探訪!オートデスク株式会社
吉本和功氏
株式会社 竹中工務店
東京本店 設計部
ビジュアライゼーショングループ課長
山﨑信宏氏
大成建設 株式会社
設計本部 設計企画部
設計パブリシティ室長
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2018 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2018年10月12日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。
3回目となる今回も、デザインをビジネスの側面から捉えた8本のセミナーを行い、たくさんの方に来場いただき盛況のうちに幕を閉じることができました。
日本を代表する建設会社二人のクロストーク
竹中工務店様から吉本和功さん、大成建設様から山﨑信宏さんがご登壇。完成前の建物をビジュアライズ(視覚化)して、クライアントにイメージや提案の良さをわかりやすく伝える、そんな伝えるプロフェッショナルの二人によるトークセッションとなりました。
建築というモノづくりは規模が大きく、一品生産。長期間にわたるプロジェクトのため関わる人数も多く、そこにはさまざまな立場の人が登場します。テーマは、チームの意識合わせに大切な「伝える」ことです。
コストに対するバランス意識
最初に建築業界での仕事の進み方を紹介していただきました。ゼネコン(総合建設業)には設計、技術、施工という大きく3つの部門があります。最近は共同企業体として、設計事務所とゼネコンで仕事を受ける案件もあるそうですが、一社単独で建物の企画設計から建設まで請け負えるのが特徴です。だからこそ、設計と施工(現場)の仕事は切っても切り離せません。
次に、建築設計の仕事で必ず求められる、機能や性能をアップしながらコストを抑えて建物の価値を最大にする『VE(Value Engineering)』の考え方が紹介されました。設計者はデザインや仕様だけでなく、作り方でコストを抑えられないか検討しながら設計します。「設計者が主体性を持って技術開発部門や施工部門と対話しないと、なかなかVEは達成できない。」と、さっそくコミュニケーションの重要性に触れます。セッションでは「コンセプト決め」「社内プレゼン」「提案プレゼン」など、各場面で心がけるコミュニケーションについて話が展開しました。
ブレないためには、チームコミュニケーションが重要
山崎さんは、初期段階でのフラットな議論が、コンセプトがブレないために必要だと力説。まず、相手を否定せずにアイデアを膨らませるブレインストーミングをして、そこから「本当に必要なものは何か?」を、みんなで考えて削ぎ落とし、コンセプトを決めます。
「コンセプトという向かうべきゴールを共有することは、『そのプロジェクトがいかに面白くワクワクするか』を共有するということ。この共有はチームのモチベーションにもつながる。」という言葉も印象的で、吉本さんもこれに頷きつつ、「最初にコンセプトをしっかり設定できると、案がまとまって関係者と振り返ったときに最終判断がしやすくなりますね。」と応じました。
多様なビジュアライズのテクニック
吉本さんからは、ビジュアライズでのコミュニケーションや、その工夫について話がありました。設計図で空間や仕上がりをクライアントに伝えることは難しく、その際にビジュアライズ(視覚化)が活躍します。
ときには図面がない中でイメージづくりが依頼されることもあり、その際は漠然としたイメージから、建物のボリューム感、用途、細部の形状、と徐々に掘り下げて具体化していくそうです。人によって同じ言葉でも想像するイメージが違うため、やりとりはさまざまな画像などを参照して、表現につながるイメージを見ながら対話を重ねます。
またフルカラーで細かくイメージ図を作ることもあれば、あえて色を抜いたモノトーンのイメージ図に素材見本を提示し、「お客様が頭の中で白黒の絵と、実際の素材感をブレンドして想像してくれる。」という視覚に頼らない方法も、伝えるためには有用なやり方だと紹介されました。
パースの描き方や色彩感覚には文化の違いも影響するそうで、他国の生活環境や文化、慣習をリアルに体験しない限りはなかなか想像が及ばないことがある、というエピソードにビジュアライズの世界の奥深さを垣間見ました。
思いを伝えるためにできること
「提案書はラブレター」「パースはお見合い写真」と話す山崎さん。提案プレゼンでは「いっしょに仕事がしたいと、見た人に感動や共感してもらうことが必要」だと語りました。
ビジュアライズ以外の伝えるテクニックについて、さまざまな角度から紹介されました。提案プレゼンの前には、クライアントに提出する提案書の中で、言葉をしっかり組み立てます。セッションでは「読みやすい」「わかりやすい」文章を作成するための掟について、実例を挙げて解説していただきました。どれだけ多くの人が携わっていても文章は一人格に整えること、といった指摘はすぐに真似したいポイントでした。
また、クライアントに思いを伝えるための工夫として、プレゼンを印象付ける提案ツールも事例とともに紹介されました。
建築の仕事におけるコミュニケーションの重要性
吉本さんが日頃ビジュアライズする上で考えているのは、「どんなに素敵なCGパースができても、お客様の要望にマッチしないとまったく意味をなさない。」ということ。コミュニケーションが不足していると、本来伝えたいところが表現されずにブレてしまいます。「『何を伝えたいか』が原点」と話します。
山崎さんは「ブレるタイミングが大事」とのこと。「最近の建築は複雑化、多様化していて、ひとりでは手に負えないと思います。大人数が関わることは多様なアイデアがあるということで、これは喜ばしいこと。そのポテンシャルを活かすためにも、期限ギリギリではなく、早い段階からいろんな意見をもらって話し合うことが大切。」だとまとめました。
貴重な実例が数多く登場したトークセッション。価値観を共有しながら、チームを同じ方向に向かわせるために、「いつ」「誰に」「どのように」伝えていくのか。大きなモノづくりのためのコミュニケーションについて、伝えるためのビジュアルとコトバを例に、わかりやすく語っていただきました。
この記事に付けられたタグ
design surf seminar 2018 記事一覧
関連記事
【design surf seminar 2018】きれいの先にあるもの
2018.11.20
【design surf seminar 2018】制作プロダクションにおけるIT活用事例
2018.11.15
【design surf seminar 2018】『「デザイン経営」宣言』と「デザイン経営」の実践
2018.11.08
【design surf seminar 2018】メーカーが「顧客体験」に取組む理由とデザインの役割
2018.11.01
【design surf seminar 2018】働き方を探す旅 ― 変わるデザインという仕事、生まれる新しいライフスタイル
2018.10.29
【design surf seminar 2018】ヒットのつくりかた
2018.10.29
【design surf seminar 2018】デザインには企(わけ)があり、スタイルには意味がある
2018.10.18