design surf seminar 2020

エンドユーザーとの対話から生まれる空間デザイン~過去・現在・未来~

レポート

2020.12.21

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創業100年以上の歴史を持ち、常に日本の空間づくりをリードしてきた乃村工藝社。従業員数はグループ総勢約2,600名で、営業、プランニング、デザイン、制作などの部署があります。同社の育休明け社員で構成された「Team M」は、2015年に発足。空間づくりと育児の経験を活かした企画デザインの提案、産学連携の調査研究などさまざまな活動を行ってきました。本セッションでは営業職の⻄本彩氏、井部玲⼦氏、デザイナー職の松本⿇⾥氏をお迎えし、3つの事例を紹介。進行はフューチャーセッションズのファシリテーターであり、3歳児のパパでもある上井雄太氏が務めました。

当事者だからわかる、ほんとうにうれしいベビー休憩室、キッズスペース

2009年、2012年と2回の育児休暇を取られた西本氏。乳幼児を連れて外出するようになり新たな景色が見えてきました。例えば暗くて殺風景な授乳室。建物の隅っこにカーテンと椅子があるだけで、まるでお仕置き部屋のような趣だと思ったそう。キッズスペースも子どもの楽しさは考えられてはいても、親は座る場所すらないこともあり当時は必ずしも居心地がよいとは言えませんでした。もっと親子でいい時間を過ごせる空間があるのではないか。育児休暇中に考えたこと、職種や会社を超えて同じ視点を持ったママたちと繋がったことが、Team Mとしての仕事に活かされていきます。

そのひとつが、ららぽーと湘南平塚。ソファにもたれながら授乳ができるベビー休憩室、フォトスポットになるような楽しいデザインのファミリーコーナーは、ママだけではなくパパ、祖父母、兄弟姉妹までも気持ちよく包み込む空間に。2019年に竣工したららぽーと沼津でも家族のための空間づくりをテーマに「こにわハウス」や「こもりらのもり」を企画・デザインし、赤ちゃんから大人までの居心地を考えたママ目線の工夫を随所に施しました。

こもりら03_1.jpgららぽーと沼津「こもりらのもり」

子連れでもしっかり働けるオフィスを作ろう

とある研究所から、「子連れで働ける場所を作りたい」というお話をもらった井部氏。在宅勤務制度はあっても、短時間だけ出社の必要があるが、どうしても子どもを預けられない。そんなニーズに応えるために、まずは「子どもと一緒に働く場とは?」をテーマに社員の方々とディスカッションするところからスタート。子連れ出勤をする社員だけではなく、その上司とも対話を重ねたことで、「子連れOKのワークスタイルそのものを知らせていきたい」という要望が見えてきます。

結果、ガラス張りの開放感あふれる空間が誕生。子どもが過ごす和室、子どもが隣にいても大丈夫な打合せスペース、仕事に集中できる作業スペースとゆるやかに空間を分け、さまざまな年齢の子どもにとっても、社員にとっても使い勝手のいい場を目指しました。乃村工藝社社内でもトライアルを実施してみるなど、Team Mというフレームがあることで仲間が見える、協力者が募れる、やりたいことを実現できる。そんな風土もでき始めてきたそうです。

おやこWP01_1.jpg

プロセスをともに歩むことで、新しい駅づくりを自分ごとに

デザイナーの松本さんがプレゼンテーションされたのは、宮崎県日南駅のリニューアル案件です。車社会でそもそも駅利用が少ない地域だったため、新しいコミュニティ機能を持たせることで、駅の未来が描けるのではないかと考えました。ここで大切にしたのもユーザーとの対話。駅の主な利用者である高校生はもちろん、育児中のママ、小中学生やその保護者など、多世代にわたって「どんな駅があると良いか、駅で何がしたいか」をワークショップでの対話を通じて共に考えました。地元の小学校にも協力してもらい、アンケートも実施。リニューアルが完成したときに「いつの間にか駅きれいになってるね」ということではなく、地域の方々に計画段階から自分ごとになってもらえるようなプロジェクトの進め方を心がけました。新駅舎は2020年4月にオープンしたばかり。大切にしたくなるみんなの居場所として徐々に育っていくことが期待されます。

日南ワークショップ03_1.jpg地域の方々が参加したワークショップの様子。

Team Mの根幹は、生活者としていい未来を目指すこと

ベビー休憩室やキッズスペース、オフィス、駅とさまざまな空間を世に出してきたTeam M。6年間の活動を通して認知度も広まってきたことや、育児休暇から復帰するママたちが増えていることもあり、各プロジェクトに携わるスタッフ層にも厚みが出てきました。Team Mの根幹は、未来を担うこどもたちとその保護者をはじめ多様な方々に、より良い空間と経験を提供する、子どもたちに繋ぐ未来をいまよりもよくしたいという思い。クライアントとも発注受注の垣根を超えて、子育てをしている立場として同じ目線を持ち、本音で話し合うことでTeam Mらしい空間づくりを実現しています。いま世の中に起きていることに対して疑問を持ったらきちんと向き合う。そのシンプルな感覚を大切に、これからも挑戦を続けていきます。

ビジネスパーソンであるとともに、生活者として、一人の親として、できる空間づくりがある。名刺には書いていない“母親” という視点が活きたプロジェクトからは、仕事と子育てを含めたライフそのものを力にしている女性たちのしなやかな強さを感じました。


株式会社乃村工藝社

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