design surf seminar 2022

ユーザーを欺く“ダークパターン”、陥らないために私たちが考えられること

レポート

2022.12.05

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川崎 実紀

株式会社コンセント
サービスデザイン部門 ユーザーエクスペリエンスデザイングループ UX/UIデザイナー

九州大学芸術工学部画像設計学科卒業・同大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻博士前期課程修了。2015年よりエンターテインメント事業会社でデザイナーとして就業したのち、2018年に株式会社コンセント入社。新規事業開発の一環としてデジタルプロダクト開発に主に携わる。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2022 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2022年11月1日(火)・2(水)・4(金)の3日間オンラインで開催しました。今年のdesign surf seminarは、デザインビジネスやクリエイティブの原動力になりそうなセミナーが集まりました。全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

株式会社コンセントでサービスデザインに携わる川崎実紀氏が、「ダークパターン」の実例や諸外国・国内での規制の状況、ダークパターンによるユーザーの被害を減らすためのアプローチについてデザイナー目線から紹介しました。

ダークパターンは身近な社会問題としてデザイナーが考えるべきトピック

ダークパターンは、deceptive design(欺瞞的なデザイン)とも呼ばれ、簡単に言うと「ユーザーをだますデザイン」です。ユーザーをだます仕掛けのあるウェブサイトやアプリはかねてより存在しましたが、2010年にUXの専門家であるハリー・ブリグヌル氏がダークパターンという名称をつけたことから、近年広く認知されるようになりました。

この発表におけるダークパターンの理解について
この発表におけるダークパターンの理解について

本セッションではダークパターンを「サービスにとって有益だからと、ユーザーにとって不利益なことをユーザーの意思がともなわないまま実行させるためのユーザインターフェース」という理解で話をしていきました。2021年に行われた日経新聞による調査では、国内主要100サイトのうち62サイトでダークパターンの使用が確認されたそうで、身近な社会問題としてデザイナーが考えていく必要がある重要なトピックです。

年々増える詐欺的な定期購入商法の被害

まずは、プリンストン大のアルネシュ・マトゥール氏らによる研究論文「Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites」から、ダークパターンの7つの類型が紹介されました。勝手に追加される有料オプションや購入を急かせるカウントダウンタイマーなど、多くの人が通販サイトで目にしたことがありそうな事例が豊富に紹介されて、ダークパターンへの理解や興味が深まったと思います。

ひそかにカゴへ商品を追加するダークパターンの例
ひそかにカゴへ商品を追加するダークパターンの例

偽のカウントダウンタイマーを使ったダークパターンの例
偽のカウントダウンタイマーを使ったダークパターンの例

また、ダークパターンを知る上で参考になるサイトや書籍なども紹介されました。コンセントでも新聞や雑誌への寄稿、自社セミナーなどを通してダークパターンに関する発信をしているそうで、日経クロストレンドでダークパターンについての連載『「ダークパターン」予防線』がスタートしています。

ダークパターンの消費者保護への影響の例として、隠れたサブスクリプションの被害は深刻になっています。消費者庁が2022年に発表したデータによると、詐欺的な定期購入商法の被害は年々増えていて、相談件数の9割以上がネット通販によるものでした。

また、企業がダークパターンを利用することにより、デジタルサービスへの規制を無効化してしまう例も興味深いものでした。ヘイトクライムや違法コンテンツを通報するためのフォームの設置が義務化されても、企業側がダークパターンを用いて通報フォームを見つけにくくした例もあり、規制をダークパターンですり抜けられてしまう危惧があるとのことでした。

ダークパターンが使われる3つの背景

ダークパターンが使われる背景を、川崎氏は以下の3つに分類しています。

  • A. 悪意つよめケース
  • B. 組織の目標に従順ケース
  • C. ありがた迷惑ケース

川崎氏が分類した、ダークパターンが使われる背景
川崎氏が分類した、ダークパターンが使われる背景

消費者が騙されることありきでビジネスが成り立つAのケースはあまりないとしても、自身に課された目標を達成する方法としてダークパターンを使ってしまうBのケースや、事業者観点では良いと思って高額なプランを初期値にするようなCのケースは、どんな企業でもありえることです。

では、どうしたらそれを防げるのかですが、利用者に対して国や有識者が教育をすることと、事業者内部からの自主規制が有効であると川崎氏は考えています。

アメリカ、ヨーロッパでのダークパターン規制の状況

近年、法律によるダークパターンの規制が進んでいます。「ダークパターン禁止法」のような法律ではなく、さまざまな観点の法律によって取り締まりがおこなわれます。

特に規制が進んでいるのはアメリカで、FTC(Federal Trade Commission/連邦取引委員会)という組織を中心に、消費者保護文脈でのダークパターンの規制が進んでいます。また、先進的な事例としては、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)では、カリフォルニア州の消費者の権利として、個人情報の内容や使い道を知ることができる権利、個人情報の削除を求めることができる権利などを定めています。CCPAをアップデートした、CPRA(カリフォルニアプライバシー権法)という法律も2023年に発効されることが決定しています。

ヨーロッパでも、CCPAと同様に個人データ保護規制を目的とした法令GDPR(一般データ保護規則)が施行されました。ウェブサイトでCookie(クッキー)を使って消費者の情報を取得する場合に同意を得ることが必要になったことで、この法令の話題を目にしたことがある人も多いと思います。

日本では特定商取引法と景品表示法でダークパターンを規制

日本では、特定商取引法と景品表示法がダークパターンを規制する方向に進んでいます。特定商取引法は2022年6月に改正し、定期購入ではないように誤認させる表示の直罰化や解除の妨害の禁止などが追加されました。また、ダークパターンは景品表示法の「優良誤認」や「有利誤認」違反にあたる可能性があり、消費者庁は景品表示法検討会の中で、中長期的な課題の1つとしてダークパターンの規制について検討を進めています。

その一方で、ダークパターンを用いた販売手法が景品表示法の有利誤認表示に該当するとして差止請求された裁判で、差止請求訴訟が高等裁判所にて棄却され企業側が勝訴するという事例が2022年にありました。

ダークパターンは違法か合法かの判断が難しく、ユーザー体験・ユーザーインターフェースは総合的に評価されるものなので「重要な事項は何px以上、赤色で表記」などの絶対的な基準をつくることが困難です。そのため、法律で取り除けるダークパターンは違法性が著しく高いもののみになると考えられます。

ダークパターンによるユーザーの被害を減らすための事業者内部からのアプローチ

各国で規制が進みつつあるダークパターンですが、被害を減らすために「事業者」と「ユーザー」ができるアプローチについて紹介されました。どの段階で誰が対応するのかによって、以下の表のように細分化できます。

consent2.jpgダークパターンによる被害を減らすためのアプローチ

最後に、サービスを提供する側の事業者内部からできることについて、川崎氏が日々仕事をしたり周囲のデザイナーと話したりする中で、現在考えている事を話しました。

サービス開発に携わる者として、消費者保護やプライバシー保護に関する法律を知っておくのは最低限必要で、「知らなかった」では済まされないと意識を変える必要があると考えているそうです。そのために参考になるものとして、消費者庁のサイトが紹介されました。

また、法律に反しないことは当然必須ですが、違反していなかったとしてもユーザーに欺瞞的だと思われた時点で、事業者にとってはマイナスの影響があることも重要な視点です。ユーザー視点で本当に誠実なインターフェイスなのかを自ら問うことも大切とのことでした。

しかし、まったく欺瞞的ではないデザインがあり得るのか?完全に自発的な選択や自由意志が存在するのか?といった問いも出てきてしまいます。

その上で、各事業者が「自分たちはこういうことはしないでいよう」「(万人にとってベストでなくても) これはしよう」という基準を決めて、組織内で同じ価値観を共有してサービス開発にあたっていく必要があるとまとめました。

各事業者に自分たちの「ふるい」が必要
各事業者に自分たちの「ふるい」が必要

ユーザーのことを考える役割であるデザイナーが、まずは率先してダークパターンについて学んで組織の中で課題提供していくことが大切で、今回の発表がそのきっかけに少しでもなると嬉しいという言葉でこのセッションは終了しました。


株式会社コンセント
「ダークパターン」予防線

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