探訪!オートデスク株式会社
佐藤 祥氏
株式会社キッチン&カンパニー
Head of Tokyo/Partner, Business Growth & Innovation
東京で生まれ育ち、20年以上ニューヨークを拠点に、メディア、テクノロジー、アート、食品・飲料、自動車、ファッション、サステナビリティなど、日米の幅広い業界で経験を積む。 弁護士と起業家としての経験を活かしながら、ブランディングから商品開発、クリティカルな思考と戦略的コミュニケーションを行っている。パナソニック、ウーバー、ペプシコなどのFortune100企業や、世界中のスタートアップ企業と仕事を通じ密接な関係を築いてきた。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2024 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2024年11月1日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。今回は、業界の最前線でデザインやクリエイティブに挑戦されている方々による8本のセッションを行い、新たな創造の原動力をお話しいただきました。当日のセッションレポートをお届けします。
キッチン&カンパニーは、「日本の未開拓な可能性をつなぐ」をミッションに掲げるマーケティング・クリエイティブエージェンシーです。数々のグローバル企業や日本企業とビジネスを共にする一方、日本のお茶の文化を発信する「 a|roundtea 」、日本の食材を活かしたグローバルな料理を提供する「Uehara Kitchen」など自社ブランドも展開しています。
20年以上をニューヨークで過ごし、海外にいたからこそ日本の良さがよく見えてきたという佐藤 祥氏。日本のポテンシャルを海外へつなげることを日々考え続けて仕事を進める中で、日本がグローバルで戦うために必要なことが語られました。
グローバル市場における日本企業の現状
最初に、なぜグローバル市場における競争力を高めることが重要なのか、その根拠として、経済的な競争力やGDPの世界ランキングにおいて後退している日本の現状に触れました。
国民の福祉や生活の質は、グローバル市場における競争力に直接結び付いており、日本の未来を最大限に活かすには、日本企業が積極的にグローバル市場で活躍することが重要であると述べました。
What is a Successful Company?
企業がグローバル市場で成功する要素には、「市場の状況に左右されない安定性」「安定した経済パフォーマンス」「顧客のロイヤルティー」があり、その背景にあるのが「強いブランド力」「フレキシブルな経営管理構造」「適応力がある運営」だといいます。日本企業はこの現状への認識や海外進出への意欲がないわけではなく、むしろ必要性はよく理解されているといいます。しかしながら、そのノウハウがなく、海外でうまく活動できないと分析しました。
経済産業省の調査では、日本企業が事業を海外に広げるにあたり、直面する課題は主に、「サプライチェーンの確保」「人材確保と社内体制の整備」「ブランドビジネスへの理解不足」「コミュニケーション」「為替レートの変動リスク」「情報やノウハウの欠如」「サービス・製品のプレミア化」「販売パートナーの不足」があるといいます。一方で「製品の質」は課題として挙げられていない点に着目し、海外から見ても日本製品のクオリティは評価されていると伝えました。
デジタル化が進み、AIが発展する近年のテクノロジーで多くの課題が解決できる中、真の課題はどこにあるのでしょうか。それは「ブランド」の価値を伝える力の不足にあると佐藤氏は主張しました。日本は現在、記録的なインバウンド需要を経験しており、世界中からかつてないほどの関心を集めているといいます。しかし、日本からのアウトバウンドの成功例は依然として少なく、そのギャップの理由にはブランドコミュニケーションの不器用さがあると説明しました。
強いブランドを持つということは、最も価値のある不動産を所有するということである
強いブランドを持つということはどういうことなのか。佐藤氏は、「With a successful brand, you own the most valuable piece of real estate in the world - a corner of a person's mind.(最も価値のある不動産を所有するということである。人々のマインドの一角を所有することを意味する。)」と表現しました。人々のマインドの一角を所有し、消費者の決断力に繋げることができるブランドは、重要なコミュニケショーンツールの一つであると主張しました。
続いて、日本とアメリカの消費者の違いについて挙げ、日本は製品を重要視するのに対し、アメリカの消費者はエモーションを重要視する傾向があり、日本の企業がグローバルにサービスを提供するには、ブランドのストーリーテリングを心がけ、その価値を適切に伝える必要があると説明しました。ブランドビルディングに挑むと、商品の強みだけではなく、持続的な成長に向けたビジネスモデルを作り上げることができるといいます。一方で、ブランドビルディングに挑めば、誰もがグローバルに成功できるわけではなく、ブランドビルディングだけで最終的に失敗してしまう良いブランドも数多くあることを、いくつかの事例を挙げながら説明しました。
世界の競争を乗り越える鍵は、粘り強さ
このグローバルな環境で、競争を乗り越えるために「変化が必要である」と思うならば、できる限りのことをやり遂げるべきだと佐藤氏は訴えます。デザインやクリエイティブに携わる人が持つスーパーパワーは、粘り強く情熱的に戦うことが創造のプロセスであることを理解していることにあると主張しました。
好奇心を兼ね備え、普段気づかないところにチャンスを見い出す、他の人と違う思考を持っているからこそ、粘り強く取り組むことができ、それこそが「クリエイティビティ」であると伝えました。
「運」は創り出すもの
アメリカで90%のスタートアップが失敗する中、成功する10%の企業は何が違うのか。その差は「運」にあるといいます。「運」はスピリチュアルなものではなく、創り出され、構築されるものであるとし、運を引き寄せられるポジションに立つことが重要であると説明しました。そして、そのポジションにたどり着くことが、デザインとクリエイティブの活動であると説明しました。
デザインとクリエイティブの力が他のスキルに真似できないこと
佐藤氏は、「運」とは「出会い」「チャンス」「新たな縁」「点と点をつなぐこと」「人と人とのつながりの中で生まれるもの」だと解釈しました。デザインとクリエイティブの力が他のスキルに真似できないことは、この人々を結びつける体験を生み出すことであると力強く伝えました。
デザインとクリエイティブは、私たちに「感じる」ことを許し、つながりを生み、刺激を与え、時には理屈ではないものに「正しさ」を感じさせるといいます。適切に行われたデザインとクリエイティブの力は、他に類を見ないほどの強烈なインパクトを生み出すと、その価値を訴えかけました。
また、そのインパクトは、デジタル・フィジカルの壁を超え、人そのものを結びつけられることもデザインとクリエイティブのパワーであると伝えました。また、これは一晩で実現するものではなく、人々と繋がり、コミュニケーションをとり、経験を与えることを常に繰り返す粘り強さが必要であると説明しました。
何年もの挑戦と失敗、そして諦めない心が、ビジネスを成功に導いたケースも数々あり、成功した10%のスタートアップにも共通するところだといいます。人と人とのパートナーシップを信じ続けることで、自らの「運」を生み出すことができると伝えました。
“This Human Life is a Partnership”
日本国内外の企業に対し、ブランドビルディングをサポートしてきた中で、ワインボトルの海に埋もれる最高の焼酎など、消費者に伝わらない状態で店頭に並ぶ日本製品の数々を目の当たりにしてきた佐藤氏。
そこに欠けているのは人とのつながり、そして体験させるということだといいます。その体験を生み出すための演出を創り出すことがデザイン・クリエイティブの役割であると伝えました。そして、その体験を創り出すためには、人と人との繋がりが不可欠であり、キッチン&カンパニーが掲げる姿勢「This Human Life is a Partnership(人生とは、パートナーシップで成り立っている)」という言葉でセミナーは締め括られました。
質疑応答では、「デザインに対する感度が高いクライアントの割合は日本とアメリカで違いがあるのか」「ブランド作りにかける予算は日本に比べてアメリカの方が多く使う傾向があるの?」「日本の文化的背景の魅力は?海外に通用するのか?」など、参加者の高い関心と熱量をうかがうことができました。
経験に基づいたリアルな現状の共有と、デザイナー・クリエイターの可能性を力強く伝えた佐藤氏のお話は、日本の持つポテンシャルに改めて目を向けるきっかけになったとともに、参加者の背中を強く押した内容となりました。
キッチン&カンパニー
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