design surf seminar 2024

マネージャーになった時に知っておきたかったこと 〜 もやもや解消のエッセンス 〜

レポート

2024.11.18

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⼆神 元

株式会社クボタ
デザインセンター所長
一般財団法人大阪デザインセンター
理事

⼯学部卒業後、プロダクトデザインの道を志す。⼤学院へ通いながらデザイン事務所(OUZAK Design)で秘書業務を経験。⼤学院卒業後は中途採⽤にてモックアップメーカである(株)ARRKへ⼊社し⾞両関連を中⼼にデザイン及びデジタルデータ作成へ従事。その後、シャープ(株)へ転職。携帯電話など通信機器関連のデザインを中⼼にブランディング業務に関与。2015年から(株)クボタにてトラクタを中⼼とした産業機械のデザインを担当し、2023年からはセンター⻑としてデザイン部⾨の強化へ取り組んでいる。⼀般財団法⼈⼤阪デザインセンターの理事も兼務。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2024 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2024年11月1日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。今回は、業界の最前線でデザインやクリエイティブに挑戦されている方々による8本のセッションを行い、新たな創造の原動力をお話しいただきました。当日のセッションレポートをお届けします。

約2年前から株式会社クボタのデザイン部門を率いる立場となった二神氏。デザインと経営の話を見聞きするたびに生まれていた疑問を紐解きながら、新任デザインマネージャーが生き活きと活躍するためのヒントを語っていただきます。

経営の視点から見たデザインを紐解く

2015年からクボタでトラクターを中⼼とした産業機械のデザインを担当し、2019年にマネージャーに、2023年からはセンター⻑として、グローバルで勝てるデザイン部⾨へと成長するために尽力している二神氏。約20年間のキャリアの中で、「デザイン経営」や「経営に資するデザイン」という言葉をよく耳にしてきたそうです。

一方その意味について、紐解いてくれる人や書籍がなかったことから、腹落ちしていなかったと語ります。それなら自分で紐解いてみようという思いのもと、自ら言語化を続けてきました。今回のセッションではそれをもとに、3つのテーマ「1.そもそも会社内のデザイン活動って?」「2.製品開発におけるデザイン貢献度(成果)を金額換算すると?」「3.デザインファームと企業の関係?」に沿ってお話しいただきました。

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インハウスデザイナーの活動は会社のどこに作用しているのか

このセッションでは「デザイン」という言葉を、造形計画や美的要素につながるものと捉えて話していきます。二神氏は、インハウスデザイナーの活動は会社のどこに作用しているのかという疑問を長年抱いていたことから、デザインを経済の原理・原則から構造的に捉えてきました。そのことから、インハウスデザイナーの活動と企業活動の原理をかけ合わせれば、強いマネージャーとしてアイデアを出せるのではないかと気付いたそうです。

資本主義社会では、デザインは生産手段の一つだと述べる二神氏。どの企業でも、売上高を伸ばすために経費を削減したい経営者と、良い製品を生み出し訴求するために広告宣伝費をかけたいデザイナーという構図はよく見られます。そこで重要なのは、経費を下げながら市場でのシェアを上げられるデザインを考えることです。

「シェア」を獲得する要素には、製品・サービス、価格、販促、販売の大きく4つがあります。それに加えて「市場」は、社会の状況や動向によって常に変化するため、常に注意深く観察する必要があると語ります。通常デザイナーが担当しているのはシェアを構成するプロダクトやサービスの部分で、その領域に目がいきがちです。しかし価格や販促、販売方法など、自分の担当領域以外にも提案ができれば、より強いデザインマネージャーになれるのではないかと述べました。

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また、市場を開拓する際に0から1のデザインを手がけている二神氏を悩ませたのは、本当に市場に適合しているのかという部分だったそうです。ここで重要なのが、未来への期待値を表明し、実績を作り上げていく道筋をいかにプレゼンできるかだと語ります。そうした泥臭い活動こそが、0から1のデザインの価値を作っていくと述べました。

デザイン貢献度を数値をもとに宣言する

多岐にわたる製品を取り扱っているクボタ。二神氏は、デザイナー自身が生み出した価値についても、数字をもとに宣言していくことが重要だと語ります。

GマークやJIDAが提唱している考え方に着想を得て「デザイン成果(金額)=出荷額×デザイン貢献度」と定義。オフロードビークルをフルモデルチェンジで設計した場合のデザイン成果を算出してみました。出荷額が2,000万円のオフロードビークルが1年に100台売れ、エンジニアや研究品質、マーケティングなどのメンバーが開発に携わり、デザイナーは10%の役割を果たしたとします。式に当てはめて計算すると、デザイナーは2億円ほどのデザイン成果を生み出したことになります。自分たちが関わっている製品に対しての貢献度を、他部門との関わりも踏まえた視点で捉え直すことが大切だとまとめました。

強みをもったデザインスタジオになるために

最後に、インハウスデザイナー以外のデザイナーへの話として、デザインファームと企業のデザイン部門との関係についても語られました。数多く存在するデザインスタジオの中から企業のデザイン部門に選ばれるためには、ビジネス課題を解決できる力が必要です。営業利益につながるような、地球環境・社会・業界・市場・競合を含めて分析した提案に加えて、販売や価格、販促の視点から、競合と比べて劣る点や課題がないかを分析することが重要です。そこから見つかったウィークポイントを改善する提案ができれば、信頼を与えるデザインスタジオになれると語ります。

デザインスタジオに所属するデザイナーは、競合はどこか、プロダクトで何が負けているか、どのようなプロモーションをして、どのようなサプライチェーンの中で販売するのかなどをインハウスデザイナーへ質問し掘り下げてほしいと述べます。こうした深い議論が日本中で起これば、デザインのクオリティーが上がるような変化が起きると期待を込めました。

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身の回りの言葉を自分なりに捉え直す

デザインと営業利益の関係や、売り上げとシェア・市場の関係を念頭に置いてほしいと繰り返す二神氏は、自身はこの話をマネージャーになる前には知りたかったと述べました。

最後に、マネージャーになって知っておきたかったことは、言葉の大切さだと語ります。2年ほど前から身の回りの言葉を見直して、ノートに定義付けをして書き留めている二神氏。普段使っている言葉を自分なりに捉え直すことで、マネージャーとしての力はもちろん、デザインのスキルも上がり、説得力のあるプレゼンができるようになったと感じているそうです。セッションの最後は、デザインの変化や波に乗ってほしいと「Catch The Design Wave !」という力強いメッセージで締めくくられました。


株式会社クボタ

このセッションでは事前に、マネージャーになってもやもやしていることや、担当デザイナーとして役職やキャリアでもやもやしていることなどに関する質問を、セッション参加者の皆さまから募集しました。セッション中にお話いただいた二神氏からの回答もぜひご覧ください。

Q1:部下のモチベーションのムラにはどんな風に対処していますか?

二神氏:仕事に前向きに取り組めるかどうかは本人が決めることなので、モチベーションにムラがあっても問題はないと思います。一方で、その人を理解するための対話は大切です。私自身は課長の時、15人の部下一人ひとりと毎月30分話すという地道な活動を3年間続けていました。また、部下にこう成長してほしいという思いを込めて(作為をもって)話を進めたところ、見抜かれてしらけてしまったことがあるので、ノーガード・丸腰で臨むことも意識しています。他にも、先輩や他の企業のマネージャーのアドバイスをもらい、それをもとに自分なりにチーム運営に活かしていくことも重要です。

Q2:インハウスのデザイン部署にいます。社内の関係部署に校正やデータ画像解像度などの基本知識がないため、やりとりに時間がかかっています。知識の啓蒙やボトムアップに取り組んでいますが、良い方法や効果を感じたやり方をお聞きしたいです。

二神氏:品質のせいでお客様に迷惑をかけている段階であれば、トップダウンで判断する必要があります。まずは組織のメンバーと対話し、できるメンバーで小集団活動をしたり、中途採用でスキルを持ったメンバーを雇うのも一つの手です。スキルがある人とのコラボレーションが進めば社内でスキルが標準化され、文化となり、好循環となっていくのではないでしょうか。

Q3:マネージャーになった現在でもプレーヤーとして動きたくなる時はありますか?

二神氏:半分YESです。コラボレーションしながら物事を作るのが大好きだからこそ、プレイヤーとしてもマネージャーとしても満足感を得て働いています。一方でマネージャーは、会計や人材育成、コーチングなど、これまでとまったく異なる勉強をする必要があるため覚悟が必要です。そういう意味では、プレイヤーとしてプロフェッショナルを磨くというのも自分らしく生きるコツだと思います。

Q4:ディレクターとマネージャーでは業務内容は異なるのでしょうか。そのポジションに必要なスキルや学ぶべきことが具体的にわかりません。現在デザイナーですが、他の業種から転職してきたため、教育体制などがまるで異なることに驚いています。今後、キャリアアップをしていくために何をしておくといいか業界とその特性を教わりたいです。

二神氏:マネージャーは人に、ディレクターは作品にフォーカスする役割だと思います。そしてキャリアにおいては、他人が決めるのではなくどんな自分になりたいか、to beを定めることが大切です。私自身は、製品デザインを通じた効果的なブランディングをしっかり捉えて、会社の中にデザインを根付かすことができる人間になりたいと思っています。自己成長についてはやるだけです。毎日30分でも、自分が使っている言葉やデザインワークなどに対して、こうじゃないか、ああじゃないかと深めていけば、それだけでも成長できるだろうと考えています。

Q5:これまで経験したデザインマネージャーとしての成功事例や失敗事例があれば教えてください

二神氏:失敗例は、マネージャーになった時に業務を任せられなかったことです。デザインワークを担当していたころの癖が抜けず、メンバーに仕事を依頼したら申し訳ないな、事務的な話を振ったら嫌な顔をされるのではないか…という妄想によって、締め切りに追われた時期もありました。今はメンバーを頼り、メンバーからも頼ってもらっています。

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