design surf seminar 2025

あなたを劇的に変えるブランディングデザイン

2025.12.04

シェア

徳田 祐司

株式会社カナリア
代表取締役 / クリエイティブディレクター / アートディレクター / アーティスト

1968年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。1990年株式会社電通入社後、数々の大型キャンペーンのアートディレクションを行い、2001年アムステルダムを拠点としたクリエイティブエージェンシーKesselsKramerにて、クリエイティブの可能性を広げる。2007年にデザインエージェンシーcanariaを設立。ブランド・プロダクト・プロジェクト開発からコミュニケーションまでの一貫したコンセプトメイキング及びトータルデザインにおけるクリエイティブディレクション&デザインを得意とする。代表作:いろはす、FLOWFUSHI、野沢温泉蒸留所、日本酒プロデュースブランドWAZU、DUO、LOVECHROME、Royal Host Deli、finetoday、SPACEPORT CITY 未来事業構想、avatarin、パリ発フェイシャルサロン EN、吉乃川、deleteC、京中 など。世界でもっとも権威のある大きなデザイン賞のうち二つで最高賞を受賞し、世界でも評価を得ている。 iF DESIGN AWARD : 金賞、Red Dot Design Award : 最優秀賞、 カンヌ広告賞:金賞、NY ADC賞:金銀賞、日本パッケージデザイン大賞:金銀銅賞など受賞多数。高度でインタラクティブな仮想体験・遠隔操作技術の実用化を目指す「avatarin」デザインパートナー。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員・(広報委員長などを歴任)、日本パッケージデザイン協会(JPDA)会員。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2025 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2025年11月7日(金)に泉ガーデンギャラリーで開催しました。10回目となる今回は、最前線でデザインの可能性に挑戦する皆さまの、トライアンドエラーの過程やノウハウ、創造の原動力を盛り込んだ8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。

株式会社カナリア代表・徳田祐司氏を迎え、多様なプロジェクトに携わる中で培ってきたブランディングデザインの本質についてお話しいただきました。

徳田氏は、電通でアートディレクションを経験したあとオランダ・アムステルダムのクリエイティブエージェンシーで研鑽を積み、のちにカナリアを設立。現在は幅広いクライアントに対し、コンセプト設計からデザインまでを一貫して手がけています。

見た目をきれいにするだけではうまくいかないブランディング

最初のトピックは、企業のブランディングがうまく機能しないときに現れる「症状」とその理由の解説でした。

「相手に伝わらない」「使いにくい」「感動がない」といった症状のほとんどは、見た目をきれいにしただけでは改善せず、受け手の心に届くものにはなりません。また、メッセージやクリエイティブがバラバラであることもブランドとして危険な状態だといいます。「例えば、二枚舌の人を信じられますか?」と問いかけ、一貫性の大切さを説きました。

その上で、見た目のデザインの重要性も強調しました。見た目のデザインのクオリティが低いとブランドの本気度や思いが伝わりません。「まがい物のデザインに信頼は宿らない」という言葉が印象的でした。

ブランドづくりは「コスト」ではなく「投資」

徳田氏は、ブランドとは「モノ」ではなく、「信頼・誇り・憧れ」という「コト」だと定義します。それを育てるのがブランディングであり、育てるために伝えるのがブランディングデザインだと説明しました。

ブランドが受け入れられるまでの心理変化

ブランドが人々に受け入れられるまでには、「知らない → 疑い → 共感・期待 → 好き → 信頼」という段階的な心理変化があります。中でも徳田氏が強調したのは、ロジックを超えた「好き」の重要性です。数値や情報では測れない「好き」の感情が続くことで、人はモノや会社に心を寄せていき、信頼・ブランドが生まれるのです。

そして、共感や信頼をベースに選ばれるブランドは、コミュニケーションやビジネスを効率化させます。よって、ブランドづくりは「コスト」ではなく「投資」と考えるべきだと強調しました。

一気通貫のブランドづくりは、複数の針の穴に糸を通すような作業

では、どうすれば「きちんと信じられるブランド」をつくれるのか。徳田氏はその難しさを「複数の針の穴に1本の糸を一気に通すような作業」と表現しました。

「超はり論」という面白くわかりやすい造語でブランドづくりを解説

最初に行うのは、情報の「断捨離」をして本当に大切なものだけを残すことです。そこから対象の特徴となる芯を見つけ、その芯が共感に繋がるように、点と点をつなげる作業をしていきます。

そのあと、ブレがないように整えて、情報ではなく情緒で語りかける表現に落とし込みます。そして、最後のプロセスは「すべてを一気通貫させる」こと。常に「腑に落ちるか」を考え、複数の針の穴を一気に通して人の心に届けるブレのなさが必要となります。

「行動」をブランドの中心に据えた飲料水ブランド

事例として紹介されたのが、ミネラルウォーターのリブランディングのプロジェクトです。

採水地が複数あるため産地を軸にした訴求が難しく、有名産地の水源をアピールする競合が際立つ中で存在感を出せずにいた製品に対し、徳田氏のチームは自然環境への意識の高まりに着目しました。

環境配慮のためにプラスチック使用量を半減させたところ、「ペコペコ」と頼りないボトルになりましたが、水を入れると透明感が増して美味しさを引き立てる効果があることに気づきます。

さらに、プラスチックが薄くなったことで飲み終わったボトルを絞れることを活かし、「選んで、飲んで、絞って、それだけで世界を変える水」というコンセプトを生み出しました。自然環境への意識はあるが行動には移せない人たちに向けて、この水を選んで飲むことが自然を守る運動への参加になることを提示したのです。

今回の製品のアイデンティティを構成する要素を解説

単なるミネラルウォーターではなく、消費者が参加する「運動体」として再定義することで、ブランドは新たな価値を獲得し多くの共感を集めました。

地域の価値を言語化&視覚化したクラフト蒸留所の事例

続いて紹介されたのは、長野県・野沢温泉村の湧水を使ったクラフトジンの事例です。

村を訪れた徳田氏は、どこにいても水の音が聞こえる土地の特徴を体感します。雪が50年かけて濾過され湧水となり、その水が川へ、海へ、そして雲となってまた戻ってくる――その大きな循環を水の音から意識することになりました。

その経験をもとに、この地で作るクラフトジンの価値を「水の巡りの恵み」と言語化し、大きな水のうねりをモチーフにしたマークとして視覚化しました。

「水の巡りの恵み」に行き着くまでの思考を紹介

4種のボトルのラベルには、それぞれ異なる水の流れが描かれています。一方で、すべてのマークの中央部分は共通していて、そこが野沢温泉蒸溜所のロゴマークになるという仕掛けが施されています。

異なる水の流れが描かれた4種類のボトル

完成したデザインを見た村長が「これは私たちのシンボルマークだ」と語り、蒸溜所で働くスタッフたちを抱きしめて喜んだというエピソードも印象的な事例でした。

現代社会の中では「美」が過小評価されている

最後に徳田氏は、「美しいものが一番心に届く」と美しさの価値について語りました。美しい見た目、美しい筋書き、美しい目的、それらが一つになったとき人の心は動き、行動が変わります。

そして、現代社会の中で「美」が過小評価されていると指摘しました。「真善美」が揃うと社会は豊かになると言われますが、「真=真理」、「善=こうあるべき」だけでなく、個人の主観による「美=こうありたい」が含まれている意味を考えてほしいと締め括りました。

数々のプロジェクトを通じて培われたブランディングデザインの考え方を惜しみなく共有いただいた、充実のセッションとなりました。

見た目をきれいにするだけではブランディングはうまくいきませんが、最後に重要なのはやはりデザインであり美しさというメッセージが、特にデザインに携わる人には刺激になったのではないでしょうか。

関連記事

【design surf seminar 2025】Adobe MAX最新情報とFireflyの更なる進化 〜 アドビの岩本さんに聞いてみよう!

2025.12.03

【design surf seminar 2025】空間コンピューティングとAIの融合で生まれる空間デザインの可能性

2025.11.28

【design surf seminar 2025】design surf seminar 2025 速報

2025.11.10

design surf online

「デザインの向こう側にあるもの」ってなんだろうを考えよう。
design surf online(デザインサーフ・オンライン)はTooのオンラインメディアです。

 design surf onlineについて

おすすめ記事

【現場を変えるMobilityのアイデア】第33話:Apple ID管理の「解」来たる!?

【現場を変えるMobilityのアイデア】第32話:可能性を拡張する問いを立てる力

訪問!一般社団法人テクニカルディレクターズアソシエーション