design surf seminar 2019

みらいのふつうをつくるために

レポート

2019.11.28

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臼井重雄

パナソニック株式会社
デザイン本部 本部長(兼)アプライアンス社 デザインセンター 所長

1967年静岡県生まれ。日本大学芸術学部卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック)に入社。テレビ、洗濯機などのプロダクトデザインを手掛ける。アジア向け白物商品のデザインを担当後、2007年に中国(上海)に赴任。デザインセンター中国拠点長として組織を一から立ち上げ、現地発のデザインを生み出す集団へと成長させる。2017年よりアプライアンス社デザインセンター所長として京都拠点集約をはじめとする家電デザイン部門の変革を主導。2019年1月パナソニック全社のデザイン戦略を統括するデザイン戦略室の責任者に就任、同年4月にパナソニック全社のイノベーション推進部門のデザイン本部を立ち上げる。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2019 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2019年10月18日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。 4回目となる今回も、デザインをビジネスの側面から捉えた11本のセミナーを行い、たくさんの方に来場いただき盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

急激に変化する社会環境、多様化する価値がますます広がる中でデザインの役割は大きく広がっています。デザイナーは何を変え、何を伝えることが必要なのか。パナソニック株式会社 デザイン本部の本部長を務める臼井重雄氏に、みらいのくらしを描くための挑戦をお話ししていただきました。

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日本の家電メーカーの存在意義が問われている

昨年パナソニックは創業100周年を迎えました。社員約27万人のうち、デザイナーは400人。この年にヘッドクオーターを京都に移し、ロンドン、上海、クアラルンプール、ニューヨークにも拠点を持ちますが、家電を取り巻く環境には厳しいものを感じているとのこと。

特に中国メーカーの実力が飛躍的に高まっている中で、日本メーカーの存在意義が問われている。次に向けてどうするべきか会社全体で考えているそうです。臼井氏は2007〜2016年まで上海に赴任した間に、中国の急成長を目の当たりにしました。赴任当初は日本の家電を置いていた電気店も、いまは中国のものばかり。技術もデザインも格段に上がったのはもちろん、いまではオンラインビジネスが中心となり、電気店で家電を買うという行為すら変化している。一方、帰国の際、日本のあまりの変化のなさに衝撃を受けました。10年前と同じ環境で、同じメンバーが、同じソフトを使ってデザインをしている。そこに危機感を覚え、デザイン部門の改革に着手します。

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日本の伝統工芸が集まる京都に「Panasonic Design Kyoto」を開設

まず臼井氏は、滋賀と大阪の家電のデザイン部門を「Panasonic Design Kyoto」として京都に集約しました。滋賀は豊かな造形力がある冷蔵庫や洗濯機などのデザイナー、大阪はデジタルの知見が高いテレビやオーディオなどを担当するデザイナーと分かれていましたが、両者を融合することで単品からくらし視点のUXデザイン価値を高めるためです。

京都を選んだのは、日本を代表する文化都市で、デザイナーが伝統や文化を感じながら暮らすことにより、日本人ならではの感性を追求できると思ったこと。現在は社内外、国内外のクリエイティブハブになっており、京都の求心力を実感しているそうです。

技術よりも、感性価値の時代

お客さまの価値観も変化しています。以前はテクノロジーの進化が主流で、炊飯器であれば、IHからダブル IH、可変圧力 IH、シェーバーであれば3枚刃、4枚刃、5枚刃‥という開発でしたが、テクノロジードリブンだと、お客さまが求める以上のオーバースペックになりがち。炊飯器は何のためにあるのか。美味しいご飯を炊くため。健康的な食事をするため。あるいは家族が集うためかもしれない。大事なのは「感性価値」だと臼井氏は語ります。「どう感性に響かせるか、どのような体験をしてもらうかを考えなければなりません。いまやデザインの領域は拡大し、空間全体から人や社会との関係までを捉える必要があるんです」。

デザインプロセスを広げる、オープンにする

臼井氏はデザイン開発には「気付く、考える、作る、伝える」の4つのプロセスが必要だと語りました。以前のデザインの役割は「作る」が中心だったので、他を強化するためにデザインストラテジストやUXデザイナー、デザインエンジニアなどを入れて部門も新しく編成。

また、デザインの先行開発レビューをオープンに行い、デザイナー以外も参加してもらうように呼びかけました。「デザイナーは最終形態を突然発表する秘密結社ではなく、開発段階からいろんな人を巻き込み、多角的な議論を行う。すると社内にもデザインが理解しやすくなり、決定もしやすくなる。外部のデザイナーが参加するデザインディレクションレビューも実施し、新しい視点やフラットな意見を交換することで、仕事の質を向上させています」。

日本らしさを軸にしたイノベーション

既存のデザイン開発だけでなく、デザイン主導でミラノサローネに出展したり、イベントを企画したり、京都の伝統産業との共創プロジェクトを進めることもしています。京都移設を進める中で「伝統工芸は日本のものづくりの原点である」という松下幸之助の言葉が指針になったそうですが、パナソニックのイノベーションも日本らしさから起こるべきだと強調されていました。

若いデザイナーを活かす「FUTURE LIFE FACTORY」

若いデザイナーを集めて、東京に「FUTURE LIFE FACTORY」も作りました。2年間好きなことをやっていい。「人の暮らしを豊かにできるか、社会を幸せにできるか」を核にして、あとは自由にやる。メンバーと毎週話す中で、面白い取り組みや新しいネットワークの紹介など、周りにもいい影響を与えているのを感じるそうです。クラウドファウンディングで商品化したワイヤレスヘッドホン、段ボールキットで販売するベータ版プロダクトなど、届けることまでを一気通貫でやる事例も増え、いま社内には新しいものを生み出しやすい空気があると言います。

みらいのふつうを作り、笑顔あふれる社会に

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パナソニックのデザインフィロソフィーは、「Future Craft」です。京都の伝統工芸の精緻なモノづくりを活かして新しい体験を提供するワイヤレススピーカー「響筒」や、ヴィトラと透明ディスプレイを作ったのもそう。店頭で目立たせたいというのは売る側の都合で、目立つテレビを家に置きたいかというと話は別。むしろ空間ではノイズになる。そういうものを徹底的に精査して、散らかっている生活をあるべき姿に戻す。グローバルも、デジタライゼーションも、イノベーションもやるけれど、何よりも人間中心であること。人間にとっての快適な暮らしを真剣に考えること。パナソニックは多数の事業や商品を手がけているので、パナソニックが変わったら日本は変わる、というお話をみな真剣に聞いていました。

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