design surf seminar 2023

拡張する空間概念 地中から空中まで

レポート

2023.12.25

シェア

湯澤 幸子

多摩美術大学環境デザイン学科教授・一級建築士

1965年東京生まれ。文化・商業・医療福祉施設空間のプロジェクトを数多く手掛ける。インテリア・建築・ランドスケープをシームレスに繋ぎ、人・モノ・空間の関係を領域横断的に研究する。受賞歴に「JPタワー学術文化総合ミュージアムインターメディアテク」、「酒田夢の俱楽」、「ジョンレノンミュージアム」等。他「日本赤十字社献血ルーム」、「赤十字子供の家」等。公益社団法人 商業施設技術団体連合会会長。

窪田 茂

Degins JP株式会社代表 ・JCD 日本商環境デザイン協会理事長・一級建築士

1969年東京生まれ。2003年、窪田建築都市研究所(有)を設立。2023年4月、Degins JP(株)へ社名を変更。建築からインテリア、プロダクトなど幅広く、企画、プロデュース、デザインを行う。代表作にThe WAREHOUSE、Galaxy Harajuku、MERCEDES-BENZ CONNECTION 、Bosch Café、METoA Ginza、HIYORI CHAPTER京都ホテルなどがある。MERCEDES-BENZ CONNECTION(六本木、乃木坂、大阪)、今治タオル南青山店、UT Store Harajukuなど受賞歴も多い。

津山 竜治

日本空間デザイン協会理事
株式会社乃村工藝社コンテンツ・インテグレーションセンター所属デザイナー

ロケーションとコンテンツから、存在しなかったストーリーを見出してデザインする 情景演出家。手のひらに納まるギフトから万国博覧会のランドスケープまで、スケール・ジャンルを問わずプロジェクトを象徴するデザインで感動と賑わいづくりに貢献する。近年は、リアルとバーチャルを合せた演出手法で美しい光景とユニークな体験づくりを追求。APIDA、SKY、DSA、SDA、GOOD DESIGN、NDF など受賞歴多数。セミナー、ワークショップ、デザインツーリズムなど優れた空間デザインの紹介活動をしている。

Tooは、特別セミナー「design surf seminar 2023 - デザインの向こう側にあるもの - 」を、2023年11月10日(金)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催しました。8回目となる今回は、4年ぶりのリアル開催です。コミュニケーションの手法や創造の手段に挑戦した方々による8本のセッションを行い、盛況のうちに幕を閉じました。当日のセッションレポートをお届けします。

「日本空間デザイン賞」は、空間デザインの価値を未来へ繋ぐために、一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)と、一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA)がそれぞれ永きにわたり開催してきたデザインアワードを合併し設立した、日本最大級の空間系デザインアワードです。

2023年の日本空間デザイン賞の最終審査に携わった窪田茂 審査委員長と湯澤幸子 多摩美術大学教授をゲストに、津山竜治 DSA理事がファシリテーターを務め、注目の受賞作品を取り上げ対話してデザインの新しい潮流を読み解きました。

日本空間デザイン賞大賞「KUKAN OF THE YEAR」の3作品

2023年の日本空間デザイン賞は、コロナ禍でプロジェクトの数が減っている中、779作品の応募が集まりました。11のカテゴリーそれぞれで、金、銀、銅の賞が選ばれ、金賞の中から大賞である「KUKAN OF THE YEAR」が3つ選出されました。

大賞のひとつ『星野神社 覆殿・本殿(愛知県豊川市市指定文化財)』(望月成高 / 望月工務店、望月建築設計室)は建築関係の賞も取っている作品で、デザイナーではなく宮大工の職人が応募してくれたことが珍しい例となっています。

星野神社について写真で紹介する三人
星野神社について写真で紹介する三人

多摩美術大学教授・湯澤幸子氏は「技術の継承のため、ものづくりを目指す人たちにアピールする場として応募してくれたことが面白い。主催者側として、このアワードの社会的意義を正しく解釈してもらい、裾野が広がっていることが感じられた」と話しました。

同じく大賞の『Sumu Yakushima ~Regenerative Life Studio~』(小野司 / tono)は鹿児島県の屋久島に建てられた自然と建物の共存を本気で考えた住宅で、地中の生物や水脈、細菌をそのまま維持するだけでなく、建物が立つことでより強固になっていく方法を考えて設計されています。

焼き杭が土中の菌のネットワークを繋ぐという「Sumu Yakushima」の解説
焼き杭が土中の菌のネットワークを繋ぐという「Sumu Yakushima」の図解

窪田茂 審査委員長は「物事を考える思想が、地中にまで及んできていることがすごく印象的」と話し、本セッションのタイトルの「地中から空中まで」の「地中」はこの作品から来ていると説明しました。 また、湯澤氏は、今世界の建築家たちの間では生命体としての地球という認識をもとに、建物を作ることでどう世界に好循環を生み出していくのかがホットな話題となっていると紹介。それを実践しているこの作品は大賞にふさわしいと話しました。

もうひとつの大賞の『GOLDWIN PLAY EARTH PARK TOYAMA 「風の遊具」』(中村竜治 / 中村竜治建築設計事務所)は、ゴールドウインが主催するイベント会場に作られた高い塔の遊具で、太陽光による熱と煙突効果によって上昇気流を作り出し、円錐状の紙を浮かせて遊びます。

「風の遊具」を写真で紹介
「風の遊具」を写真で紹介

湯澤氏からは、「太陽の熱、空気といった目に見えない、実体のないものを使って空間の概念を拡張しているのが面白い。重力から解放されて上空へどんどん上がっていく不思議さ、時間と空間のなせる驚きを高く評価しました」とコメントがありました。

「地中深くや空中に向かってといった空間の広がりが今年の特徴」と湯澤氏が話すと、窪田氏は「今のデジタル時代にデジタルとは関係ないもの3つが大賞を取ったこと、根本的に大事にしなくてはいけないことをうまく表現した作品が大賞を取ったことが今までと違う傾向だった」とまとめました。

金賞、審査員特別賞など各賞の作品を紹介

今年は、最後の4作品に残りながら大賞を逃した『陸前高田市立博物館』(田中利岳、橋本旬平 / 丹青社)のために、準グランプリ的な「KUKAN OF THE YEAR RUNNER-UP」という賞が急遽作られました。津波の影響に遭った博物館を再構築したもので、陸前高田の記憶をもう1度繋いでいくためのデザイン、建築やディスプレイの仕方が評価されました。

「KUKAN OF THE YEAR RUNNER-UP」に選ばれた陸前高田市立博物館
「KUKAN OF THE YEAR RUNNER-UP」に選ばれた陸前高田市立博物館

ほかにも優れた作品がたくさんあるということで、金賞の作品7点、審査員特別賞の作品11点、銀賞の作品2点を紹介していきました。

『Sony Park KYOTO』(中原崇志)は「エキシビション、プロモーション空間」の金賞です。京都の新聞社の印刷工場跡地で行われたイベントで、その場所でなければできない効果を狙ったインパクトのある空間表現が評価されました。

印刷工場跡地で行われたイベントSony Park KYOTO
印刷工場跡地で行われたイベントSony Park KYOTO

『花 西 海』(坂口舞/設計機構ワークス)は、「ショップ空間」の金賞です。庭師がオーナーの花屋店舗で、効率一辺倒ではなく一見無駄なことをたくさんしているところが評価されました。手間を惜しまず、地元のありふれた材料を使って面白いものを作ろうという意欲に溢れる建物で、完成後は地域のコミュニティにもなっているそうです。 ファシリテーターの津山氏からは「裏山が借景となって建物が花器のように見える効果も巧み」というコメントがありました。

この地域ならではのローカル色も評価された「花 西 海」
この地域ならではのローカル色も評価された「花 西 海」

審査員特別賞・田中 仁賞の『Tokyo Midtown DESIGNTOUCH2022 うみのハンモック』(永山祐子/永山祐子建築設計)は、海洋プラスチック汚染の主原因である廃漁網をリサイクルして子供達の遊び場にしたエコロジーを考えた作品です。

普段魚を捕まえる魚網が子供たちを捕まえているみたいにも見える「うみのハンモック」
普段魚を捕まえる魚網が子供たちを捕まえているみたいにも見える「うみのハンモック」

今回登壇いただいた湯澤氏選出の湯澤幸子賞は『UNIQLO LOGO STORE E』(佐藤 可士和/SAMURAI)です。当たり前に見られているユニクロのショップなのでデザインアワードでは評価されにくいものですが、サービスを売るショップの原点を守り王道を行っていることと、ショップが暮らしと人を支えるライフインフラであることに真面目に取り組んでいることを評価したとの解説がありました。

今年の日本空間デザイン賞の傾向について

最後に今年の日本空間デザイン賞の傾向として、湯澤氏は「完成度やアイデアだけでなく、写真だけでは読み取れない未来に向けてのメッセージ性があるものに評価が集まった」と解説しました。

窪田氏は「近年は社会性の強いものが選ばれやすい状況にあるが、今年は社会性を超えて地球について考えていくぐらいのとこまで行った。その一方で、デザインそのものの美しさ、表現の仕方にはまだまだ可能性があると思っているので、空間デザイン賞として美しい作品もきちんと選んでいきたい」と話しました。

丁寧に各作品を解説した(左から)窪田氏、湯澤氏、津山氏
丁寧に各作品を解説した(左から)窪田氏、湯澤氏、津山氏

そして窪田氏から、日本空間デザイン賞に作品を応募してほしいことと、最終審査は公開されており審査時の議論を聞くだけでも面白いので審査の段階から注目してほしいといった説明がありました。次回の審査の様子はオンライン配信だけでなく現地で見ることも可能とのことです。

「空間デザインには、人々の感動を起し、社会を豊かにするちからがあります。 我々は空間デザインのちからを信じています」という締めの言葉とともに、「新しいデザインの潮流に注目して、皆さんもデザインの潮流を作っていただければと思います」という来場者への呼びかけでセッションは終了しました。


日本空間デザイン賞
一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)
一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA)

関連記事

【design surf seminar 2023】Whateverが「見たことがないもの」を生み出し続けられる理由

2024.01.12

【design surf seminar 2023】設計事務所における横断型クリエイティブについて

2023.12.28

【design surf seminar 2023】10年でどう変わった? デザインとあの(業務・お金・知財・契約)話 ~実態調査アンケートから読み解くデザイン業界のリアル~

2023.12.26

【design surf seminar 2023】ソニー・ホンダモビリティにおける新たな共創デザイン開発

2023.12.21

【design surf seminar 2023】Vision To The Future:日本の未来をどうデザインしていくか

2023.12.07

【design surf seminar 2023】Adobe MAX最新情報と人工知能が目指す道  ~アドビの岩本さんに聞いてみよう!~

2023.12.05

【design surf seminar 2023】クリエイターのワクワクは止まらない2023 カラダで創り出そう、クリエイティブ!

2023.11.24

design surf online

「デザインの向こう側にあるもの」ってなんだろうを考えよう。
design surf online(デザインサーフ・オンライン)はTooのオンラインメディアです。

 design surf onlineについて

おすすめ記事

探訪!オートデスク株式会社

訪問!日本デザイン学会様

探訪!Jamf Japan合同会社