探訪!オートデスク株式会社
竹内 一紘氏
平安伸銅工業株式会社
常務取締役
1980年滋賀県生まれ。一級建築士。2014年滋賀県庁を退職し、平安伸銅工業の常務取締役に就任。妻で三代目代表取締役の竹内香予子とともに、夫婦二人三脚で会社経営に携わる。主力商品である突っ張り棒のほか、その技術を活かした「LABRICO(ラブリコ)」「DRAW A LINE(ドローアライン)」「AIR SHELF(エアシェルフ)」などのブランドを展開。伝統と革新を併せ持つ「老舗ベンチャー」として、時代に合わせた商品開発を続けている。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2024 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2024年11月1日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。今回は、業界の最前線でデザインやクリエイティブに挑戦されている方々による8本のセッションを行い、新たな創造の原動力をお話しいただきました。当日のセッションレポートをお届けします。
1952年創業の平安伸銅工業株式会社。老舗でありながら、事業はベンチャーのワクワク感を求める「老舗ベンチャー」として、こんなのがあったらいいな!というアイデアを形にしてきました。今回は、メンバーの自律をベースに展開しているカルチャーとその結果生み出されるブランド・組織について、デザインするという視点からどう取り組んできたのか、常務取締役 竹内 一紘 氏をお招きしてお話しいただきました。
「突っ張り棒のトップシェアメーカー」から「暮らす替えを提案する会社」へ
竹内氏は入社当時から平安伸銅工業を「突っ張り棒のトップシェアメーカーです。」と紹介してきました。しかし3代目の竹内香予子氏、一紘氏はそれだけでなく、「暮らす替えを提案する会社」として新しい価値を生み出す商品の制作に取り組まれているそうです。
自社ブランドのひとつ『LABRICO』は、「Make Your Color!」をコンセプトにしたブランドです。木材の両端に、上下に突っ張るキャップをつけることで賃貸にも柱を立たせることが可能になりました。突っ張り棒をDIYなどに用いることで、人それぞれに合わせた暮らし方を実現します。
また『DRAW A LINE』は「1本の線から始まる新しい暮らし」がキャッチコピーのブランドです。インテリアとして定義した突っ張り棒に、照明やテーブルを設置することで今までにはなかったシーンを作ることができます。
できない、を意志で乗り越える経営
ブランドの立ち上げは、できないことの連続を乗り越えたからこそだと竹内氏は言います。突っ張り棒はコモディティ化していて、やってみたいことがあっても「過去に試してみたけど上手くいかなかった」と、社内からは反対されたそう。しかし『DRAW A LINE』はクリエイティブユニットTENTとコラボレーションすることで、その他の業界でのデザイン経験を取り入れ、突っ張り棒業界だけでなく日用品業界の常識から抜け出すことができたのです。さまざまな場面で出てきた課題に対してのアンサーを一緒に作っていけたことで、できないという瞬間を乗り越えられたと述べました。
「暮らす替え」の価値を信じる会社へ
ライフステージやコロナなどによる生活の変化に対して、建物や内装を変えなくても自社の製品を使うことで、その人らしい暮らしを実現することができる。暮らしが変わるタイミングで平安伸銅工業を思い浮かべるような世界観を作っていきたいと竹内氏は言います。そのために、自分たちが「暮らす替え」の価値を信じて商品開発しているそうです。
大企業にはできない隙間を狙い、老舗ベンチャーな組織を目指す
竹内氏は本質を問い価値に変換していくのが経営を行う自身の役割だと言います。同社の本質を問うたときに、創業から73年ものあいだ新たな価値を提供し「アイデアと技術で暮らしを豊かに」というキャッチコピーと商品が共にありました。今の「暮らしの豊かさ」はその人らしい暮らしを送ることであり、暮らす替えをすることで暮らしが豊かになる実感を広げていきたいという意志に行き着いたそうです。
意志を実現するために、大企業にはできない自分たちの強みを活かしていると言います。レンガ積みのような作業者の集合体ではなく、石垣積みのような意志を持った集合体としての組織を目指しているとのこと。会社が求めることをやってもらえるかではなく、その人が何をどういう目的で取り組みたいのか、その根本にある感情が動くものが何かを大事にしているそう。それぞれのワクワクしたものを組み合わせた組織づくりを目指していると述べました。
別の軸として、老舗とベンチャーを掛け合わせた組織を目指していると竹内氏は言います。マズローの5段階欲求で言えば、物質的欲求は73年続いてきた老舗企業としての側面で、精神的欲求はベンチャー企業のように新しいことにチャレンジしていく側面で満たすことができるのです。
ビジネスモデル×カルチャーモデルで価値提供を増やしていく
スキルを伸ばすだけでは価値は増えません。心構えも一緒に成長させ意志を大事にすることで価値提供を増やしていくそうです。それに紐づき、人事制度も過去の目標管理や評価は極力せず、未来への意志を評価しているとのこと。挑戦したいことを決めて、失敗したとしても学んだことを次の意志として提案してもらう。メンバー自身が意志を持って決めて進むことを大事にされています。
中小企業は事業ドメインを変えていかざるを得ない市場環境にいます。そのため、より時代を反映していたり現場でよりお客様と接しているメンバーの意志をベースとし、長期的合理性を追求していると述べました。
自分の名前で働く「プロ契約」
会社のあり方を表しているものとして、「自分の名前で働く」。そんな新しい働き方を取り入れています。同じビジョンに向かい、バリューやカルチャーモデルに共感してくれ、意志を持つ人であれば、その人のライフスタイルに合わせて業務形態を問わず雇用する「プロ契約」を行っているそうです。竹内氏は「こんなことを自分もやってみたいという意志が芽生えそうな方がいましたら遠慮なくエントリーいただき、一緒に未来について話せたら嬉しいなと思っています。」という言葉でセッションを締め括りました。
製品だけではなく、自社のあり方についても本質を問い戦略をデザインしていく。だからこそ、新たな価値を生み出しお客様に寄り添う製品が生まれているのだなと感じるセッションでした。
平安伸銅工業株式会社