design surf seminar 2020

パーソナル×ソーシャル ひとりの小さな表現が社会にもたらすもの

レポート

2020.11.26

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小池アミイゴ

イラストレーター

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2020 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2020年11月3日(火)~6(金)にオンラインで開催しました。環境が激変した今年のdesign surf seminarは、より身近でよりいまに近い「ビジネスやクリエイティブ、デザインという仕事のいまを共有し合おう。」をテーマにしました。今年は全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

イラストレーターの小池アミイゴ氏をお迎えしたセッション「パーソナル×ソーシャル ひとりの小さな表現が社会にもたらすもの」が開催されました。聞き手は、リキテックスなどの画材を扱うバニーコルアート株式会社の伊藤夕子氏。東京・代々木八幡駅のガード下に小池氏が展開した壁画プロジェクト「とみがやモデル」の話題を中心に、自分の表現を活かして社会に参画してきたこれまでの取り組みや、人との接点づくり、子どもたちとのコミュニケーションなどについてお話しいただきました。

東京に子どもたちの「故郷」をつくる

小池氏は、1962年群馬県生まれのイラストレーター。1988年よりフリーで活動を開始し、書籍や雑誌、広告に加え、クラムボンのアートワークなど音楽家とのコラボレーションも数多く手がけてきました。1996年には音楽イベント「OurSongs」を始動。デビュー前のクラムボンやハナレグミを始めとするアーティストの実験場として機能するなど、従来のイラストレーターという枠組みを超えた多彩な活動を展開しています。

そんな小池氏が近年盛んに取り組んでいるのが、東京・代々木八幡駅のガード下を舞台にした壁画プロジェクト「とみがやモデル」の企画・監修。バニーコルアートが取り扱うリキテックスの画材提供を受けながら、2018年から2年間にわたり、近隣で暮らす渋谷区立富谷小学校の児童とともにガード下を彩ってきました。

きっかけは、お子さんの「故郷」を意識したこと。長年にわたり代々木エリアで生活している中で、小学校に通うお子さんの成長を前にふと「この子にとってはここが故郷になるんだな」と考えたことがあったそうです。「東京」ではなく「代々木」というスケールで見ると、代々木には代々木のローカリティがあり、「この子の故郷を良くするためにできることは何だろう?」と考えるようになったことがプロジェクトを始める出発点になったそうです。

プロジェクトは話題となり、すぐに地元で注目を集めるようになりました。この背景には、近年日本各地で高まっている、「自分の暮らす地域を改めて見つめ、より良くしたい」という機運があったのではないかといいます。

「2000年代以降、日本全国でいろいろなイベントをしてきました。特に東日本大震災以降、東北各地で作品を制作してきました。けれど震災を境に、今こそ地域に向き合い直そうというニーズが高まってきて。それで自分自身、現在暮らしている場所で同じことを実践できているのか自問するようになりました。ぼくにとって東京は「地元」ではないけれど、これからを生きる子どもたちにとってはそうなりうる。だからこそ、自分が今暮らしている地域をより良くしたい。ほかの土地を見て回る中で、そういうことに気づかされました。」

こうした想いと「イラストレーター」という職能が掛け合わされることで、子どもや地域住民を巻き込んだ「交流の場としての壁画をつくる」プロジェクトがスタートすることになりました。

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「とみがやモデル」が提案する「自ら発見するプロセス」

小池氏は、壁画制作を通じて一人ひとりが地域への「当事者意識」をもてるようになることを目標に掲げました。東京都心部は他地域からの転入者が多く、人の入れ替わりも激しいことから、地域のコミュニティが形成されづらい。だからこそ、小池氏は自ら壁画を描くのではなく、地域で暮らす人々と子どもたちにその作業を担ってもらうことを選択。壁画=場所をつくりあげる「共犯者」になってもらいたいという狙いのもと、壁画プロジェクト「とみがやモデル」が立ち上がりました。

聞き手の伊藤氏も、「現場を訪れるたびに新たな参加者が増えていて、みんな能動的で生き生きしていたので「やらされている感」はまったくありませんでした」と振り返ります。

そんな「とみがやモデル」では、小池氏は自らを「ペインティングリーダー」と呼んでいます。これまでにもさまざまな現場で子どもの創造力に感化されてきた小池氏は、今回のプロジェクトでも「子どもが創造力を発揮すること」を何よりも大切にしたとのこと。その真意は次のようなものでした。

「子どもたちは「大人のために何かしてあげよう」ということをすごく考えています。「これをやるとお父さん/お母さんが喜んでくれる」という意識が実は強いんです。だからまずはその意識から解放させてあげたい。そこで「普段なら怒られるようなことをしてもいいよ」と言い、「本当に楽しいことは何?」と問い掛けました。」

このように、小池氏が一貫して大切にしているのは「その人が自ら発見する」というプロセス。したがって、壁画制作にあたっても「自由に描こう」ではなく「自由って何?」と問いかけ、子どもたちが「(自分にとっての)自由を発見していくこと」を促したそうです。

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関わった人々の「良い顔」をつくるには?

「とみがやモデル」は反響を呼び、2020年には、創立90周年を迎えた渋谷区立富谷小学校の構内でも生徒と共同で記念壁画を制作することになりました。さらに、肢体不自由者のための教育機関としては日本最古の歴史をもつ都立光明学園とも壁画制作のコラボレーションを実施。静かながらも確かにその反響は広がっています。

光明学園とのコラボレーションにおける印象的なエピソードとして、小池氏はある女の子との出会いについても話してくれました。

それは5メートルほどもある巨大な壁に絵を描いていたときのこと。筆先に黄色がのせられた小さな筆を手にした女の子が現れ、ちょんとその色を置いた瞬間、大きな画面全体がまるで生まれ変わったかのように輝いて見えたそうです。

しかし、それに気が付かなかった先生が「こっちにおいで。もっと大きな筆に変えて表現を爆発させよう」と促しかけましたが、それを何とか制止して「この黄色が最高なんです。この黄色の良さを共有しましょう」と交渉。それを見た女の子も勢いづき、最終的には全ての作業が終わったあとにその子が一筆を置き、再び作品が劇的に生まれ変わるということがあったそうです。

そのとき、もし先生が女の子に筆を持ち替えさせていたならば、きっとその子の視点は抑圧されていたはず。小池氏が行っているのは、全員がもつそれぞれの視点を生かす形で、それぞれの人が自らの軸を発見する手助けをするということ。それがうまくいったとき、小池氏は「人の心が開かれてポンと浮かぶアイデアに出会うと、何よりもハッピーになれますね」と満足そうに話していました。

セッションの最後には「手探りのアプローチだからこそ、正解の判断基準をつくることも難しいのでは?」という質問も投げ掛けられました。それに対して小池氏は「関わったみんなが良い顔をできるようになることが大事」と述べ、続けて以下のように語ります。

「ぼく自身も完成形が分からずに取り組みながら、どこかのタイミングで「ここにいる自分が好きだな」と思えたときに嬉しくなります。だから、そう思える人が一人でも増えたら良いな、気持ちが救われる人を増やせたら良いなと思っています。」

最後に、モニターには完成した壁画を前に立つ小池氏の写真が。確かに、そこに映る小池氏はとても「良い顔」をしていました。

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小池アミイゴ氏
富ヶ谷町会
バニーコルアート株式会社

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