【現場を変えるMobilityのアイデア】第33話:Apple ID管理の「解」来たる!?
八尾 拓斗氏
株式会社コンセント
Product Design Group サービスデザイナー
サービスデザイナー。事業会社でのデザイン組織の立ち上げや新規事業の立ち上げなどを経験したのち、2023年に株式会社コンセント入社。同年からリードメンバーとして、SMBCコンシューマーファイナンス株式会社でのデザイン品質向上に係る組織支援に携わる。その他、クライアントの組織開発支援、コンセプト開発支援など、幅広いプロジェクトに従事しており、プロダクトマネージャーの経験をもとにした、デジタルプロダクト開発、ビジネスとデザインの接続に強みをもつ。
富田 瑞希氏
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社
IT戦略部推進第二グループ主任
2015年にSMBCコンシューマーファイナンス株式会社へ入社。長期開発案件に関する要件定義、アジャイル開発においてはプロダクトオーナーの役割を担いながら、顧客体験設計、ユーザーインタビューなどさまざまな形でUX企画に関与し、プロダクトのリリースまで携わる。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2025 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2025年11月7日(金)に泉ガーデンギャラリーで開催しました。10回目となる今回は、最前線でデザインの可能性に挑戦する皆さまの、トライアンドエラーの過程やノウハウ、創造の原動力を盛り込んだ8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。
株式会社コンセントのサービスデザイナー八尾拓斗氏とSMBCコンシューマーファイナンス株式会社の富田瑞希氏に登壇いただき、デザイナーが作り手としてではなく、顧客中心の視点や考え方、プロセスを組織に広げる役割を担う──そんな新しい共創のかたちについて、両社の取り組みをもとに紹介しました。
デザイナーがいない組織でUX企画を推進する体制
SMBCコンシューマーファイナンスは、「プロミス」ブランドのもと、個人のお客さまのローンなどを取り扱っている会社です。IT戦略部では、WebアプリやLPの要件定義、画面の検討などをおこなっており、富田氏は推進グループでUX企画業務に携わっています。

IT戦略部にはデザインやUXのスキルセットを持ったメンバーがいない体制ですが、デザイン会社であるコンセントは制作を請け負うのではなく、品質向上のためのサポートという立場で関わっています。
コンセントの八尾氏は「実際に体験や画面を作ることはほぼしていません」「IT戦略部のメンバーが推進する内容に対して壁打ちをする役割を担っています」とその関係性について語りました。
「現場へのUX視点の導入」という第三の選択肢
組織にデザインの考え方やスキルが必要な場合、よく取られる選択肢は「外部専門家への外注」か「インハウスのデザイナーの採用」の2つです。しかし、今回のケースでは、非デザイナーの社員がUX企画業務を推進できる視点やプロセス、考え方を身につけていく「現場へのUX視点の導入」というアプローチがとられました。
富田氏はこのアプローチを選んだ理由として、デザイナーに判断を委ねてしまい自分で判断ができない社員が増えてしまう懸念と、現場の感覚を知る社員の方が高い熱量や解像度で実装できることへの期待を挙げました。

八尾氏はこの体制について「UXの視点を組織の中心に据えようとしているところが大変素晴らしく、私たちも共感している」と話しました。
UXガイドブックの作成と徹底的な壁打ち
具体的な取り組みの1つ目として紹介されたのが、体験全体の一貫性と品質を担保する軸を作るための「UXガイドブック」の作成です。これは「プロミス」のサービスとして届けたい根本的な価値や体験についての考え方を言語化したもので、「良い体験とは何か」を共通言語としてまとめたものです。

富田氏は、このガイドブックはマニュアルではなく「考えるときの補助線」だと説明します。実際にユーザーが目にしている画面ではなく抽象的にUXのポイントが解説されるなど、正解を提示するのではなく拠り所という立ち位置を徹底していることが強調されました。
もう1つの取り組みが、実務を通じた徹底的な「壁打ち」です。八尾氏は、研修をおこなって実践してもらうより、日々の業務の中でつまずいたことに対してサポートする方が今回の体制や文化に合っているという考えから、壁打ちの場づくりに注力したといいます。

八尾氏が壁打ちで大切にしていたのは、答えを提示するより問いを投げかけることです。主体は常にIT戦略部のメンバーにある状況を作ることで、メンバーが考え方やプロセスを自分ごととして捉えられ、アウトプットの質がさらに高まることを目指しました。
取り組みを通じて生まれた変化
約2年間にわたるこれらの取り組みを通じて、IT戦略部には大きな変化が生まれたといいます。
1つ目はUX企画の「当たり前」の基準の向上です。以前は要求に応えるため、「入れたい要素をどう画面に入れるのが、システム的に効率的か」といった考えからスタートしていました。しかし、今ではどんな背景や課題があるのかを依頼者としっかり会話するところから始めるように意識が変わっています。「サービスの流れを全体から考えることが、みんなの当たり前になってきた」と富田氏は語りました。
2つ目は「自主自立した案件検討プロセスの醸成」です。デザイナーは補助に徹して、社員主導で考えることをサポートし続けた結果、IT戦略部のメンバーが「自分がどうしたいか」「お客様に何を提供したいか」をしっかり言えるようになったという変化が生まれました。
これからの展望
今後について富田氏は、IT戦略部内に浸透したUXの視点を会社全体へ広げていくことや、部内で「当たり前」となった考え方やスキルを体系化して、後続に残していくことを考えていると話しました。
そして、最後に八尾氏は、デザイナーが持つ視点やプロセスを広めていくこともデザイナーの役割の一つであり、組織のやり方にあった方法や動き方を模索していくことが大切だと締めくくりました。

作り手としてではなく、顧客中心の視点や考え方を組織に根づかせていくためにデザイナーが貢献した事例紹介を通じて、デザイナーの新たな役割を考える上での大きなヒントを得られるセッションとなりました。
この記事に付けられたタグ
design surf seminar 2025 記事一覧
関連記事
【design surf seminar 2025】デザインを創る ブランドを造る Shiseido Creativeのデザイン道
2025.12.16
【design surf seminar 2025】ジャパン デザイン サミット 2025
2025.12.09
【design surf seminar 2025】10周年に見る、SmartHRのコミュニケーションデザインのこれまでとこれから
2025.12.08
【design surf seminar 2025】あなたを劇的に変えるブランディングデザイン
2025.12.04
【design surf seminar 2025】Adobe MAX最新情報とFireflyの更なる進化 〜 アドビの岩本さんに聞いてみよう!
2025.12.03
【design surf seminar 2025】空間コンピューティングとAIの融合で生まれる空間デザインの可能性
2025.11.28
【design surf seminar 2025】design surf seminar 2025 速報
2025.11.10


