design surf seminar 2019

デザイナーは絶滅危惧種か?

レポート

2019.11.22

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田中一雄

株式会社GKデザイン機構
代表取締役社長

1956年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。株式会社GKデザイン機構代表取締役社長、(公社)日本インダストリアルデザイナー協会理事長、国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID:現WDO)理事を経てアドバイザー。グッドデザイン賞、都市景観大賞、ドイツRed Dot Design賞 、Australia・International Design賞などの国内外の審査員を歴任。グッドデザイン賞グランプリ総理大臣賞、SDA大賞他受賞多数。インドAjeenkya DY Patil大学名誉博士。技術士(建設部門/建設環境)。プロダクトから都市環境まで多様なデザインを手掛けるとともに、総合デザインプロデュースや国際デザイン運動など幅広い活動を続けている。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2019 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2019年10月18日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。 4回目となる今回も、デザインをビジネスの側面から捉えた11本のセミナーを行い、たくさんの方に来場いただき盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

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田中一雄氏(GKデザイン機構代表取締役社長)によるセミナーのタイトルは、「デザイナーは絶滅危惧種か?」。第四次産業革命の進展に伴って、デザインの分野でも「モノからコト」への変革が叫ばれるようになって久しく経つ一方、AIの飛躍的な発展もあり、世の中からは多くの仕事が消えていくと言われています。そんな時代において、デザイナーの仕事はどのように変化していくのかを考え、いまあるべきデザインのあり方を捉え直すセミナーとなりました。

今後、消える職業/消えない職業

田中氏は、1952年に創立されたGroup of Koike(GK)の現代表取締役社長。GKはもともと、東京藝術大学で教鞭を執っていた小池岩太郎氏が当時の学生たちと結成した小さなグループでした。しかし今では、世界的な総合デザイン・グループとして、楽器からオートバイ、オーディオ、車両のデザインまで、幅広い仕事を手掛けています。キッコーマンの醤油瓶や中央線の車両デザインなどは、まさに生活に溶け込んだデザインだと言えるでしょう。

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そんなGKの田中氏から、もしかすると近い将来、デザイナーの仕事がなくなるのではないかという危機感が表明されました。野村総研の発表によると、労働人口の49%はAIで代替可能であると言われています。それに対して、AIによる代替可能性が低い100の職種も発表され、その中には、アートディレクター、デザイナー、クリエイターなどの職業が数多く含まれていました。それでは、デザイナーは今後も安泰なのでしょうか? 田中氏は「しかし、これまでと同じ仕事のスタイルで生き残っていけるのだろうか?」と語りかけます。

たしかに、人工知能や機械によって真っ先に代替されるのは、製造や販売などの現場作業がほとんどで、創造性が求められるクリエイターや、人に接する医師や保育士などはその可能性が低いと言われています。しかし20世紀から21世紀にかけて、デザインの役割は確実に変遷してきており、まずはそれを見つめる必要があると田中氏は述べています。

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拡大するデザインを整理する

そんな危機意識のもと発表されたのが、「デザイン経営」宣言でした。これは、田中氏も委員として参加する経済産業省・特許庁の「産業競争力とデザインを考える研究会」が2018年に発表した宣言。研究会では、20世紀型の狭義のデザインから、21世紀型の広義のデザインへと認識を改める必要があると結論づけられたそうです。

それでは、いまの世の中においてデザインはどのように拡大しているのでしょうか? 一言に「デザイン」と言っても、現在では、下記のどのモチーフと結びつくかによってまったく違ったものとして認識されているということができます。

(a)色彩・形態
(b1)UI/UX
(b2)サービスデザイン・ブランドデザイン
(c)ソーシャルイシュー SDGs
(d1)デザインエンジニアリング
(d2)デザイン思考・デザイン経営

田中氏は(b)のデザインを「対象」が、(c)のデザインを「テーマ」が、そして(d)のデザインを「プロセス」が拡大した例として、それぞれ整理しました。

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デザイン経営宣言の公式

その拡大の背景には、社会の変化があります。現代では、世界中に設置されたあらゆる「センサー」の数は1兆個を数え、平均的なインターネットの利用時間は3時間に及んでいると言われています。まさに、ネットワークとデータがすべてを飲み込む時代になったのです。

それに対応するべく、「デザイン経営宣言」では、下記のような公式が打ち出されました。

「デザイン経営」の効果
=ブランド力向上+イノベーション力向上
=企業競争力の向上

突き詰めて考えれば、デザインは「企業が大切にしている価値を実現しようとする営み」であり、その達成のために、「ブランド構築に資するデザイン」と「イノベーションに資するデザイン」のバランスこそが重要なのだと話されていました。

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それでは、その達成を可能にする「デザイン能力」とは何か。田中氏は以下のプロセスでそれを説明できると語ります。

(1)観察力(徹底した観察|深い洞察|対象の客観化)
(2)問題発見力(構造化し認識|利用者を代弁|仮説提示力)
(3)発想力(柔軟な発想|既存の否定|アジャイル)
(4)視覚化力(共有化ツール|認識支援|わかりやすさ)
(5)造形力(個性ある造形|質の高い品格|美の創造)

上記の(1)から(4)までがいわゆる「デザイン思考」と呼ばれるプロセスに必要な能力。それに対して(5)は、田中氏が「クラシックデザイン」と呼ぶプロセスに必要な能力。そして「デザイン経営」とは、(1)から(5)までをすべて見渡す視野を持った包括的な能力を指しています。

デザイン力を活用し、経営企画し、価値判断を行うこと。そのすべてが現代の経営者には求められているのです。

3つの「デザイン」の違いとは何か?

ここで再び、田中氏は「デザイン」という言葉の意味を整理するべきだと語ります。そこで来場者に投げかけられた問いは、以下の3つの「デザイン」の意味の違いとは何かというものでした。

デザイン家電
デザイン思考
デザイン経営

すべて今では一般的に使われる言葉になりましたが、それぞれの意味は異なります。

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まず、デザイン家電における「デザイン」の意味とは、上述した(5)のクラシックデザインにあたるもの。色や形を考える「デザイン」を指しています。 次に、デザイン思考における「デザイン」の意味とは、(1)から(4)までの発想プロセスにあたるもの。観察し、認識し、発想し、共有化するプロセス全体を指す言葉です。 そしてデザイン経営における「デザイン」の意味とは、先ほども述べた通り、(1)から(5)までを見渡す総合的な能力のこと。

デザイン家電=色・カタチ
デザイン思考=発想プロセス
デザイン経営=企画・運営・判断

と整理することができるでしょう。

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こうしたお話は、醤油瓶のデザインから、車両のデザイン、環境デザインに至るまで、包括的なデザインの現場に携わってきたGKならではの視点だと言えるのではないでしょうか。企業が大切にしている価値を実現しようとする営みとして、デザインの本質的な意味に迫るセミナーでした。

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