探訪!オートデスク株式会社
柴原 誉幸氏
スペースラボ株式会社
代表取締役
Iceberg theory HD
代表取締役
1978年三重県生まれ。大学の建設学科在学中にCGと出会う。卒業後は展示会デザイン事務所に勤務しながら、映像制作会社で映像ディレクターとして活躍しノンリニア編集などの技術を習得する。その後、NYで店舗設計、日本でインテリアデザインや建築設計などの経験を積み、2009年にスペースラボ株式会社を設立。3DCGを駆使した建築ビジュアライゼーション事業に始まり、現在ではデザイン広告やインダストリアルCG制作、バーチャルプラットフォームサービスなど、顧客のニーズを捉え広く3DCGとテクノロジーを融合したデジタルイノベーション事業を牽引する。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2024 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2024年11月1日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。今回は、業界の最前線でデザインやクリエイティブに挑戦されている方々による8本のセッションを行い、新たな創造の原動力をお話しいただきました。当日のセッションレポートをお届けします。
スペースラボ/iceberg theory HDは、デザイナーの最高のサポーターを目指して、CG パース制作から始まり、メタバースやAI 開発、さらには施工業へと事業を拡大してきました。現在この2つの企業を含め5社の代表を務める柴原誉幸氏が、急速な技術革新が進む社会における「デザイン×先端デジタル技術」の在り方を提案しました。
デザイナーのサポートを軸に事業を拡大
大学の建築学科を卒業後、展示会の設計施工会社に入社した柴原氏は、20代はインテリアデザイナーとして活動していました。2009年のリーマン・ショック時に起業を決意したときには「デザインで食べていくのは難しい」と限界を感じ、デザイナーの仲間たちをサポートする道を選びました。
創業当初は学生時代から得意としていたCGパース制作からスタートし、建築ビジュアライゼーションを手がけていったといいます。そこから派生して、メタバース領域のデジタルイノベーション事業も展開し、東京オリンピック時の「日本博」プロジェクトのバーチャル化や、Roblox上での企業コンテンツ制作などの実績を重ねました。さらに、グループ会社として、CG制作用パソコンやデジタルサイネージなどのハードウェアを扱う会社Cybaba、建築DXを追求する設計施工会社ドットハニカムを立ち上げるなど事業を拡大しています。
「我々のゴールとしては、まずパースの日本一を目指していました。2つ目の目標として、今は内装業界のDXの覇者になりたいと頑張っています」と柴原氏は語ります。
なぜメタバース企業が施工事業へ? BIMを活用したデザイナー支援
「なぜメタバースを手がけている会社が施工事業を始めたのか?」。柴原氏はマインドマップを画面に映し出しながら経緯を説明しました。創業時のCGパース制作から始まり、制作環境の重要性からパソコンの修理や販売を手がけ、IT人材が足りない業界の手助けをしているうちに、人手が足らないお店のためにタッチ式デジタルサイネージを取り扱うことになり…とマインドマップはどんどん展開されていきます。
そして近年、最先端技術がめまぐるしく登場する中、建築設計業界ではBIM(Building Information Modeling)が注目されます。国土交通省は2020年に「2023年までに小規模工事を除くすべての公共事業にBIM/CIMを原則適用する」ことを決定し、今後BIMを使って設計していくことが業界の既定路線となりました。そこで、BIM導入に困っているデザイナーをサポートしようと調べていく中で、BIMを最大限に活用するには施工まで一緒に行う必要があると気づきます。そこで施工事業へ参入するためドットハニカム社を立ち上げました。
BIMはとても便利な一方で、設計デザイナーにとっては導入による負担が大きい面もあるそうです。「デザイン設計」と「施工」で分けて考えた場合、BIMの利用で施工の方は負担軽減される分、デザイン設計の領域の作業負担が増えてしまいます。そこで、柴原氏が目指したのは、「デザイン」と「設計・施工」という分け方にして、BIMを使った設計・施工の部分を引き受けることで、デザイナーの負担を減らしデザインに専念できるためのサポートをすることです。
アナログな世界とAI活用は相性がいい -AI事業との向き合い方のヒント
さらに柴原氏は、施工事業の先には「リアル店舗とオンラインの店舗が連動しながら、新しい販売の形を作っていく」といった展開もあると語ります。そして、「アナログな世界とAI活用はすごく相性がいい」とAIを事業に活かしたい企業に向けてのヒントを紹介しました。
「AIは自分で自分を作れるぐらいまで進化している。デジタルなものはAIで作れてしまうので、すぐにコピーされてしまう」一方で、「元がアナログなものは、なかなかコピーできない」のが利点だと指摘します。リアルな施設を3D化するなど、アナログなものをデジタル化して、AIで最適化していくのがAI事業との向き合い方だと見解を示しました。
日本のデザイナーが世界で活躍するためのヒント
柴原氏は10年ほど前にCG制作のオフショアを目指し東南アジアを中心にさまざまな国を回っていたとき、同時に日本人デザイナーの海外進出の窓口を作る構想もあったと明かしました。そこで現地の人から日本のデザイナーにわざわざ依頼する理由を聞かれ、「きめ細やかな配慮もあるディテールの細かいデザインをする」と答えたものの、その良さを伝えきれなかった経験を話しました。
この経験をもとに柴原氏は、「食べログ」の評価になぞらえて日本のデザイナーの特徴を説明することを考えました。「食べログの3.0〜3.6は一般的なお店で、3.6〜4.0はこの店美味しいといわれるお店。日本のデザイナーは3.6〜4.0の高いレベルにいるけど、それは元々舌の肥えた人がわかる範囲」と指摘します。そして、「3.0〜4.0のデザインはAIでできてしまう時代になるので、4.0以上の『特徴的、とびぬけて美味しいお店』を目指す必要がある」と話しました。
そのためには、「その人しかできないような提案や、『バカパク(バカ+インパクト)』なデザイン、見たこともないようなデザインをやらない限りは難しい」「あなたでなければ意味がないところをやらなくてはいけないけれど、それができるとデザイナーの価値が上がっていく」とデザイナーの背中を押す発言をしました。
ゼロからイチを生み出せるデザイナーをリスペクトしているからこその、提言やヒントを語った柴原氏がスライドの最後に選んだ言葉は、「わたしは日本のデザイナーの皆さんに、世界で活躍してもらいたい」でした。そのためにはSNSなどで多くの人に知ってもらうことも有効で、「大きな声を上げる勇気、拡散する勇気を持ってほしい」と締めくくりました。
「デザイナーを助けたい」という一貫した思いから生まれた事業展開の軌跡と、AIやメタバースといった先端デジタル技術がデザイナーに与える影響。デジタル時代を生き抜くデザイナーのためのヒントが満載のセッションでした。
スペースラボ株式会社
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