訪問!一般社団法人テクニカルディレクターズアソシエーション

インタビュー

2025.08.25

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団体訪問シリーズです。今回は、「テクニカルディレクションで、世の中を良くする。」を掲げて活動をされている、一般社団法人テクニカルディレクターズアソシエーション(以下、TDA)代表理事の森岡 東洋志 氏(以下、敬称略)にお話をお聞きしました。


“翻訳”と“設計”によってアイデアを実現に導く

Too:まずは、テクニカルディレクターの役割を教えてください。

森岡:簡単に言えば、「アイデアを実現するためにどうしたら良いかを考え、実行できる人」を指します。実現に向けて、自分が身につけたスキルや知識を使って技術的なアプローチをする場合もあれば、適した人材を集めてチームを組む場合、新しいツールの導入によって道筋をつけていく場合もあります。さまざまな手段の中から最適なものを選んで、プロジェクトをどう作るかを設計していきます。

中でも重要なのが「コミュニケーション」です。エンジニアなどが関わる技術に関する話は専門的で難しくなりがちですが、それをプロデューサーやプロジェクトマネージャー、クライアントなどの非技術者にも理解できるように翻訳する必要があります。例えば、技術的な難易度を金額やスケジュールに変換して議論することで、納期や制作物のボリューム、仕様が具体的に見えてきます。非技術者との架け橋になることも重要な役割です。

テクニカルディレクターが抱える3つの課題の解決を目指して

Too:それではTDAの団体について教えてください。

森岡:TDAは2020年に設立され、現在では300名弱の会員が所属しています。私たちテクニカルディレクターは、大きく3つの課題を感じています。

まず1つ目は、テクニカルディレクターに求められる知識の幅が広がっていることです。クライアントに適したツールひとつ提案するにも、技術全般を把握していないと判断ができません。また、テクノロジーは日々進化しているため、常に学び続ける必要があります。2つ目は、テクニカルディレクションの価値が十分に浸透しておらず、プロジェクトに適した段階でアサインされにくい点です。制作段階ではなく、「やるべきか、やめるべきか」という検討の段階から関わることで、私たちの本領を発揮できます。3つ目は、人材育成の難しさです。テクニカルディレクターは判断業務が多く、プロジェクトにつき1〜2人の少数体制が基本のため、実業務を通じた育成の機会が限られています。

これらの課題の解決に向けて、団体を立ち上げたのが始まりです。

目的ありきであらゆる可能性を検証する

Too:プロジェクトを俯瞰する役割が故の課題ですね。テクニカルディレクターの皆さんは日々現場で仕事にどのように取り組まれているのか、具体的に教えてください。

森岡:プロジェクトの企画が立ち上がったときに、予算内で実現できるのか、どのようなチームを組むべきか、この企画を進める上で適したツールは何か、やってみないと分からない部分はどこか、などの実現の可能性を一つずつ検証していきます。その上で、プロトタイプを作っていきます。

Too:実現できることとできないことは、どのような基準で判断するのでしょうか?

森岡:「できない」という結論になるケースは、実は少ないです。例えば、「顔認識をして人の顔にキャラクターの顔を自動で当てはめるアプリケーションを作ってほしい」という依頼があったとします。開発期間や予算を増やせばできるのか、精度が90%でいいなら可能か、1日限りのイベントだったら現実的か、といった具合にいろいろなパターンの「できる」を検討します。

アプリケーションを作ってほしいなど、技術先行で相談を受けることが多いですが、本来は目的が実現できれば手法は何でもいいはずです。ときには、技術を使わないことがベストなこともあります。100%の精度を求めるなら、人を雇って手作業で行う方が開発費用も抑えられて、精度も担保できます。ワークフローで解決できるなら、テクノロジーは必要ないという話もよくします。

Too:幅広い視野と知識が必要ですね…スキルの身につけ方や、テクニカルディレクターの皆さんのバックグラウンドに共通点は何かありますか?

森岡:私は毎日200件ほど技術関連のニュース記事を拾って、その中から30 件ぐらいを読み込んでいました。最近はAIに調べてもらうことがほとんどなので、情報収集はだいぶ楽になりました。また、実際に作ってみることも大切にしています。触り心地や、どうワープするのか、試作したり分解したりすると分かってくるものもあります。

テクニカルディレクターになる人は、エンジニアやSIer出身の人もいれば、美容師やミュージシャン、DJなど、経歴はさまざまです。共通しているのは、好奇心を持って学び続けられる人という点でしょうか。趣味の延長線として仕事に取り組める人が多いです。

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成果物のクオリティ向上と業務価値を適切に還元するために

Too:テクニカルディレクションの価値の浸透度合いは十分ではないとのことですが、市場に変化の兆しは見えていますか?

森岡:テクニカルディレクターと名乗っている方は広告業界出身の方が多い印象です。そのため、広告の仕事にはテクニカルディレクション費が見積もりに含まれていたり、技術的な難易度が高いプロジェクトにはテクニカルディレクターに依頼することが常識になりつつあります。

また、テクニカルディレクターと名乗らずに、私たちと同じ仕事を担当している人はたくさんいます。例えばエンジニアです。人よりも100倍速くプログラミングできる人の単価が100倍かと言われるとそんなことはなくて、良くて2〜3倍です。コードを書いている時間はほんのわずかなはずなのに、リサーチやクライアントとのコミュニケーションにかける時間が含まれてしまっているため、エンジニア本来の成果が可視化されづらいのです。テクニカルディレクションとエンジニアリングの役割を分ければ、エンジニアの価値が明確化されます。また、制作へのコミットメントも上がるため、成果物のクオリティアップにもつながります。

多面的な実践で広げるテクニカルディレクションの価値

Too:それでは、TDAの具体的なアクションを教えてください。

森岡:現在力を入れているのは「Tech Direction Awards」というアワードです。テクニカルディレクションが効いたプロジェクトに光を当て、その価値を発信することを目的としています。2025年に2回目を開催し、延べ応募数やスポンサーの数は増えています。Tooさんにもシルバースポンサーとして協力いただきました。このアワードの特徴は、成果物だけでなくプロセスに注目している点です。何をどう検証し、クライアントと技術者をどう橋渡しをしたのかという過程を重視しています。

tda_award.png8月6日(水)に開催された第2回テクニカルディレクションアワードの表彰式では、合計17作品が受賞し、NFTトロフィーや表彰パネル、記念品が贈られました。

「TDA Sandbox」というイベントも開催しています。テクノロジーを持つ方々をゲストに招き、TDAのテクニカルディレクターと一緒に、その技術を実装しながら検証をしていくハンズオンイベントです。先日は、空間再現ディスプレイを開発しているソニー株式会社に協力してもらい、実際に触りながら、どのようにデータを作成したらディスプレイに表示されるのかなどを相談できる場を用意しました。企業ともつながりができるので、機材を借りたいときにもすぐに問い合わせができる関係性を構築できます。

2024年の秋には、テクニカルディレクションの仕事についてまとめた「Tech Direction Handbook」を執筆し、無料で公開しました。「企画」「設計」「制作」「運用」の要素をもとに、仕事の流れや、情報をリサーチする上で必要な視点、チームビルディングのポイントなど、どのプロジェクトでも必要となる情報をまとめています。ありがたいことに、制作会社などの新人社員の教育に使っていただいています。

また、プロトタイプの検証が気軽にできるアプリ「ZIGCAM」もテスト的に開発しました。自動運転などに使うセンサーが搭載されており、スマホでアプリを立ち上げてパソコンとつないでしまえば、高価なツールを購入せずにその場で検証ができます。すぐに試作や議論に移ることができるため、プロジェクトのスピードが加速します。実際に、放送局やハッカソンなどで活用されています。

最新の技術動向から現場の悩みまで共有できるコミュニティ

Too:価値の発信から教育、現場に役立つ技術の開発まで、取り組みの幅広さに驚きました。それではTDAに参加する魅力も聞かせてください。

森岡:TDAではこれら以外にも、毎月オンラインで事例や技術の共有会を開いています。「こんな新しい機材が出てきた」「こういうライブラリがアップデートされた」「このセキュリティソフトは使えなくなった」など、情報をキャッチアップしやすい環境です。テクニカルディレクターが少ない企業で働いている人にとっては、セカンドオピニオンができる場にもなっています。

最近、AIがある今の時代、AIなしで制作していたときの見積もりから減額ができるかどうか、という悩みを聞きました。AIが想定通りの働きをしてくれなかったときの保証がないため減額はせず、AIがうまくハマって時間が空いたら、追加の提案をするというスタンスの人が多いようです。回答を出すことが難しい悩みも、コミュニティのメンバー同士で相談し合えるのがTDAの魅力だと思います。

Too:現場の皆さんの心強い居場所になっているのですね。そんな中で、Tooに今後期待することはありますか?

森岡:Tooさんは、開発や制作業務になくてはならないインフラを下支えしている企業だと認識しています。学校からクリエイターのオフィスまで、幅広く環境の構築をお手伝いしていますよね。安心して仕事を進められる土台があってこそ、私たちがクライアントのアイデアを実現するために働きかけることができます。お互いの強みを掛け合わせて、さらに踏み込んだアプローチができたら楽しそうです。


アイデアを実現させるための橋渡し的な存在であるテクニカルディレクター。その役割を支えるTDAは、価値の発信から教育、ノウハウの共有まで幅広く活動し、業界のハブのような存在だと感じました。また、8月6日(水)に開催された「Tech Direction Awards」表彰式にTooも参加させていただき、探求心を大きく刺激された1日となりました。森岡さん、ありがとうございました!

一般社団法人テクニカルディレクターズアソシエーションについてはこちら
Tech Direction Awardsについてはこちら
Tech Direction Handbookについてはこちら

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