design surf seminar 2023

Whateverが「見たことがないもの」を生み出し続けられる理由

レポート

2024.01.12

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川村 真司

Whatever Co.
Creative Director・CCO

Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkといった世界各国のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを歴任。2011年東京でPARTYを設立し、PARTY New York及びPARTY Taipeiの代表を務めた後、2018年新たなクリエイティブスタジオWhateverをスタート。2023年よりOpen Medical LabのCCOにも就任。数々のグローバルブランドのキャンペーン企画を始め、プロダクトデザイン、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など、その活動は多岐に渡る。カンヌ・ライオンズをはじめとした国際賞を100以上受賞し、Creativity「世界のクリエイター50人」、Fast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」などに選出されている。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2023 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2023年11月10日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。8回目となる今回は、4年ぶりのリアル開催です。コミュニケーションの手法や創造の手段に挑戦した方々による8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。

「なんでも考え、なんでも作る」 をキャッチフレーズに、幅広い分野で作品を生み出し続けるクリエイティブスタジオ、Whatever(ワットエバー)。彼らはクライアント案件ではない「自社プロジェクト」にも力を入れており、アプリ「らくがきAR」や曲の歌詞がモーショングラフィックで映し出される「Lyric Speaker」、木彫りの人形によるストップモーション時代劇『HIDARI』など、たくさんの作品を手がけています。

今回はCCO(チーフクリエイティブオフィサー)の川村真司氏を招き、「見たことないアイデアを実現するためのプロセスとカルチャー」と題したセッションを実施。その様子をレポートします。

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セッション冒頭で川村氏は、Whateverを「誰も見たことがないけれど誰もが心動かされるような新しいアイデアを考え、それを一番美しいカタチで実現していくために生まれたクリエイティブスタジオ」と紹介しました。

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Whateverという社名は戦略策定から企画立案や実際の制作まで、文字通り「なんでも」手がけることから名付けたそうです。「なんでも」つくる理由は、社会課題やクライアントの抱える課題が多様化・細分化する中、最適なアイデアを考え最適な形で解決するためには「なんでもつくれる」ことが大切だと信じているからだといいます。

プロジェクトの内訳を見ると、実に多種多様。20種類近いジャンルのプロジェクトを手がけています。しかし「課題を解決する」プロセスは同じとのこと。

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そんなWhateverが意識的に分けているのが、受託プロジェクトと自社プロジェクトです。そして、この自社プロジェクトの存在こそが「見たことのないアイデアを実現するプロセスとカルチャー」を育む上で最も重要だというのです。

見たことのない表現は、待っているだけじゃ作れない

川村氏は自社プロジェクトに力を入れる4つの理由を紹介しました。

1つ目は「見たことがない表現は、待ってるだけじゃ作れない」から。Whateverが目指すのは、世の中に新しい価値や新しい世界の見方を提示すること。しかしクライアントワークでは予算やブランドのトーン&マナー、ターゲットなどの制約があります。「共感」が大切なため、むしろ「見たことがないもの」が求められていないことも多いといいます。

2つ目は「課題を見つける力を養う」ため。クライアントの課題を解決するだけでは「課題を見つけるスキル」は磨けない一方、近年はクライアントワークにおいても課題そのものから考えるプロジェクトも多く、そのためにも課題を見つける力は常に磨き続ける必要があります。

3つ目は「新たな領域における企画開発の実験と実践」のため。経験がないことをいきなりクライアントワークで実施するのはリスクが高いといえます。でも自社プロジェクトとして経験しておけば、今後のクライアントワークにも生かすことが可能になります。失敗しても大丈夫な環境でチャレンジできるのが自社プロジェクトならではのメリットなのです。

そして4つ目は「受注型ビジネスではなく自社IPで生計を立てることを目指している」から。純粋に新しい、面白いと思うプロジェクトによって会社を支えられるようになれば、より自由に新しい表現に挑戦できます。

kawamura4.png著名な漫画家や絵師たちが拡散したことで、世界中で話題になった「らくがきAR」

自社プロジェクトを根付かせるための企業文化とは

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自社プロジェクトを生み出し続けるためにはどのような企業文化やチーム体制が必要なのでしょうか。

1つ目は「良いアイデアさえあれば参加できる」体制とすること。アイデアを出すだけでも参加できるようにして、ハードルを下げているといいます。また、最初のアイデアが最も重要だと信じているからこそ、そのアイデアを出した人を評価するために全てのプロジェクトでスタッフクレジットに「idea」という項目を設定しているとのこと。

2つ目は「アイデアをすぐに形にできるチーム」を用意すること。デザイナー、エンジニアなど幅広いスキルを持った人を集め、プロトタイプをつくれる体制を準備しています。まず形にしてみることで、本格的な開発に進むか中止するかの判断も迅速にできるといいます。

3つ目は「常に1つは自社プロジェクトが動いている状態を保つ」こと。自社プロジェクトでは失敗を恐れずに挑戦することが大切。だからこそ「特別な機会ではなくあたりまえの機会と思ってほしい」と川村氏。そのために、定期的にアイデアを募集するなどの工夫を通じ、自社プロジェクトが途切れないようにしているそうです。

そして4つ目のポイントは「クラウドファンディングなどの手段も活用する」こと。自社プロジェクトでは、売り上げが約束されていないため、多額の予算はかけにくい状況に直面します。そこで、自社だけで資金をまかなえない場合はコミュニティを巻き込んでプロジェクトを進めることもあるといいます。川村氏は個人プロジェクトも含めてこれまでに10回ほどクラウドファンディングを実施し、いずれも成功してきたとのこと。

kawamura7.png木彫り人形を使ったストップモーション映像の「HIDARI」。クラウドファンディングで5分のパイロット・フィルムを制作。今後長編映画化を目指す。

「見たことのないアイデア」を実現するために、自社プロジェクトに力を入れているWhatever。「誰かに頼まれたこと」だけでなく「自分がやりたいこと」をまっすぐに追求する姿勢は、デザイナーをはじめとしてすべてのビジネスパーソンにとって参考になるのではないでしょうか。


Whatever Co.
らくがきAR
HIDARI

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