design surf seminar 2022

シビックデザインへの挑戦:"市民によるデザイン"から見えた可能性

レポート

2022.12.22

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小山田 那由他

株式会社コンセント
サービスデザイン部門 ストラテジックデザイングループ マネージャー
サービスデザイナー / コンテンツデザイナー

コミュニケーションを設計する人。東京造形大学視覚伝達専攻卒。 デザイナーとしての経験から培った、デザイン思考、コンテンツデザインのスキルを生かしサービスデザイナーとして企業・行政組織のサービス開発・改善支援、デザイン組織化支援に従事。武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2022 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2022年11月1日(火)・2(水)・4(金)の3日間オンラインで開催しました。今年のdesign surf seminarは、デザインビジネスやクリエイティブの原動力になりそうなセミナーが集まりました。全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

「一人ひとりの市民にも課題解決アプローチとしてのデザインが重要になるはず」そんな想いから小山田那由他氏は、市民によるデザイン=シビックデザインにチャレンジしています。これまでの取り組みや、そこで見えてきたデザインの可能性や課題について話しました。

「デザインでひらく」と「デザインをひらく」

小山田氏の所属するデザイン会社コンセント。1971年の創業以来、社会の動きをとらえながら未来をみすえてデザインの価値を社会に提案し、ミッションとして「デザインでひらく、デザインをひらく」を掲げて活動しています。

「デザインでひらく」はデザインで新しい価値を生むことです。サービスデザインの視点と技術をもってより良いユーザー体験を作り、それを維持する仕組みを作る仕事をしています。一方、「デザインをひらく」はデザインを新しい領域に届けることです。1つのチャレンジとして、サービスデザインを公共の分野にひらいていく活動も行っています。

小山田氏が公共に目を向けたきっかけは、公園のベンチでした。公園という生活に密接する“サービス”のデザインの意図を何も知らないことに気づき、気になって行政職員から話を聞いたことがはじまりです。これを機に社内でPUBLIC DESIGN LAB.という活動を始めて、公共とデザインのあり方を探索していきました。

公園のベンチをきっかけに公共に対する認識がリフレーミングされた
公園のベンチをきっかけに公共に対する認識がリフレーミングされた

府中市でシビックデザインに挑戦

小山田氏は今、東京都府中市の地域課題解決プラットフォーム「みんぷら」でシビックデザインに挑戦しています。運営チームの一員としてプラットフォームのデザインに関わった2年目の終了段階では一定の成果を上げることができ、現在3年目の活動を推進しているとのことです。

小山田氏が関わる地域課題解決プラットフォーム「みんぷら」
小山田氏が関わる地域課題解決プラットフォーム「みんぷら」

行政サービスを取り巻く課題は、複雑化して多様化する市民のニーズすべてをカバーすることは不可能となっており、多様なステークホルダーと連携しながらサービスをよりきめ細かく、持続可能にしていく試みが続けられています。府中市では市民協働政策を推進しており、活発に市民活動が行われているそうです。

小山田氏は市民/野良サービスデザイナー*として活動に参加しつつ、独自にリサーチを実施しています。オンラインコミュニティに集う人の属性や、「何かをしたいが何をしたらいいか分からない」人が多いなど、リサーチから得られた気づきは興味深いものでした。

*サービスデザイナー明間隆氏が提唱する、地域の人々の営みのなかで問題に主体的に向き合うデザイナー像

自分の“デザイン”の限界を認識

シビックデザインへの挑戦を通じて小山田氏は、デザインの限界を認識します。ビジネスゴールを達成するためのデザインの方法論は、そのままでは市民にはマッチしなかったのです。昨今さまざまな組織が導入しているデザインの方法論は、組織でよりよいサービスを実現するために共創を行うための方法論であり、地域のために何かをしたいという強い自分のビジョンを持つ市民にとってはその情熱に冷や水を浴びせかけることにもなりえる、と考えたそうです。

シビックデザインへの挑戦を通じてデザインの限界を認識
シビックデザインへの挑戦を通じて自分の“デザイン”の限界を認識

しかし、「これでいいんだ、Beingが大事なことだと気づくことができた」(非営利型株式会社Saniwa・坂本尚人氏)といった言葉をヒントに、デザインには何かをつくり、また壊すというプロセスから自分の在り方を問い直す力がある、そして地域に関わるデザイナーは関わり合って小さな変化を生み出す「場」をつくることができる、という気づきを得たといいます。

はじまりをデザインする「庭師としてのデザイン」へ

この気づきは、デザインの2つ目のモードへの気づきだと解説します。組織でのデザインは、どうゴールさせるのかという、「おわりのデザイン」で、建築家的な考え方で構築していくことです(1つ目のモード)。一方、市民とのデザインは、公共的空間の庭師としてふるまい関係性のきっかけを作ったりする「はじまりのデザイン」です(2つ目のモード)。*  このようなもうひとつのデザインの可能性に気づいたとのことでした。

*「建築家としてのデザイン」「庭師としてのデザイン」という考え方は、音楽家・美術家のブライアン・イーノ氏が提唱する概念です。

建築家としてのデザインと庭師としてのデザイン
「建築家としてのデザイン」と「庭師としてのデザイン」

この2つ目のモードである「庭師としてのデザイン」を、植物側=市民側の視点として考えると、自分のやりたいことをその環境にあるものを利用して生い茂ることになります。何が正解かがわからない中で自分なりのやり方を模索していく場があることは、昨今の複雑化する社会で非常に価値があると感じているそうです。

庭師としてのデザインを植物/市民の視点で見る
庭師としてのデザインを植物/市民の視点で見る

最後に小山田氏は、市民の中にデザインの力を届けるシビックデザインの活動をこれからも続けていきたいと発言しました。そして、この話を聞いてやってみたいと思った人は、デザインの考え方を使ってすぐにできることがあるはずなので、ぜひチャレンジしてほしいというメッセージでこのセッションは終了しました。


株式会社コンセント
PUBLIC DESIGN LAB.
地域課題解決プラットフォーム「みんぷら」

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