探訪!オートデスク株式会社
藤井 将之氏
日本デザイン団体協議会(DOO)
デザイン保護委員長
藤井環境デザイン
代表・環境デザイナー
エンジニアからデザイナーに転向し、公共空間を中心としたサイン計画やV.I.・ランドスケープ・プロダクト・内装・展示会ほか、屋外広告物ガイドラインなどの都市計画などの環境デザインに携わる。日本デザイン団体協議会【DOO】では知財を中心としたデザイナーを支援する仕組みづくりを推進。「ボーダーレス(国際化・市場拡大)」「カテゴリーレス(他業界・産業との連携)」「エイジレス(幅広い年齢層との価値共有)」の方針を挙げ、デザインの社会的価値向上とともに産業の発展を目指す。
Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2023 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2023年11月10日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。8回目となる今回は、4年ぶりのリアル開催です。コミュニケーションの手法や創造の手段に挑戦した方々による8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。
日本デザイン団体協議会(DOO)が実施した、日本を代表するデザイン関連7団体を対象とした実態調査アンケートの結果をもとに、デザイン業界のリアルを読み解きながら今後のデザイナーのあり方について考えました。
日本デザイン団体協議会が「デザイナー実態調査アンケート」を始めた理由
日本デザイン団体協議会(DOO)は、日本を代表するデザイン団体7つが集まってできた連絡協議会です。藤井氏の所属するデザイン保護委員会では、主に知的財産関係のことでデザイナーをバックアップすることを目指しています。その他、それぞれのデザインジャンルを超えたアーカイブや整理を行いデザインミュージアム設立に向けて活動しているデザインミュージアム委員会など、さまざまな活動を行っています。
DOOが「デザイナー実態調査アンケート」を始めた理由は、デザインの発注者である中小企業の経営者からデザインの仕事についてよくわからないという声を聞くことが多かったからだそうです。デザイナーの活動領域や業務実態を一般の人に知ってもらうことを目的にスタートしており、「そもそもデザインとはどのような行為か」「デザイナーの果たすべき役割とは」といったことを明らかにして、デザインの未来に繋がる基礎資料づくりになればと考えています。
本セミナーでは、アンケート結果を見ていきながら、「来場者のみなさんと問題意識を共有して、みんなで考えていきたい」と藤井氏は話しました。
全体の80%が10年前と比較してデザイン業務が「変わった」と回答
このセッションでは、来場者に配布した○×カードを使って会場内でもアンケートを実施しました。会場アンケートによると、ほぼ全員がデザイナーおよびデザイン業に携わっている人で、フリーランスとインハウスではインハウスが圧倒的多数でした。
10年前と比較してのデザイン業務の変化ですが、アンケート結果によると全体の80%が「変わった」と回答しています。一方でデザイン報酬についての変化は少ないようです。また、デザイナーの契約内容および責任範囲は変化したと感じている人が多い結果になっています。
また、「変化したこと・変化しないこと」の自由回答の結果をまとめたところ、領域が拡がり、業務が増え、要求される専門性や水準も高くなったことがわかりました。そこで、業務内容の拡がりについて、「多様化と拡張」「コンサル・マーケティング業務」「IT化・DX化」の3つのポイントにわけてアンケート回答者からの声を紹介しました。
無償コンペや複数案の成果物納品などデザイン作業が軽視される傾向も見られる中、「何をいつまでに行うか、報酬はいくらか」といった設計与件を業務前に細かく確認することが望ましいといったアドバイスもありました。
ほかにも、「発注者側のデザインリテラシー、またはモラルの低下」「著作権の理解不足、無償コンペが散見」「業務範囲の拡がり、ゴールの見えない修正作業が増えている」といったネガティブな項目に分類された回答者の声を紹介しつつ、解決するためのヒントについても触れました。
トラブル回避には中間確認が重要で、顧客とのやり取りは残しておく
デザイン契約については、回答者の大多数は業務委託契約で仕事をしており、少数ながらロイヤルティ契約の人もいました。成果物に関して顧客とトラブルが起こったことが「ほとんどない」「まったくない」と答えた人が80%以上でしたが、「顧客都合で業務が中止、すでに作業した範囲の支払いを拒まれた」といったトラブルの事例を紹介しました。トラブル回避には中間確認が重要で、あとからの証明になるので顧客とのやり取りは必ず残しておくと良いといった知見が紹介されました。
デザイン報酬については、半数が自社の独自方法で算出しており、算出項目は日額計算、業務項目積算が多いようでした。
知的財産権については、特許・実用新案・意匠・商標を自社で所有しているケースはまだまだ少なく、知的財産権について弁護士や弁理士に相談している人は半数くらいという結果でした。なお、無料で知的財産権に関する相談を受け付けているところもあるので利用を推奨するといった情報共有もありました。
海外の仕事でのトラブル比率はそれほど多くない
次に海外の仕事について、日本との違いを中心に紹介しました。グッドデザイン賞の受賞作品の約3割が中国、台湾と海外から日本への進出は多い一方、日本から海外進出するデザイナーはまだ少ないのが現状のようです。それでも35%程度の人が海外の仕事をしており、中国、アメリカ、ヨーロッパを中心に近年では東南アジアへの進出が多いとアンケート結果を紹介しました。
海外との直接契約ではなく、日本国内で日本語で契約しているケースが半数で、それだけ海外から日本のデザインへの興味が高くニーズがあることが伺えるとのことです。リスクはありますが、海外進出はそこまでハードルが高いわけではないといった説明もありました。
工程に関しては日本とそれほど変わりませんが、「(仕事の進め方の)スピードが速い」「決定が速い」「決定権者が明確」「業務範囲が明確」と、デザイナーとしては仕事がやりやすい面も多いようです。
海外の仕事をしている人でトラブルにあったことがあるのは28.7%と日本国内の比率に比べて多くはありません。思ったよりトラブルは少ないことがわかりますが、政権が変わったことでプロジェクトが中断するなど、その国ならではの理由でのトラブルもあるようです。また、「納品後に一方的に音信不通になった」といったトラブルもあり、いざというときに連絡を取る手段が難しいリスクもあります。
これからのデザイナーのあり方について
最後に、これからのデザイナーのあり方についてアンケート結果を元に考えていきました。まず、今後のAI活用について「やっぱり人には代われない」といった声も多かったのですが、これはアンケートを行ったのが画像生成AIの「Midjourney」「Stable Diffusion」が登場する前だった影響も大きいようです。今後のアンケートでは結果が変わってきそうだという解説がありました。
自由回答から「コトからモノへの回帰」「ユーザー視点と社会課題視点を両方持つべき」「哲学的視点(理想)とビジネスとの共存」などの声を紹介して、「人・経済・環境・美観・社会・技術…と、全体を見据える高度なデザイン人材育成が課題」とこれからのデザイナーのあり方についてまとめました。
日本デザイン団体協議会のサイトからダウンロードが可能なアンケートには、各デザイン団体ごとの解説も添付されていて業界ごとの特色も見ることができるとのことでした。
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