探訪!オートデスク株式会社
大海晃彦氏
株式会社 ADKアーツ
コーポレート本部 シニアマネジャー
2007年ADKアーツの総務部門に入社。当初、一人IT担当としてパソコンの故障対応からインフラまで何でも対応し0から会社のITインフラを構築。2010年にクラウドとモバイルの積極利用を打ち出し、12年にGmailとiPhone4sで従業員の「働き方改革」を体験。現在は、マネジャー業務の傍ら、Scrumチームを結成しタイムマネジメントアプリ(iOS版)を開発中。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2018 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2018年10月12日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。
3回目となる今回も、デザインをビジネスの側面から捉えた8本のセミナーを行い、たくさんの方に来場いただき盛況のうちに幕を閉じることができました。
ADKグループの総合広告制作会社、ADKアーツの大海晃彦さんは、情報システム部門という立場から、社内のクリエイターたちのIT環境の整備に奔走してきました。
「制作プロダクションにおけるIT活用事例」では、そんな大海さんがクラウドを活用することによって制作現場のIT環境を改革していき、情報システム部門のあり方さえ変えた経緯を紹介しました。
パソコンを消耗品へ変える改革
社内にクラウドを導入したきっかけは、毎日のように来る「パソコンが壊れました」という問合せの対応に追われる状況を、根本から変えなければと思ったことからです。
そこで始めたのは、「パソコンを消耗品へ変える」動きです。すべてのデータをクラウド上に保存することで、パソコンが壊れても新しいパソコンに差し替えるだけですぐに仕事を再開できる環境を目指しました。
2011年にメールのクラウド化からはじめ、2015年には作業データのバックアップ先に「Box」を採用、2018年に「Druva inSync」を使った自動バックアップの仕組みを構築したことで、ついにすべてのデータがクラウド上に保存される運用が完成しました。2018年には、デザイナーが制作したデータの損失がゼロ件になるという成果を出しています。
デバイス管理やセキュリティ、バックアップ、コミュニケーションなどに、さまざまなクラウド製品を組み合わせて柔軟に管理する取り組みの紹介は、とても興味深いものでした。
Apple製品中心のクリエイティブ現場での社内システム
クリエイティブの現場ではApple社製品が主流であり、ADKアーツで使われているデバイスも、Apple社製品(iOS&macOS)のシェアが7割を超えます。
そこが一般的な企業のIT環境とは違うところで、大海さんも最初は戸惑ったようです。しかし、「Jamf Pro」を使ってのApple社製品のデバイス管理は、Windows環境よりコントロールしやすいなどの利点も見つけました。Microsoft OfficeやActive Directory(アクティブディレクトリ)などのマイクロソフト製品に依存しない環境について解説しました。
Boxの利用でセキュリティと利便性がアップ
データの保存先として採用したのは、クラウドコンテンツマネジメントの「Box」です。クリエイターたちの日々の制作データを保存することで、もしパソコンが壊れてもデータはクラウドから復旧できます。
Boxを使うことで、社内外でのファイルの受け渡しや、そのファイルに対するコメントのやりとりが簡便になりました。また、クライアントや代理店とのやりとりにBoxを使用することで、メールの誤送信による情報漏えいのリスクをなくせることも大きなメリットです。データ紛失やセキュリティ事故から「従業員を守る環境を作りたかった」という言葉が印象的でした。
ファイルあたりのサイズ制限など、Boxにもまだ改善してほしい点もある中、Boxを選ぶ理由としては、将来性への期待と経営者のビジョンを評価していることも大きいそうです。
トレンドを取り入れた柔軟な運用方針
2年前に、アメリカの映像制作業界でBoxが使われている現場を視察に行った話もありました。世界的に有名な映画制作会社でも、今後はバックエンドだけでなく、実際の映画制作にBoxを使っていくという話に共感したそうです。
「躊躇せず試す」「気になったらすぐ会いに行く」という大海さんのさまざまな取り組みは、シリコンバレーのトレンドを取り入れた柔軟なもので、常に最適なサービスを組み合わせたクラウドのエコシステム構築に注力しています。
クラウドサービスは頻繁なバージョンアップで機能が拡張されるため、単純な機能比較だけではなく、将来価値を見越して選ぶようにしていると話しました。
アジャイル開発のフレームワークでチームに余力を
情報システム部門で日々奮闘する中、「なんでそんなに早く対応できるの?」「なんで海外視察とか講演とかやる暇あるの?」と聞かれることも多いという大海さん。
その答えとして紹介したのが、Scrum(スクラム)というアジャイル開発のフレームワークです。チームでの生産性を上げる仕組みであるScrumとクラウドを組み合わせることにより、ミス、ロスや問合せが減り、チームに余力が生まれました。
さらに驚くのは、大海さんのチームは生産性を上げて生まれた余力を使い、iOS版の社内向け労務管理アプリ、商談管理アプリを内製で開発したことです。これは、経営とのコラボレーションで実現しました。
情報システム部門の仕事を、パソコンを修理することから、クリエイティブな仕事に変えられると証明したこの事例には、刺激を受けた人も多いはずです。
クリエイティブを支えるITと「働き方」は切っても切れない関係です。環境を変えたいと思っている企業のヒントにしていただきたいセッションでした。
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