人と社会をつなぎ、商環境デザインの価値を未来へ届ける。日本商環境デザイン協会(JCD)が目指すこれから

インタビュー

2026.08.07

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一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD) 理事長
株式会社ODO 代表取締役
折原 美紀 氏

写真
ナカサアンドパートナーズ
森石 風太 氏

デザインを取り巻く環境は、デジタル技術やAIの進化、社会情勢の変化によって大きく変わりつつあります。人と社会をつなぐ商環境デザインには、これからどのような役割が求められていくのでしょうか。

一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)は2026年6月に、新理事長のもと、新たな体制をスタートさせました。1961年の設立以来、商環境デザインの発展に取り組んできたJCDは、デザイン賞や交流活動などを通じて、デザイナー同士が学び合い、つながる場を提供してきました。今回は、新理事長に就任された折原美紀(株式会社ODO 代表取締役)氏に、これまでの歩みを振り返っていただきながら、就任への思いや商環境デザインの未来についてお話を伺いました。


JCDとの出会いが広げた、デザイナーとしての可能性

Too:これまでの活動を振り返って、ご自身にとってJCDはどのような存在でしたか?

折原氏(以下、敬称略):私がJCDと出会ったのは、独立したばかりの仙台を拠点に活動していた頃でした。当時の支部長から声をかけてもらい、JCDのデザイン賞に応募して、新人賞や奨励賞などをいただいたことが自分にとって大きな励みになりました。

地方で活動していると、全国で活躍するデザイナーの方々と直接交流する機会は限られてしまいます。しかし、デザイン賞をきっかけに、受賞者や審査員の方々とお話しできる機会が生まれました。これまで本でしか拝見したことがなかったような方々と直接お話して、自分とは異なる考え方や仕事への向き合い方を知れたことは、大きな学びになりました。

JCDに入って間もない頃には、著名なデザイナーの方々をお迎えしたイベントのモデレーターを務めたこともありました。緊張して何を話したのか覚えていないくらいでしたが、その場に立たせてもらったこと自体が大きな経験でした。自分のポートフォリオを先輩方に震えながら見ていただいたこともあります。そうした経験を積み重ねることで、少しずつ自分の世界が広がっていきました。

「つなぐ役割」を担うために。理事長就任への思い

Too:今回、理事長就任のお話を受けたときは、どのようなお気持ちでしたか?

折原:以前からお話をいただくことはありましたが、最初はずっとお断りしていました(笑)。歴代の理事長の姿を近くで見て、その責任の重さを感じていましたし、「自分にはとても無理なのではないか」と思っていたんです。

ただ、これまでJCDには本当にたくさんの機会をいただきました。異業種からの転職からスタートし何のスキルもなかった頃から仕事を続けてこられたのも、交流を通じて多くのことを学び、多くの方とのつながりがあったからだと思っています。

そう考えていく中で、この業界に恩返ししたいと考えるようになりました。これまでの経験を活かして、人と人をつないで、組織の中で潤滑油のような役割を果たすことなら、自分にもできるかもしれない。そう思って、理事長を引き受けました。

Too:JCDの運営で大切にしていることはありますか?

折原:今年のテーマとして「ひらき、つなぎ、ともにつくる」を掲げています。正会員だけではなく、賛助会員やメーカーの方、会員以外の方も含めて、ものづくりに関わるさまざまな方々との垣根を超えて、新たなつながりを生み出していきたいです。

人と人との関係は、会う頻度や一緒に過ごす時間、その密度に比例して深まっていくものだと思います。だからこそ、実際に顔を合わせて、近い距離で情報を交換し、時には何気ない会話を交わしながら、一緒に考え、何かをつくっていく、そんな関係性を大切にしたいと思っています。

商環境デザインを取り巻く環境の変化。リアルな価値をつくるために

Too:ここからは、商環境デザインを取り巻く環境についてお聞かせください。デジタル技術の進化、インバウンド需要の拡大など、商環境デザインを取り巻く環境は大きく変化しています。現在、業界で最も大きな変化は何だと感じていますか。

折原:一番強く感じるのは、経済環境の変化です。これまでとは大きく状況が変わり、クライアントは限られた予算の中で、どこに投資していくのかを非常に悩んでいます。私たちデザイナーも、コストを抑えるための工夫をしながら、どのような価値を提供できるかを考えなければいけません。コストとデザイン価値の両立は、業界全体の大きな課題になっていると感じています。

また、AIをはじめとするデジタル技術は、私たちの仕事を助け、デザインの可能性を広げてくれるものだと思います。一方で私たちが最終的につくっているのは、人が実際に利用する「リアルな空間」です。そこには実際につくる人がいて、空間を使う人がいて、クライアントがいて、そして私たちデザイナーがいます。さまざまな立場の人が力を持ち寄り、手を携えながら、一つの空間をつくっていくのだと思います。

だからこそ、テクノロジーに寄りすぎるのではなく、昔から変わらず大切にされてきた文化や技術、手仕事など、失ってはいけないものにも目を向けていきたいです。新しいものを取り入れるだけではなく、これまで受け継がれてきたものを振り返り、それらを未来へどう受け継いでいくかを考えることも大切です。

地方に眠る価値を、体験を通して世界へ届ける

Too:理事長として就任され、特に力を入れていきたいことはありますか?

折原:より多くの仲間を増やすために会員数を増やし、地方の力をより高めていきたいです。その土地に昔から受け継がれてきた文化、そこでしか生まれないデザインがあり、そこで活動しているデザイナーもたくさんいます。インバウンド需要を契機に年々日本を訪れる人が増えていますが、東京や大都市だけではなく、昨今では、地方に足を延ばす旅行者も増加しているようです。JCDの全国10支部というネットワークを活かしながら、その地域にしかない文化や技術、デザインの価値、それを生み出している人たちの魅力を世界に伝えていけたらと思っています。

Too:日本のデザインには、どのような魅力や価値があるのでしょうか。

折原:一言で説明するのは難しいですが…日本料理の出汁のように、長い時間をかけて培われてきた技術や手仕事が積み重なって価値が生まれることは、日本ならではの美意識だと思います。素材に対する細やかな配慮や、人と人が一緒につくり上げていく姿勢にも、その美意識が現れていると感じます。

その魅力を世界に伝えるには、作品を見るだけではなく、実際にその土地を訪れ、そこでしか得られない体験も大切にしたいと思っています。全国の支部をつないでいく取り組みとして、これまで2年にわたって全国各地で「JCD design circuit」というトークイベントを開催してきました。

これからは新たに「デザイン・エクスペディション」という名称で、デザインの探検なる企画も考えています。各支部が中心となって企画し、正会員だけではなく、さまざまなデザイナーたちが実際にその土地を訪れて、そこの空気に触れ、土地文脈を理解し、「デザインの見立て」をみんなで話合ったりするのです。参加する人だけでなく企画側にとっても、新しい視点や学びを得る機会になると同時に、人と人が深くつながり、新たな学びが生まれる場として育てていけるといいなと考えています。

多様な人が活躍できる環境を、もっと当たり前に

折原:もう一つ力を入れていきたいのが、多様な人が活躍できる環境づくりです。例えば現在、JCDの女性会員は決して多くはありません。一方で、デザインを学ぶ女性は増えており、「将来デザインの仕事をしたい」という夢を持って日々努力しています。だからこそ、その人たちが社会に出た後も、しっかりと力を発揮し、活躍し続けられる環境をつくっていきたいです。

私自身も子育てを経験する中で、娘に寂しい思いをさせてしまったという反省があります。当時は仕事との両立についても葛藤しました。制度として育児休業などが整ってきても、それだけでは解決できない現実もあります。結婚や出産など、ライフスタイルが変化する中で、そうした人たちが活躍の場を失ってしまうのは本当に勿体ないことです。それを防ぐためには、彼女たちを温かく受け入れる社会の土壌そのものが必要です。

性別に関係なく、一人ひとりが持つ経験や視点の違いが、デザインを考える上で新しい気づきにつながります。さまざまな立場にある人たちの声に、これからもきちんと耳を傾けていきたいと思っています。

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若いデザイナーへ「人を幸せにする仕事」を楽しんでほしい

Too:最後に、これから商環境デザインに携わる方や、学生の皆さんにメッセージをお願いします。

折原:やっぱり夢を持って、この仕事をしてほしいと思います。デザインは人を幸せにしたり、社会を少し良くしたりできる仕事です。もちろんクライアントのために仕事をするのですが、そこでつくる人たちも、使う人たちも、そしてデザインする私たち自身も、みんなが「やって良かった」と思えるものを目指していきたいです。

もちろん大変なこともたくさんあります。でも、自分が思い描いたものを形にできたときの喜びは、あらゆることを乗り越えていけるくらい大きいものだと思います。だからこそ、目の前の技術だけではなく、「自分は何のためにデザインをするのか」という原点を大切にしてほしいと思います。

また、JCDは一人では得られない出会いや学びがある場所でありたいと考えています。JCDに入ることの魅力の一つは、個人では行けない場所を訪れたり、会いたい人に会えたり、同じような悩みを持つ人たちと出会えたりすることだと思っています。アトリエで一人で頑張っているデザイナーも多いと思います。だからこそ、悩みも含めて共有できる場所が必要です。これからのJCDも、さまざまな人がつながり、学び合い、ともにつくっていける場であり続けたいと思っています。


「ひらき、つなぎ、ともにつくる」というテーマの通り、人と人、テクノロジーとリアル、受け継がれてきた文化と新しい表現、都市と地方、さまざまなものをつないでいくことで、新しいデザインの可能性が生まれていく。JCDが目指すこれからを強く感じるインタビューでした。折原さん、ありがとうございました!

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