design surf seminar 2022

テクノロジーと価値観の変換期に何をデザインするか?

レポート

2022.12.16

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木下 拓也

ヤマハ発動機株式会社
上席執行役員 クリエイティブ本部長

1967年福岡県生まれ。1990年九州大学工学部を卒業し、ヤマハ発動機(株)入社。MC(モーターサイクル)事業本部にてさまざまな役職を経て2018年1月MC事業本部長に就任。同年3月執行役員。2021年3月上席執行役員。2022年1月にクリエイティブ本部長に就任し、製品・イノベーションに関わるデザインおよび企業ブランディングを統括する。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2022 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2022年11月1日(火)・2(水)・4(金)の3日間オンラインで開催しました。今年のdesign surf seminarは、デザインビジネスやクリエイティブの原動力になりそうなセミナーが集まりました。全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

産業革命以降およそ250年にわたり、発展し続けているテクノロジーとその消費の歴史。その変化の中で現在、モビリティーに対する私たちの価値観は変わりつつあります。この転換期において自社ブランドをどう捉えているのか、ヤマハ発動機株式会社でブランディングを統括する木下拓也氏が語りました。

ブランドデザインを支える「ヤマハ発動機のセンス」とは

二輪車の開発技術を起点として、グローバルに「輸送用機器」を展開してきたヤマハ発動機。その歴史の中で、同社は今、転換期を迎えているといいます。

その要因は主に2つ。まず、これまで長きにわたってモビリティー(移動性能)を支えてきたテクノロジーとエネルギーに変化の兆しがあり、近年カーボンニュートラルの実現などを目指す大きな動きが生まれていること。それと同時に、消費者側の価値観も多様化し続けていることです。

こうした変化を踏まえ、木下氏はブランドをデザインしていくために必要な考え方を「ヤマハのセンス」といいました。

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「生活を楽しむ」。それが企業としての原点

「ヤマハのセンス」の原点となっているのは、創業者である川上源一氏の言葉です。

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セッション内では、二輪車と共に暮らし、その生活をさまざまな形で楽しんでいる世界中の人々の笑顔あふれる写真が次々と提示されました。

「生活を楽しむことに挑戦している人々に何を提供するか」「日々の生活におけるできないことを解決し、いかにできるようになることを楽しんでもらえるか」。それらを追求することがブランドの根幹である、と。

この問いに明確な正解はありません。時代の流れや社会状況にも大きく左右されるでしょう。今回その答えの一つとして木下氏が提示したのは、「新たな関係性」「消費から浪費」という2つのキーワードでした。これらはヤマハというブランドを今の時代に合わせて再定義する代表的な要素だと考えているそうです。

技術革新の周期を経て、ものと人との関係性が大きく変化

まずは1つ目のキーワードである「新たな関係性」について。産業革命以降の歴史を俯瞰すると、およそ60年周期で大きな技術革新が起きていると捉えることができます。木下氏は、1970年代からの60年間が「情報と通信の時代」だったとすると、これからは「個人とシステムの時代」が訪れるのではないかと予測しています。

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情報と通信の時代を経て、人とものとの関係、人と人との関係性が大きく変わりました。そして2つ目のキーワードである「消費から浪費へ」と話題が移ります。「ものを消費する」のではなく、「時間を浪費する」時代へ——つまり人の関心が、「自分の時間をどう使うか」にシフトしているということ。例えば世界中で、あえて労力や時間のかかるアウトドアがブームになっていることなどにも、その一端が現れています。

人とものとの新たな関係性が生まれている現代において、求められるのは「価値交換」ではなく「価値創造」のビジネスであるといいます。木下氏は「当社が商品を販売し、金銭を支払ってもらうことでお客さまの手元に商品が届く。これまでのビジネスはそうした価値交換で成り立っていました。しかしヤマハ発動機がつくる製品は、人に使ってもらえなければ新たな価値創造には至りません。今後はこの『価値創造』の部分を、ヤマハブランドとして大切にしていく必要があると考えます」と述べました。

「もっと速く」から「もっと上手くなれる」という価値提供へ

木下氏は、考え方を価値交換から価値創造へとシフトし、ブランドのコアバリューを再定義した結果「鍛錬の娯楽化」というコンセプトに行き着いたそうです。「もっと速く走る製品を開発する」のではなく、「乗る人がもっと上手くなれる」ことにアプローチしていく、テクノロジーを活用していく、ということです。

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「楽しむ」にはいくつかの段階があります。「可能性を楽しむ」「成長を楽しむ」「変化を楽しむ」「ただ楽しむ」。木下氏は鍛錬を重ねた先にこそ、この「ただ楽しむ」境地があるのではないか、と考えているそうです。そしてそこにヤマハブランドとしてどのように貢献していくかが、これから先の課題となっています。

人にとっての価値を再定義し、テクノロジーでアップデートする

テクノロジーと価値観の転換期において、ヤマハ発動機では現在、人にとっての価値を再定義し、その根源的な価値をテクノロジーでアップデートすること、そして価値の再定義による価値交換のシステムを変えることに取り組んでいます。

具体的には、クリエイティブ本部内のイノベーションデザインの領域において、「感動」に関する研究と実装に取り組んでいるそうです。また、その先のファンコミュニティ、3rdエコノミーのリサーチ・研究を通して「ものを受け取る『時間』をどうサポートするか」を併せて探究しています。

ヤマハ発動機では今後、従来の製品ビジネスに加え、サポートビジネス、コンテンツビジネスのデザインを通して、価値体現パートナーや価値共創コミュニティの創出などを目指すと木下氏はいいます。

「テクノロジーと消費」というテーマで行われた本セッション。長い歴史をもつヤマハの事例を通して語られたからこそ、原点回帰の重要性と時代に合わせた価値の捉え直しの必要性、双方の重みを実感をもって捉えることのできる貴重な機会となりました。


ヤマハ発動機株式会社
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