探訪!オートデスク株式会社
薬師 忠幸氏
株式会社豊田自動織機
トヨタL&Fカンパニー デザイングループ グループ長
1996年武蔵野美術大学卒業、同年豊田自動織機入社後、トヨタのカーデザイン開発に従事。欧州デザイン勤務を経て、2006年に産業車両デザインに異動し、フォークリフトやトーイングトラクタなどの製品デザインや先行デザインを担当。2020年産業車両デザインの責任者に就任。グッドデザイン賞、iF賞、RedDot賞、DIA、機械工業デザイン賞など多数受賞。空気エンジン車での世界速度記録を持つ。
佐々木 望氏
株式会社豊田自動織機
トヨタL&Fカンパニー デザイングループ デザイナー
2019年千葉大学卒業、豊田自動織機入社後産業車両デザインに従事、フォークリフトなどのプロダクトデザインだけでなくUI/UXデザインやキャラクターデザインなど幅広く活躍中。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2021 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2021年11月2日(火)・4(木)・5(金)の3日間オンラインで開催しました。今年のdesign surf seminarは、よりリアリティのある形で、次の時代への取り組みをテーマにしたセミナーが集まりました。全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。
「トヨタのデザイン」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはヤリスやカローラ、スープラといったクルマのデザインでしょう。しかし世の中には、街を走る乗用車以外にも「TOYOTA」のロゴが付いた乗りものが走っています。それは港や空港、工場など物流現場の働くクルマ。そんな業務用、つまりBtoBの製品には、一般消費者向け(BtoC)とはまた違ったデザインが要求されます。そんなBtoBデザインの世界について「もう一つのトヨタデザイン ~BtoBデザインの挑戦~」と題し、株式会社豊田自動織機で産業車両を手がけるトヨタL&Fカンパニーデザイングループのグループ長である薬師忠幸氏とデザイナーの佐々木望氏にお話しいただきました。
BtoBデザインを盛り上げていきたい
「BtoBデザインは、なかなか日の当たる場所に出ることがなく、いつも地味な場所で仕事をしている」と薬師氏は切り出しました。そんな中、一般人による3日間の宇宙旅行を成功させた宇宙ベンチャーのスペースXが、これまで機能一辺倒だった宇宙船にデザインを持ち込んだと紹介。彼らに続き、BtoBデザイン全体を盛り上げていきたい、と意気込みを語りました。
そんな薬師氏、佐々木氏が所属するトヨタL&Fカンパニーは、トヨタグループの産業車両を手がける部門。空港などで重量物をけん引するトーイングトラクターや無人搬送車(AGV)、フォークリフトなどの商品を作っています。
2021年度グッドデザイン賞のベスト100を獲得した自動運転の電動トーイングトラクターには、地面の凹凸を手がかりに自車位置を特定して走行できる機能が搭載されています。コンテナ船から降ろした巨大なコンテナを運ぶAGVは、重さ50トンの貨物を積んだ状態で、誤差2cmという高精度で停止できる性能を誇ります。
デザインが作り手への信頼をかき立てる
そんな産業車両のデザインには、どのような要件が求められるのでしょうか。薬師氏は、水素をエネルギー源とした燃料電池で走行するトーイングトラクターのコンセプトモデルを例に挙げて説明しました。
トーイングトラクターは、ときに他の車両や障害物に衝突することもある過酷な環境で使われるもの。そこで外装は25mmもの厚みがある鉄板で作られています。プレスで自由に成形できるような素材ではないため、あえて隙間をデザインに取り入れて形を成立させた、と説明しました。
同社が世界一のシェアを誇るフォークリフトにも、デザインの工夫があります。フォークリフトは狭い倉庫内を走り回って荷物を運ぶので、どうしても壁や障害物と衝突することが多くなります。フォークリフトの後部は当然のようにキズだらけです。そこで新型のフォークリフトでは、一般的なクルマのバンパーに該当する部分が5mmほど飛び出たデザインを採用。キズがつく範囲を限定することに成功しました。
またフォークリフトのカラーリングも、機能性に基づいています。オペレーターの視界に入る部分は視覚的ノイズを排除するためダークグレーに。汚れやすい場所もダークグレーとして汚れを目立たなくしています。一方、車体の後部には周りに注意を促す警戒色としてオレンジを採用。フォークの先端もオレンジとし、位置を把握しやすくしています。
薬師氏は、「細部がきれいに仕上がっていると、それだけで少し使いやすそうに見える」という著名デザイナーで東京大学教授の山中俊治氏の言葉を引用。デザインを工夫することで「ユーザーからの作り手への信頼を得られる」といいます。BtoBでは、ユーザーの物欲をかき立てる代わりに、信頼をかき立てることがデザインの役割だと強調しました。
付加価値のある未来を描く
デザインのもうひとつの役割は、柔軟な発想で付加価値のある未来を描くことだと、薬師氏。「真面目にフザケル」を合言葉に、アイデアを可視化し、「触れる(さわれる)化」することでアイデアの解像度を上げ、分かりやすく伝えているそうです。
そんなコンセプトが反映されたプロトタイプのひとつが、佐々木氏が手がけたサイネージロボットの「SIGNAiR」(サイネア)です。SIGNAiRは、CGを映す半透明ディスプレイを搭載した自走式ロボット。例えば空港などで、目的地までお客さんを案内するガイドなどの使い道を想定しています。
実機が動く様子を同社高浜工場からライブ中継で紹介しました。「半透明ディスプレイにはフチがないので、映像で見る以上に実在感がある」と佐々木氏。前部に搭載したレーザーセンサーで周囲の障害物や人物を検知し、衝突を回避しながら走行します。
ボディにも半透明の素材を用い、目を引く外観に。時刻などを表示するサブディスプレイは、メインディスプレイを支える役割も果たしています。施設内の道案内だけでなく、展示会などで展示物を説明することも可能です。
このSIGNAiR、もともと同社の製品である「AiR-T」という物流ロボットをベースに開発されました。障害物や人にぶつからずに動き回れるという特長を生かし、サイネージロボットというアイデアを「触れる化」したものです。ほかに配膳ロボットや荷物運搬ロボットのコンセプトモデルも作られました。
「触れる化」することで、頭の中に浮かんだアイデアにリアリティを持たせ、議論の活性化を促すことができると薬師氏。「信頼をかき立てる」「付加価値のある未来を描く」という2つの役割をさらに追求し、BtoBデザインをさらに盛り上げていきたい、と力強く語りました。
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