【現場を変えるMobilityのアイデア】第33話:Apple ID管理の「解」来たる!?
信藤 洋二氏
株式会社資生堂クリエイティブ
シニアクリエイティブディレクター
1992年 資生堂入社。2017 年「Universal Beauty Design Project」を立上げ、デザインから美と社会課題に向き合うイノベーション研究を開始。2020 年より、樹木との共生をテーマとする「BAUM」の CD として、サスティナブル・デザインを展開している。 公益社団法人 日本パッケージデザイン協会理事長、東京大学先端技術研究所先端アートデザイン分野アドバイザー、多摩美術大学プロダクトデザイン学科 非常勤講師、東京アートディレクターズクラブ会員
菊地 泰輔氏
株式会社資生堂クリエイティブ
クリエイティブディレクター/アートディレクター
1995年 資生堂宣伝部入社。2000~05年 ニューヨーク駐在。 2005年~資生堂宣伝制作部。2018年〜資生堂クリエイティブ本部。2022年〜資生堂クリエイティブ。 主に「ウーノ」「ZEN」「アルティミューン」「クレ・ド・ポー ボーテ」などのパッケージデザインや、 ウィンドウ等のスペースデザインの開発に従事。 日本パッケージ大賞、日本空間デザイン賞、D&AD、Pentawards、他受賞歴多数。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2025 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2025年11月7日(金)に泉ガーデンギャラリーで開催しました。10回目となる今回は、最前線でデザインの可能性に挑戦する皆さまの、トライアンドエラーの過程やノウハウ、創造の原動力を盛り込んだ8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。
設立110周年を迎える資生堂クリエイティブは、早くから意匠・デザインを内製化し、時代と共に美の体験を拡げてきました。本セッションでは、自然との共生に取り組む「BAUM」のサスティナブル・デザインや、グローバルラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」のパッケージなど、ブランド価値を高めるデザイン開発の背景や、共創によるインターナルブランディングへの想いが紹介されました。
資生堂のデザイン道「アートとサイエンスの融合」「生命・自然・日本」
初めに信藤氏より、資生堂クリエイティブの歴史から資生堂のデザインが紐解かれました。資生堂クリエイティブの前身にあたる資生堂意匠部は、1916年に創設された100年以上の伝統があるデザイン部門です。同年に研究所の前身にあたる試験室が創設され、この頃から資生堂のデザインはアートとサイエンスを融合してきました。歴史を辿ると、資生堂のデザインには共通する3つのキーワード「生命:生命を感じるパターン」「自然:自然を尊び自然に従う精神性」「日本:日本文化に見られる点や余白を活かす表意性」があるといいます。これらが一体となった時、資生堂らしさが結晶のように現れます。

まずは、製品や広告のデザインのほか、資生堂独自の書体を描きブランドの一貫したイメージを生み出した小村雪岱について紹介されました。「生命」「自然」「日本」が表された感性に訴えかける雪岱の美意識は、現在まで脈々と継承されているといいます。
次に1926年に使用されていた唐草紋様が描かれたビアズリー調の赤い包装紙について。資生堂は大きな円を描きながら伸びていく唐草を美の生命体と捉え、さまざまなデザインを生み出してきました。その唐草の様子は、時代を超えて多彩に変化してきた資生堂のアートそのものと言えます。その一方で、肌に関する科学技術は一直線に進化を続けています。信藤氏は、異なる性質を持った「アート」と「サイエンス」の融合は、あらゆる意匠の可能性を引き出す、資生堂にとっての美のエコシステムだと話しました。

(右)資生堂にとっての美のエコシステムを表す図
そのほか、東京銀座資生堂ビルのウインドウディスプレイとして和傘をテーマに作られた「在る美」や、新橋演舞場の緞帳「舞」など、伝統芸能と職人技、そして時代を超えた技術が融合した作品が紹介されました。
目に見えるものだけでなく、すべての生命美をヒントに、美しさの可能性を広げていく。
キーワードの1つである「自然」を本格的に考え開発された「BAUM」のブランドデザインについても紹介されました。BAUMでは、樹木との共生をデザインで表現するため、自然を借りるだけでなく植樹などの自然への還元も含めてブランドを育てています。この考えの根幹にあるのは、1992年に当時の社長から全社員に献本された『木を植えた人』だといいます。この本から「表に見えない根っこが、真のブランド力」だというメッセージを受け取った信藤氏。目の前にあるものだけではなく、考え方や体験そのものを築き上げることが重要だと述べました。

また信藤氏は、東京大学先端科学技術研究センターに参画しています。未来社会を考えながらデザインを切磋琢磨していく中で、美の常識にとらわれずに新たな美の浸透を探っていくことの重要性を感じたとのこと。「もしも香が見えるなら」「その色はすべての人にとって美しいのか」など、10個の切り口で新しい美のあり方を問う『美を疑え-資生堂クリエイティブ展-』を開催。美そのものからデザインするという大きな気づきを得る機会になったといいます。
アートとサイエンスによるデザインには、未知なる自然の科学や美しさを探求すると同時に、個々の感性を通じて自らの可能性を見出し、より豊かな社会のために応用していく、自然と人と科学の関係が重要だといいます。資生堂が追求してきたデザインは、すべての生命の美しさにヒントを見出し、美しさの可能性を広げてきたのだと述べられました。
継承されるべき価値を創造し、継承と進化を続ける「クレ・ド・ポー ボーテ」
続いて菊地氏から、資生堂の最高級化粧品である「クレ・ド・ポー ボーテ」のパッケージリニューアルにおけるブランディングデザインの過程について紹介されました。
菊地氏は、クレ・ド・ポー ボーテのパッケージデザインにおいて、継承されるべき価値を創造し、それを継承し進化を続けるデザインを実現したいと考えたといいます。そのために、幅広いコンテクストを読み解きさまざまな仮説をもとにコンセプトを立案し、何が最適なのかを追求する、その繰り返しでブランドをデザインしてきました。その過程を経て開発された、リップスティックとスキンケアラインのデザインについて紹介されました。

まずリップスティックについて。「日本初、世界に通用する本物のラグジュアリーブランドに押し上げる」をミッションに掲げ、ブランドDNAである「INTELLIGENT」「EXQUISITE」「UNCOMPROMISING」に沿ってリニューアルが進められました。
またパッケージデザインの礎として、人の「感性的」、「素材」が醸し出す魅力、「クラフトマンシップ」から生まれる確かな存在感、の3つを示し、日本発信ならではの独自価値を表す「気韻生動」「面向不背」「純」「普遍」をデザインフィロソフィーとして策定しました。そして、リップスティックを見ただけで期待感が膨らむような「感性品質」を追求するために、ダイヤモンドの刃先で金属をカットしたり、ブランドのシンボルマークは表面を削り出して表出させるなど、高いデザイン意識を忍ばせました。
続いて、スキンケアラインのリニューアルについてです。ブランドのコアである「RADIANCE:輝き」を体現し世界水準のラグジュアリー性を継承するデザインへ革新することに重きをおき、始動しました。
新たなデザインは、使いやすさを重視し、中身の魅力を最適な形で演出する無駄のないプロポーションに仕上がりました。容器には厳選された素材のゴールドがあしらわれ、キャップを開けると同時に輝きを放ち、感性に訴えかけます。中でもブランドの象徴であるラ・クレームは、「茶道」の考えをもとにデザインされました。天目茶碗の特性を取り込んで、容器本体、スパチュラ、台座の3点で構成されており、時代を超えて受け継がれる美意識を内包しながら、究極の美容体験と美しい所作へ導くアイテムになりました。

ブランドの一体性や価値をさらに高めるインナーブランディングの重要性
さらにクレ・ド・ポー ボーテでは、社内に向けたブランディングを非常に重要視しています。ブランドの一体性や強い価値を作るため、企画・製造から販売まで、携わるすべてのメンバーがパッケージに対して統一の理解と共通のゴールをもって業務を推進できるよう、パッケージデザインコードを策定しています。そこには、創業当初から継承されてきた資生堂の精神についてや、 クレ・ド・ポー ボーテの目指す先、それを実現するための5大要素、そしてカラー、シンボル、刻印に込められた想いが記されています。
デザインは、一つのクリエイティブが自ずと次の展開に導くことができる可能性に溢れているといいます。「今後、これらの価値が継承され続け、かつ時代に応じながら進化し、クレ・ド・ポー ボーテが本物のラグジュアリーブランドになってほしいと考えています。」との言葉でセッションが締め括られました。
予測できない現代においても独自の伝統を継承しながら、時代と共にデザイン道を進化させてきた資生堂クリエイティブの、不変と変化の両面の姿勢を聞くことができたセッションでした。

株式会社資生堂クリエイティブ
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