【現場を変えるMobilityのアイデア】第33話:Apple ID管理の「解」来たる!?
小林 佑樹氏
株式会社MESON
MESON CEO/Co-Founder
MESON CEO/Co-Founder 東京大学大学院卒。学業の傍ら、在学中はいくつかのスタートアップでエンジニアとして開発プロジェクトに携わる。大学院卒業後、MESONを共同創業。エンジニアのバックグラウンドを活かしながら空間コンピューティング技術を活かしたプロジェクトのプロデューサーを務める。WWDC2023にて日本人デベロッパーとして、世界で初めてApple Vision Proを体験する日本人に選ばれる。2024年3月に中国北京で開催されたApple Vision Proのデベロッパーカンファレンス「Let's visionOS」に登壇者として招致される。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2025 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2025年11月7日(金)に泉ガーデンギャラリーで開催しました。10回目となる今回は、最前線でデザインの可能性に挑戦する皆さまの、トライアンドエラーの過程やノウハウ、創造の原動力を盛り込んだ8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。
近年、Apple Vision Proを皮切りにビッグテックが空間コンピューティングに投資しています。この技術は、AIをはじめとするこれまで情報空間でしか認識することができなかった複雑な技術を現実世界へ浸透させ、生活に大きな変化をもたらそうとしています。本セッションでは空間コンピューティングとAIを活用し、人とコンピュータの自然なインタラクションを実現する空間デザインについて解説いただきました。
空間コンピューティングはデジタル情報と現実世界の融合を可能にするもの
株式会社MESONは、空間コンピューティングとAI技術を活用した実証実験や、新規事業創出の企画からアプリ開発までをワンストップで提供されています。何ができるかがわからないところからスタートされるお客様が多い中で、ディスカッションやワークショップで意見を深め、PoCや実証実験を行いながら、アプリケーションの実装までを手がけるなど、新規事業創出の第一歩を共に進めるパートナーとして、お客様と一緒に伴走されているとのこと。
そんな同社では、空間コンピューティングを「頭部に装着するデバイスを通して、現実世界にデジタル情報を重ね合わせ、自由に閲覧・操作する技術」と定義しています。パーソナルコンピューティングによりデジタル情報が民主化され、モバイルコンピューティングによりデジタル情報が持ち運び可能になり、そして次の段階として、デジタル情報と現実世界の融合を空間コンピューティングが可能にしたと小林氏は述べます。
そうした市場の動きを踏まえて、Appleの空間コンピューター「Apple Vision Pro」のアプリケーション開発を例に、空間コンピューティングにおける空間デザインの試行錯誤や今後についてお話しいただきました。

空間アプリケーション開発で求められるのは空間自体を作るデザイン知識
Apple Vision Proの発売初日から使用できるよう、MESONが開発を進めた天気体感アプリ「SunnyTune」。指定した土地・時間の天候を3次元の小空間に再現し、視覚・聴覚を通して天気を感じることができます。
小林氏は、Appleが開催する開発者向けのイベントWWDC2023でApple Vision Proが発表された際に、会場で実機を体験しました。そこで、Apple Vision Proは「情報をデジタル情報として捉えさせるだけでなく、実際に視覚・聴覚を通して人々に情報を感じさせる力を持つ」「これまでのコンピューティング以上に情報をパーソナルスペースに近づける存在である」「現実空間に複数のアプリがインテリアとして混在する」ということを体感したといいます。そのため、SunnyTuneを開発・デザインするうえで、「情報を感じる」「心地よさを生み出す」「存在が価値になる」の3つを意識したとのこと。

例えば、スマートフォンアプリのように天気を記号で表したり、気温を数値で示すなど、天気を「知る」ことに特化するのではなく、3Dアニメーションや音を通して情報を感じ、体験できるように設計。また、曖昧な境界線や丸みを帯びたフォルム、どこにおいてもコミットする土台など、視覚の心地よさに加え、生活の中に溶け込む自然な音を再現できるよう、20以上の音素材をブレンドし、聴覚の心地よさにもこだわったそうです。さらに、他のアプリと共存でき、置くことで価値が生まれるようにデザインしたとのこと。
小林氏はSunnyTuneの開発を通して、空間コンピューティング領域で求められるデザイン知識は、ウェブやスマートフォンのアプリデザインではなく、インテリアデザイン・プロダクトデザイン・建築デザインなど、空間自体を作るデザインだと気づいたと述べました。
空間アプリケーションを人々に届けるため、Apple Vision Proとの距離を縮める体験デザインを
SunnyTuneのリリース後、より多くの人々に空間コンピューティングアプリを届けるためには、アプリケーションをどうデザインしていくかに加え、ハードウェアの制約を乗り越え、価値を引き出さなければならないと考えたといいます。具体的には、Apple Vision Proは4K以上の解像度で3DCGや180度の映像を大迫力で視聴できる"ディスプレイ"として評価が高い一方、装着することに対しての負荷の大きさや、操作を習得するハードルの高さが懸念されていました。
そこで開発されたのが、広いスペースや高額なセットを必要とせず、インパクトのあるバーチャルショールームを導入できる「Immersive Showroom」。デバイスを改良し、虫眼鏡のように覗き込むだけでショールームに没入できる仕組みを実現。さらに、営業などのオペレーターがタブレットでパワーポイントのようにスライド形式で操作できます。デバイスの存在感を最小限にし、魅力的なコンテンツにすぐに没入してもらえるような仕組みを構築しました。セッション中に実演されたImmersive Showroomは、展示ブースで参加者が体験することができました。
空間に滲み出るAI。空間インテリジェンスという考え方の発見
これまでのコンピューティングの歴史は、人々がコンピューターと接するインターフェースが進化してきたことによるものでしたが、これからは「処理から思考へ」「検索から生成へ」、つまり「コンピューティングからインテリジェンスへ」と変わると小林氏は言います。空間コンピューティングは、人間の目に見えるものをコンピューターが認識し、人間が与えたデータを現実世界へ融合してきました。これがさらに進化し空間の文脈そのものを理解し、人間の目に見えなかった情報をAIが思考・生成し、自然な形で生成する「空間インテリジェンス」へと変わると言います。今までデジタル空間にとどまっていたAIが現実世界へと染み出し、AIが私たちと同じように世界を視て、私たちの言葉に耳を傾け、パートナーのように語りかけてきます。デバイスの形も、ヘッドセットからメガネ型に変化するなど、今後人々が空間インテリジェンスにアクセスできる機会自体も増加していくのではないかとのこと。現実世界の中にデジタル情報が溶け込み、人々がテクノロジーを忘れる未来が来るのでは、との言葉でセッションを締め括られました。

デジタルと現実が融合することで、これからの生活にどんな変化をもたらすのか、無限の可能性を感じられるセッションでした。
株式会社MESON
「Immersive Showroom」についてはこちら


