探訪!オートデスク株式会社
賀東敦氏
東映アニメーション株式会社
経営管理本部 情報システム部 課長
1973年生まれ。東京下町在住。ミュージシャン/音楽制作業フリーランスを経て、2004年より東映アニメーション株式会社情報システム部勤務。2015年製作部への異動を機にBox導入。以降「東映アニメで働くすべての人たちに『生産性を高める環境』を用意する」をキーフレーズにクラウド活用によるユーザビリティの向上を提案し、これらの運営実施を絶賛活動中。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2020 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2020年11月3日(火)~6(金)にオンラインで開催しました。環境が激変した今年のdesign surf seminarは、より身近でよりいまに近い「ビジネスやクリエイティブ、デザインという仕事のいまを共有し合おう。」をテーマにしました。今年は全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。
東映アニメーション株式会社のIT環境整備に奔走している賀東敦氏が、近年取り組んできたサービス、ツールの導入に関する経緯や効果を紹介しました。
制作現場や会社全体を納得させるために情報管理部門が取り組むべき姿勢など、経験を元にした説得力のある話は多くの人のヒントになったことと思います。
まずは現場を便利に
セミナーは、2015年から現在までのITに対する取り組みを年代別に解説するところから本編がスタートしました。2015年、製作部に異動した賀東さんが取り組んだのが、当時の製作現場におけるIT上の課題を解決することです。データ量の増大や機密性の高いファイルの取り扱い、機器の保守管理上の問題など数々の課題を解決するためBoxを導入。情報システム部で検討していたときには見送りとなっていたBoxですが、現場の生産性を向上させることを第一に徐々に導入していったそうです。
管理部門がいきなりツールの切り替えを強要すると反発や不満が起こりがちなので、まず現場を便利にしてあげることが大事で、その上で段階的にソフトランディングさせることで導入効果が出たとのことでした。
iPadで製作を行う取り組みに合わせデバイス管理ツールを導入
その後、年ごとに様々な改革をしながら、2018年にはiPadでアニメーション製作を行う取り組みが製作部門で始まりました。2017年に情報システム部に帰任し、iPhoneを配布して内線化することでランニングコストや固定費を削減する試みなどを行っていた賀東さんは、iPad導入と合わせてAppleデバイスの管理ツールJamf Proの導入を進めました。
Jamf Proは、iPadに社内専用のアプリを配布するために必要ですし、不十分だったMacの管理も強化できるということで、複数の課題をセットで解決する絶好の機会と思ったそうです。
Jamf Proを導入することでiPadに関するITサポートが大幅に減らせたとともに、次のステップとしてiPad、Macの管理も実現。情報システム部によるキッティング漏れで必要なツールが使えないというトラブルが大幅に減少しました。
iPhoneデバイス管理MDMのリプレースとSSOツールの導入
導入してユーザーのためにならないものは、潔く切り替える考え方も大事という例として、iPhoneの管理ツールを別製品にリプレースした事例を紹介しました。ゆくゆくはJamf Proに統合も検討したいとのことですが、社内システムへのアクセスなどの仕様重視で適材適所でMDMを採用されています。
また、同じく2019年には、ID管理ツールのOktaを導入しました。シングルサインオン(SSO)を実現したことで、煩雑なパスワード管理が不要になることで業務効率が著しく向上したそうです。
現場のスタッフには自分の仕事をするために時間を使って欲しいという希望がOkta導入時にありましたが、結果としてシステム管理者の業務負担も軽減されることになりました。
緊急事態宣言でSlackの利用申請が殺到
2019年の終わりに公式のメッセージングプラットフォームとしてSlackを採用し、フリープランを利用して暫定ルールで運用を始めました。これは、現場で業務を推進している人たちからの要望が多かったからだそうです。
賀東さんは、集団の中の上位層に合わせて運用デザインしていくことが大事だと強調します。下の層に合わせると上位層の人のスピードも遅くなり、業務も遅くなることで会社が停滞してしまう恐れがあるからだと説明しました。
新型コロナウイルス感染拡大で2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されると、Slackの利用申請が殺到しました。その際に、先行して利用していたSlackに詳しいメンバーが運営をデザインする側に回ってくれるという「ミラクル」が起きたそうです。
率先してツールを使いこなす上位層である「トップランナー」は、スピードを上げて仕事を進める文化や考え方を持っているので、「そんな彼らのやり方に身を委ねるのも答えのひとつ」という柔軟な考え方も、システム管理のヒントになることでしょう。
2020年、クラウドシフトが進む
コロナ禍の2020年には、Slackの有料版Slack Enterprise Grid、Zoomと立て続けに導入を進めました。ほかにもNetskope、Zendesk、Asanaなどを導入構築中で、クラウドシフトが進んでいます。
これらのツールは、既に導入していたBox、Jamf Pro、Oktaの基盤の上に成り立つものと位置づけており、導入のインパクトが大きいこれらの製品が先に入っていたことで、新たな取り組みが進めやすかったそうです。
2020年度の予算を決める部内の会議で出した資料や、今後の認証制御とBYODのイメージを共有する部内検討プランの資料といった、貴重な資料も惜しげなくスライドで見せていただきました。
東映アニメで働くすべての人たちに、生産性の高い環境を用意するというキーワードで、部内、社内に提案していきたいという言葉も印象的でした。
現場力の最大化とは?
セッションのタイトルにも入っている「現場力の最大化」については、単体製品で実現できるものではなく、全体がハッピーになれるようなゴール設定、そして軌道修正と肉付けが必要と解説しました。
一気に現場力が上がることはないので、複合要因で上げていけるよう、クリエイターも会社もハッピーにする仕掛け作りも大事とのことです。
セッションの冒頭に最近気に入っている言葉として引用した「増やしたいのは笑顔です」というアートネーチャー様の会社の理念として知られるフレーズを、みんながハッピーとなるゴールに向かうよう情報管理部門が取り組む姿勢として最後にもう一度引用した演出も印象に残りました。
セッションの最後は質疑応答の時間です。視聴者からの質問が多く寄せられ、「システム導入を経営者・役員に納得してもらうためのキーワードはあるか?」「IT製品の情報収集をどうしているか?」などの質問に、時間ギリギリまでひとつひとつ丁寧に答えていただきました。
design surf seminar 2020 記事一覧
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- コロナが加速させたバーチャルビジネスの新潮流
- 現場力を最大化させるクラウドシフトって?
- Adobe MAXから読み解くクリエイティブ環境のこれから
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