探訪!オートデスク株式会社
松長 知宏氏
隈研吾建築都市設計事務所
設計室長
隈研吾建築都市設計事務所 設計室長。1981年富山県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。2012年より隈研吾建築都市設計事務所に入社。主に3D技術を活用したヴィジュアライゼーションおよび建築デザインのサポートを行う。一級建築士。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2023 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2023年11月10日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。8回目となる今回は、4年ぶりのリアル開催です。コミュニケーションの手法や創造の手段に挑戦した方々による8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。
隈研吾建築都市設計事務所は、海外プロジェクトも多く手がける所員数約300名の設計事務所。部署や役職によって明確に分けられた階層型の組織とは異なった、非常にフラットな組織であり約半数以上が外国人スタッフという多様性に富んだ職場です。所員のほとんどが設計スタッフという中、3DCGや模型、グラフィックといった分野の専門チームも存在しています。その中で3DCG専門チームに所属する松長 知宏氏が、建築設計の主流とは違う仕事も多く手がけた立場から、関わったプロジェクトの数々について紹介しました。
社内の多くのプロジェクトに関わるチーム横断型の働き方
隈研吾建築都市設計事務所では、ほとんどのスタッフが設計に携わる中、設計を補助する専門部隊のような位置付けで、3DCG、模型、インテリア、グラフィック、ファブリック、ランドスケープを担当するチームがあります。これらのチームは、プロジェクトごとにチームを作る設計者とは違い、どのプロジェクトにも関わることになります。
松長氏は3DCGのチームに所属し、ビジュアライゼーションとコンピューティングデザインを担当しています。ビジュアライゼーションは建築パースを描くことで、1人の担当者が1週間に1プロジェクト、年間50程度のプロジェクトに関わる過酷な仕事とのことです。
インハウスのパース担当なのでスケジュール的に無理を強いられることもありますが、多くのプロジェクトに関わる分、社内のいろいろな人、チームと満遍なく関わっているところがチーム横断型の働き方と言えるのではないかと話しました。
入社して5年くらいはパースを描くビジュアライゼーションの仕事ばかりだったのが、段々とコンピューティングデザインに軸が移っていったそうです。コンピューティングデザインでは3DCGを建築設計に活用していく一方で、建築の分野以外にも幅を広げてさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
コンピュータを活かした設計手法のパラメトリックデザイン
コンピューティングデザインの事例としてまず取り上げたのが、国立競技場の座席の色のグラデーションです。座席の色がランダムに変化していることで空席が目立たないようにデザインされていますが、6万席の配色はパラメトリックデザインという設計手法でコンピュータによって作られたと解説しました。
設計の要素を数値化し、パラメーター(数値変数)を変化させることによって膨大な数のバリエーションを生み出したり、ランダムなパターンをいくつも生成できるのがパラメトリックデザインです。
スコットランドの美術館「V&A Dundee」のプロジェクトでは、施工段階でまだ決まっていなかった部材約2000個のモデリングが必要となり、設計段階では関わっていなかった松長氏が引き継ぐことになったそうです。その際にも、パラメトリックデザインを使ってパラメーターにより角度や長さを決めていきました。岸壁をイメージした建物で、そのイメージに合うように「パラパラ」させるよう配置したと説明しました。隈研吾建築都市設計事務所では「パラパラ」のようなオノマトペを、イメージを伝えるときによく使うとのことです。
3DCG技術を応用したインスタレーション作成
3DCGチームが役にたつことがパースを描く以外にもあることを実感した松長氏は、その後インスタレーションの分野にも関わるようになりました。ミラノデザインウィークでの大気汚染を吸着する機能を持つ布を使ったインスタレーションでは、1.2メートル角の布を折り紙のように折ってユニット化したものを繋げてオブジェを作りました。
表参道のパイナップルケーキ店で新しく発売されるりんごケーキに合わせた、りんごの形の木の什器の作成では、建築と違い短い時間で形になるスピード感が面白かったと話します。そして、スピーディに検証ができる3Dチームに向いているプロジェクトだと感じたそうです。
ブルガリアでコンクリート型枠に用いられるchamという木の板を使って学生たちと作ったインスタレーションでは、コンピュータを使いパラメーターにより幅や高さなどを制御しつつリアルなものを作る、デジタルとアナログ・フィジカルとの行き来を学生たちと体験しました。
デザイナーとコラボしてファッションの分野にまで進出
プロジェクト紹介の最後は、サカナクションの山口一郎さん、ファッションブランド・アンリアレイジ(ANREALAGE)のデザイナー森永邦彦さんとコラボレーションしたインスタレーション作成がきっかけで参加することになった、アンリアレイジの2021年コレクションです。
ヘッドピースの制作を隈研吾建築都市設計事務所が担当したのですが、3Dで布がどう広がるかなどをコンピュータでシミュレーションして、3DCGで作ったデータを元に布をレーザーカッターでカットして作成したと解説しました。
質疑応答で設計以外のチームが設計に与える影響を聞かれ、横断型で多くのプロジェクトに関わっている経験から、社内で似たようなものが作られてきたときにコメントができたり、過去にうまくいかなかった事例を共有できるなどの例を紹介しました。
ほかにも質疑応答では、「日本語が母国語でないスタッフにもオノマトペは共有できつつある」「(隈研吾氏は)生成AIをダメ出しする材料として使っている」など興味深い話が聞けました。
様々なプロジェクトに携わりファッションの分野にまで関わることになった松長氏ですが、今後も3DCGを起点に建築以外の分野にも積極的に挑戦していきたいと語っていました。
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