design surf seminar 2022

「進化思考」から学ぶアイデアのつくり方

レポート

2022.12.14

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太刀川 英輔

NOSIGNER代表 / JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)理事長 / 進化思考提唱者 / デザインストラテジスト / 金沢美術工芸大学客員教授 / 阿南工業高等専門学校特命教授

未来の希望につながるプロジェクトしかしないデザインストラテジスト。プロダクト、グラフィック、建築などの高い表現力を活かし、領域を横断したデザインで100以上の国際賞を受賞している。生物進化から創造性の本質を学ぶ「進化思考」の提唱者。主なプロジェクトに、東京防災、PANDAID、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。主著『進化思考』(海士の風、2021年)は第30回山本七平賞を受賞。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2022 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2022年11月1日(火)・2(水)・4(金)の3日間オンラインで開催しました。今年のdesign surf seminarは、デザインビジネスやクリエイティブの原動力になりそうなセミナーが集まりました。全国からたくさんの方にご参加いただき、オンラインながら盛況のうちに幕を閉じることができました。当日のセミナーレポートをお届けします。

生物進化の仕組みからイノベーションを体系化し、2021年に日本を代表する学術賞「山本七平賞」を受賞した書籍「進化思考」。著者の太刀川英輔氏が、この本の内容をもとに、アイデアのつくり方を生物の進化という現象と絡めて話しました。

デザインはなんであるのかが知りたい

太刀川氏は、デザイン事務所「NOSIGNER」の代表で、JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)の理事長も務めています。NOSIGNERの業務は、建築、グラフィック、インダストリアルデザインと多岐に渡りますが、世の中に役立つもの、社会に良いもの、未来に良いものしか作らないと決めているデザイン事務所だと紹介しました。

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廃棄物を建材に利用したNOSIGNERのオフィス

学生時代から太刀川氏は、「何をもってデザインが良いとされるのか」「デザインは才能なのか」など、デザインの「わからなさ」にどう向き合うかをテーマに、デザインは何であるのかを知りたい探究心でさまざまな研究をしてきたそうです。

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2021年に「山本七平賞」を受賞した書籍「進化思考」

どうすれば良いアイデアやデザインができるのかを探っていく中で、「生物のデザインってどう考えても良くできてるけど、なんでなの?」という疑問に出会います。そこに、「どうやったら人は創造的になれるのか」の大きなヒントがあると思い「進化思考」を著したとのことでした。

創造性の学習方法はちゃんとある

まずは動画で「進化思考」の概要を紹介しました。とても見応えがあり、太刀川氏による解説も興味深いもので、この本を読みたくなった人も多いと思います。

「人間にはできないすごい仕組みである、生物の形が生まれてくる仕組みを真似しよう」「生物の進化のプロセスは我々が発想するプロセスに極めて近いのではないか。それなら実は我々は創造性について大きな勘違いをしてるんじゃないか」という考え方や問いをもとに「進化思考」が生まれたそうです。

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創造性とは限られた人だけが持てるものなのか

そして、創造性とはそもそも一体何かという話題に移ります。限られた人が持てるものでも、才能の問題でもなく、学習の方法はきちんとあると太刀川氏は述べます。自身も最初はアイデア出しが苦手だったものの、研究することでアイデアを出せるようになった経験則からの説得力がある言葉でした。

クレイジーだけど意味があるものが残る

進化とは、偶然に発生する変異と自然選択による適応との繰り返しから起きます。変異と適応との繰り返しは偶然と必然との繰り返しともいえます。

進化とは、偶然に発生する変異と自然選択による適応との繰り返し
進化とは、偶然に発生する変異と自然選択による適応との繰り返し

これをアイデアに置き換えると、たくさんのアイデアを出し、そこから良いアイデアを選ぶことに似ています。そして、クリエイティブになりたいならクレイジーなアイデアを出せるバカになれるかが問われますし、偶然性に自分をさらせるかが問われます。

もし本当にアイデアも進化と同じ構造を持っているのなら、教育でもクレイジーを教えなければいけないと太刀川氏は提言します。そして、クレイジーなアイデアの中から、必然性があり納得がいくものを関係性の観察から選ぶことができれば、クレイジーだけど意味があるものが残るとのことです。

生物の変異パターンはアイデアの考え方に応用できる

いよいよ、具体的なアイデアの出し方のヒントに繋がる話です。生物の変異の9つのパターンは、そのままアイデアの考え方に応用できます。

生物の変異の9パターンの図
生物の変異の9パターンの図

人間の発明や道具は生物の多様性ほどにはパターンが多くないということで、これらのパターンを頭の中に入れておけば、アイデアは無数に出てくるとのことです。 生物の変異をもとにアイデアの出し方に置き換えた図もあります。

生物の変異をアイデアの出し方に置き換えた図
生物の変異をアイデアの出し方に置き換えた図

生物の進化と同様に、たくさんのアイデアもほとんどはうまくいかないことを許容することも大事です。変化は大概は無駄でこの無駄な部分が大切、つまり無駄なアイデアをたくさん出すことが必要だと強調していました。

デザイナーには観察力を身につけてほしい

そして、多くのアイデアから当たりくじかどうかを判断するには観察が必要です。動物の環境への適応を観察するには解剖すれば良いように、モノを作りたければまず分解してみればいい。そして、何かについてわかりたければ、分類学にならって種類を覚えて進化系統樹にすればいいとのことです。これは歴史から学ぶという話でもあり、「デザインのクオリティを上げたいのなら、遠回りのようでもデザインの歴史を勉強することを強くおすすめする」というアドバイスに繋がりました。

そして太刀川氏は、「デザイナーには観察力が必要、観察力を身につけてほしい」と語ります。自分が作ったデザインが何に当てはまり、どのような状況において価値を発揮するのかを徹底的に観察することが大事なのです。観察力がないことで、「なぜこれが必要なのか、こういう変化が必要なのか」を説明できずに、「なんとなくおしゃれだから」などの理由になってしまうともったいないからです。

観察力を身につけて、説得力のあるバカができるようになることがイノベーションに繋がる。それがときには、分断され持続不可能になってしまう世界を繋ぐことだってあるはずだと、最後にデザイナーへのエールを送りました。

ほかにも「今使ってる道具なんて、100年後に使ってる人ほとんどいない。つまり、あなたが変えても大丈夫」など印象に残るフレーズが盛りだくさんで、デザイナーの背中を押すようなセッションとなりました。


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進化思考
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