探訪!オートデスク株式会社
山崎 晴司氏
代表取締役社長
1991年TCD入社、2020年より現職。企業ブランディングから商品ブランディングまで幅広く従事。特に化粧品や食品、生活雑貨などのプロダクトデザインやパッケージデザイン開発を多く経験。また、デパ地下や駅ナカで展開するスイーツ・ブランドの新規立ち上げやリ・ブランディングも手掛け、コンセプト開発から店舗デザインまで、総合的なデザインプロデュース事例も多数。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2021 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2021年11月2日(火)・4(木)・5(金)の3日間オンラインで開催しました。今年のdesign surf seminarは、よりリアリティのある形で、次の時代への取り組みをテーマにしたセミナーが集まりました。全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。
モノが溢れ、変化の激しい時代。消費者が本当に欲しいと思えるブランドや商品を開発することが、ますます難しくなっています。本セッションでは、株式会社TCDの山崎晴司氏により、企業とデザイナーの共創でブランドを成功させる鍵をお話しいただきました。
変化の時代にブランドが成功するには
「VUCA」の時代と言われる現代社会。デジタルの進化や昨今のコロナ禍も相まって、人々の価値観や欲求は凄まじいスピードで変化しています。次々と生まれる欲求に対応しきれていないブランドは少なくありません。そんな状況下で、クライアントから依頼を受けたときにTCDでは「まずは商品を強くすることから考えましょう」と答えるそうです。商品自体の魅力を十分にブラッシュアップし、プロモーションを連動させてイメージを作る。これが理想的なブランド開発の流れだと言います。
新たな商品やサービスを開発するために必要になってくるのが「顧客価値のイノベーション」です。このイノベーションに外部のデザイナーが加わることで、いつもとは違った視点で企業が抱える課題を眺められると山崎氏は語ります。
デザイナーの力を活用する
新しい顧客価値を創出するために、企業とデザイナーの共創で重要なこととして
1)ニーズではなく「インサイト」を掴むこと
2)「カタチ」にして評価していくこと
の二つが挙げられました。
1)のインサイトとは、顧客の隠れた欲求でありホンネです。顕在化しやすいニーズはすでにどこかで形になっている一方、インサイトをつかむことで、これまでにない商品やサービスの発案が可能になります。「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という有名な話を一例に挙げ、「穴を開けたい」のはあくまでも顧客のニーズだと言います。この場合インサイトにあたるのは、「なぜ自分で本棚を作ろうとしたのか」の動機部分です。ドリルを買うお金と作る時間があれば本棚を購入した方が早いのではないか。もしかしたら、家族に格好良いところを見せたいのではないか。そういったことが、インサイトとして仮定できます。
2)については、これまでにない斬新なアイデアは、カタチにしてこそ賛同を得られると語られました。言葉から想像する中身は人それぞれまったく異なります。アイデアを視覚化して、共通の認識を持つことが非常に大切です。実際にTCDは、開発担当者が考えたアイデアの種を、商品化を想定したパッケージや製品のプロトタイプを作って提案することもあります。
インサイトを掴んでカタチにして評価するフローは、現在のように変化が激しい時代においては、スピーディーに行う必要があります。これを実現するためにも、デザイナーが早い段階で参画することで新しいアイデアの開発が期待できると言います。さらに外部のデザイナーは、消費者により近い感覚で発言できます。TCDがブランディングをお手伝いするときには、「ブランドとは顧客の頭や心の中にあるイメージの総合体だ」とクライアントに説明し、客観的な視点を大切にしているそうです。デザイナーという職業柄、新しいことやおもしろいことを常に観察しているという強みも含め、自社のブランドや商品のパワーアップのためにはぜひデザイナーの力を活用してほしいと強く語りました。
隠れた欲求を視覚化した「WAYOWAN」のブランディング
TCDがコンセプトの立案からデザイン、プロモーションをトータルで手掛けた「WAYOWAN」の事例が挙げられました。このプロダクトは、アサヒ興洋の新たなヒットとなった、これまでにない食器シリーズです。
お椀は食の多様化から使われる機会が減り、売り場には活気がない状態が続いていました。今回のプロジェクトではそんな課題を解決すべく、顧客の隠れた欲求を見つけ言語化と視覚化を繰り返してアイデアを詰める、TCDの「顧客価値創造サイクル」に沿って開発が進みました。
初めに行ったのは、お子さんを抱えるデザイナーたちを集めた座談会です。日々仕事をしながら食事を用意しているメンバーからは、おかずの品ぞろえを豊富に見せたい、テーブルをきれいに見せたい、たくさんの食器をスッキリ収納したいなど、さまざまな意見が出されました。そこから導き出されたコンセプトは「家族みんなでどんな食事シーンにも使えて収納もキレイにできる食器」です。ヘビーローテーションしている食器のサイズ感やデザインを調べ、モックアップを作り、アサヒ興洋の取引先を含めさまざまな人からフィードバックをもらいました。
完成したデザインの特徴は、入れ子であるという点。食べる量も手の大きさも違う子ども、お母さん、お父さんそれぞれに合ったサイズが揃いながら、キレイにスタッキングすることができます。TCDがブランディングの上流から参画し「モノの力」を強くした結果、デビューから5年がたった今もデザインの拡充が続くヒット商品となりました。
企業とデザイナーが手を取り合う
1991年にTCDに入社した山崎氏。もともとは、グラフィック主体のパッケージデザインチームに所属していました。とある製品のパッケージデザインを手がけた際に、製品を見て「これはもう売れないな。それなら自分でデザインするしかない」と思ったことが、プロダクトデザインを始めたきっかけとなったそうです。徐々に携わるプロダクトが増え、約100商品を同時に発売する大型プロジェクトにもコンセプト開発から参画するようになりました。その後もお菓子専門店のネーミングを担当したり、スイーツ店のプロデュースの際には、店員が着用するエプロンを趣味であるレザークラフトを活かし自身で縫うこともあったそうです。
これらの事例は、クライアントの理解に恵まれたからこそ成功例として数えられていると振り返りました。それを踏まえクライアントにも、デザイナーをチームの一員として組み込んで、さまざまなシーンで能力を活用してほしいと語ります。また、クライアントに貢献したいという一心で取り組んださまざまな挑戦が、自分のデザイナーとしての成長につながったと山崎氏は振り返ります。現代社会でブランドを成功させるための企業とデザイナーの理想形が語られた本セッションの最後は、「デザイナーはプロフェッショナルであれ!」という力強いメッセージで締めくくられました。
株式会社TCD WAYOWAN
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