峯 唯夫氏
デザインと法協会
会長
弁理士・弁理士法人レガート知財事務所
弁理士登録後、埼玉県デザインフォーラムに参加。その後、サイシンフォーラムとして、デザイナー・経営者・中小企業診断士などと、デザインと経営について30年以上に亘り語り合ってきた。そこで得た知見に基づき、地域のデザインセンターで商品開発の指導やデザイン保護のセミナーを行う。2019年、デザイナー・企業・法律職が語り合い、学び合う場として「デザインと法協会」を設立。現在「デザイナーの権利を考える」分科会を担当。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2024 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2024年11月1日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。今回は、業界の最前線でデザインやクリエイティブに挑戦されている方々による8本のセッションを行い、新たな創造の原動力をお話しいただきました。当日のセッションレポートをお届けします。
デザイン業界を取り巻く環境が大きく変化する中、デザイナーにとって「法」はますます重要な存在となっています。「意匠」「商標」「著作権」などの知財に関する正しい知識はデザイナー自身を守ることにつながります。本セッションでは、日本デザイン団体協議会(DOO)デザイン保護委員長の藤井将之氏と、デザインと法協会会長で弁理士の峯唯夫氏をお招きし、デザイナーに関わる法律についてわかりやすく解説していただきました。
デザイナー実態調査から見えてきた現状と課題
まずは藤井氏が、日本デザイン団体協議会(DOO)が実施した約290名のデザイナーを対象とした実態調査から、業界が直面する課題などを紹介しました。調査結果からは、回答者の90%が40歳以上、70%が50歳以上と業界の高齢化が進行していることや、63%が従業員5名以下の小規模事業者であるという実態が浮き彫りになっています。
業務内容については、過去10年間で大きな変化が見られました。従来の制作業務に加えて、企画立案やコンサルティング、さらには法律や安全性のチェックといった法規の確認など、求められる業務範囲が著しく拡大しています。制作の前段階での作業が増えており、広くさまざまな領域に対応できる人材が求められる時代となっているのかもしれません。
一方で契約面では、契約書を交わしている事業者が約半数にとどまっていました。トラブルに関しては、無償のコンペ、複数案の成果物の納品、無償の修正作業、途中過程のデザインデータが使われるなどの実例が上がっていましたが、件数としてはそれほど多くはないそうです。アイデアの無断流用やプロジェクトの中断、未払いなどの対策として、「顧客とのやり取りを記録として残しておくことが、トラブル回避の基本」だと藤井氏は説明しました。
著作権と著作者人格権の違いを知るのが重要
会場の来場者に〇×の札を挙げてもらうアンケートでは、「著作権」という言葉は多くのデザイナーが知っているものの、「著作者人格権」については認識が低いことが明らかになりました。デザインと法協会会長の峯氏は、「日本人で著作権を持っていない人はまずいない」という話から始め、幼稚園でのお絵描きや小学校での作文から始まり、スマートフォンで撮影する写真に至るまで、創作物には自動的に著作権が発生することをわかりやすく説明しました。
デザイナーが特に注意を払うべきは、「著作権」と「著作者人格権」の違いです。著作権は著作物を利用する権利として財産権的な性質を持ち、譲渡が可能です。一方、著作者人格権は作品の公表や氏名表示、同一性保持に関する権利として人格権としての性質を持ち、譲渡することができません。
特に注意が必要なのは、著作権を譲渡してしまうと自分でも利用できなくなる可能性がある点です。最近の契約書では「著作者人格権を行使しない」という条項が入ることもありますが、これについても「何をしないのか、何をしたいのかをデザイナーからきちんと伝える必要がある」と藤井氏は話します。
スペックワークと契約書の落とし穴
「スペックワーク」と呼ばれる依頼の仕方がデザイン業界には今でも存在するようです。これは「まず作ってもらい、気に入ったら料金を支払う」というもので、飲食店などでは当然断るはずの依頼形態です。しかしデザイナーなら、コンペなどで知らないうちに依頼を受けてしまっているケースもあるのではないかと藤井氏が語りました。
契約書の内容にも注意が必要です。特に「作成した成果物のすべての権利(著作権を含む)を発注者が保持する」という条項や、デザインに起因する損害のすべてをデザイナー側が負担するという条項が、いまだに多くの契約書に残されているそうです。
これらの条項の多くは発注者側も認識しておらず、昔から使っている契約書をそのまま使用しているケースが多いとのことで、不適切な条項の修正を申し入れた際には発注者側が修正を快諾してくれるケースも多いとのことでした。「契約書に疑問があったらまず伝えることが大事」と藤井氏は語ります。
また、自分がデザインしたものが真似されたと海外から訴えられて、デザイナー自身が損害賠償を払う必要に迫られたという事例も紹介されました。峯氏は「他人の著作権を侵害していないことへの責任は負うことができても、特許や実用新案、意匠に関する責任までデザイナーが負うのは現実的ではない」と解説しました。
デザインの権利の在り方を考える
では、デザインの権利は一体誰のためなんだろうという問いかけがなされました。複数回答ありの来場者アンケートでは「会社のもの」と答えた人が最も多く、つぎに「デザイナー本人のもの」「クライアントのもの」という順でした。「業界全体のもの」に手を挙げた人はいましたが、「権利は必要ない」はいませんでした。
つづいて、デザイナーは何の権利を守りたいかとして「ブランドイメージ・アイデア・コンセプト・形・色・言葉」から複数回答ありの来場者アンケートを取りました。やはり「アイデア」が多く、「形」が大事という回答も約半数ありました。
形・色・言葉は今の知財法でも守ることは可能ですが、ブランドイメージ・アイデア・コンセプトといった制作の前段階のものは守りにくい状況にあります。アイデアについて守りたい場合「クライアントとよく話して、ここは使っていいよ、ここは使わないでねということをちゃんと話すのが大事」と藤井氏はアドバイスしました。
グローバル時代におけるデザイン権利戦略
デザインの権利保護に関する世界の動向を見ると、日本は遅れているように感じると藤井氏は語ります。特に中国では意匠出願件数が桁違いに多く、現存する意匠権の件数でも他国を圧倒しており、ビジネスのために権利を重視しているという点に注目すべきだと指摘します。中国では商標権を戦略的に取得し、それ自体を売買するビジネスモデルも生まれており、悪しき例ではあるものの参考にすべき面もあると語りました。
外国から日本への知的財産権申請件数は増加している一方、日本からの海外への申請は圧倒的に少ない状況が続いています。藤井氏は最後に「これからものを作るときには海外も視野に入れて、自分と企業、クライアントを守るという意味でも知財をしっかり考える意識を持ってほしい」と語りました。法によりデザインの世界が活性化することを目指す峯氏は「法律を知っている人間と仲良くすることで、自分の仕事が発展する可能性がある」という言葉で締めくくりました。
デザイナーの実態調査から見えてきた業界の課題、著作権に関する正しい知識、契約書の落とし穴まで、デザイナーが知っておくべき法律の基礎を実例を交えながらわかりやすく解説した本セッションは、これからのデザインビジネスのありかたを考える上でも大きなヒントとなる内容でした。
日本デザイン団体協議会(DOO)
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