領域を横断してデザインを語り合う。一般社団法人デザインシップ様

インタビュー

2026.07.15

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役割が広がり続ける「デザイン」を、業界や世代、職種の垣根を越えて語り合える場をつくりたい。そんな思いから生まれたのが、一般社団法人デザインシップです。UI/UX、グラフィック、プロダクト、インダストリアルなど、領域を横断してデザインを捉えるカンファレンス「Designship」を主催し、産学官をつなぐ機会を創出しています。今回は、理事の小松尚平氏(以下、敬称略)に、団体設立の背景や活動への思い、これからのデザイン人材についてお話を伺いました。


「デザインの壁を越える」という挑戦

Too:DesignshipにはTooもここ数年出展をさせていただいていますが、改めてデザインシップ設立の背景を教えてください。

小松:2018年、ちょうどデザイン経営宣言が発表されたタイミングで立ち上がりました。私たちが就職活動をしていた2013年頃は、「スタートアップ」や「UI/UXデザイン」という言葉が広がり始めた時期です。代表の広野萌はUIデザイナーで、私はエンジニアとして活動しており、お互いにスタートアップ役員をやっていましたが、当時のUI/UXデザインは、シリコンバレーなど海外のスタートアップ文化の情報を参照することがほとんどでした。

一方で日本には、グラフィックデザインやプロダクトデザイン、インダストリアルデザインなど、世界的に高く評価されてきた領域があります。海外のデザイナーと仕事をすると、日本のデザインを私たち以上によく研究していることに驚かされることもありました。一方で私たち自身が、その価値や知見に十分触れられていなかったといえます。

同世代の仲間たちも同じ感覚を持っていました。だったら、UI/UXだけではなく、グラフィックもプロダクトもインダストリアルも含めて、横断的に学び合える場をつくりたい。そんな想いから生まれたのが、「デザインの壁を越える」をステートメントに掲げる団体「デザインシップ」と、その想いを体現するカンファレンス「Designship」です。

私自身、会社員として企業主催のカンファレンス運営に携わってきましたが、商業イベントは収益化が主目的になりがちです。一方でDesignshipは少し違います。運営メンバーの多くが現役のデザイナーやエンジニア、クリエイター、プロデューサーであり、「デザインに関わる人たちがつくるカンファレンス」であることを大切にしています。単にイベントを成立させるだけでなく、デザイナーという仕事の価値や、新たなロールモデルとなる人たちの活動を、広く次の時代につないでいく場なのです。

「次世代のデザイン人材」について問いを立て続ける

Too:団体として「次世代の産業に貢献するデザイン人材の輩出」をミッションに掲げています。デザインシップの皆さまが思い浮かべるのは、どのような人材なのでしょうか。

小松:私たちは「次世代のデザイン人材はこうだ」と定義するよりも、問いを立て続けることが大切だと考えています。今年のDesignshipでも、「あなたにとってデザインとは何か」という問いを投げかけています。デザインの意味や役割は、時代や立場によって変わります。クラフトが重視される時代もあれば、システムとしてのデザインが重視される時代もありますし、企業と学校でもその捉え方は違います。

さらに生成AIの登場で、その移り変わりはこれまで以上に速くなっています。だからこそ、デザインシップが一つの答えを示すのではなく、さまざまな立場の人が考え、対話し、その過程を可視化できる場でありたいと思っています。

Too:「可視化する場」として、さまざまな取り組みをされていますね。

小松:2025年からは、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の渡邉英徳先生と共に「Hack-1グランプリ」を開催しています。デザインを学ぶ学生とエンジニアリングを学ぶ学生がチームを組むハッカソンですが、参加者を見ていると本当にワクワクします。

デザイナーでもありエンジニアでもあり、さらにプロデューサー的な視点も持っている、そんな既存の職種名では表現しきれない人たちが、自然と生まれてきています。言葉で定義するよりも先に、現場ではすでに新しいロールモデルが生まれています。そんな姿を見ていると、デザインという能力は一部の専門職だけのものではなくなり、よりリテラシーに近い能力になっていく可能性がある、と考えることもあります。この事実を多くの人に伝え、つないでいくことが大事だと思っています。

最近では、大学でもデザインへの注目がさらに高まっています。東京大学では、2026年から「College of Design」が始まります。代表の広野は、デジタル庁でも働いており、私自身は東京大学にも所属してます。面白いのは、大学、企業、官公庁で使われる「デザイン」の意味が、必ずしも同じ意味ではないことです。だからこそカンファレンスDesignshipは、それぞれの立場の人たちが同じ場所で対話し、お互いの考えを行き来できる場でありたいと考えています。

キーワードは「学際」だと思います。既存の学問分野の枠を越えて、複数の分野の知見を横断的に組み合わせていく考え方です。実は、Hack-1グランプリでご一緒している東京大学の情報学環・学際情報学府も、まさにこの学際という発想を組織そのもので体現されている場所なんです。専任の教員に加えて、他学部から数年単位で加わる先生方によって、異なる専門性が常に混ざり合う仕組みになっている。私たちが目指している『壁を越えて対話し合う場』を、大学という枠組みですでに実践されている例だと思っています。「次世代のデザイン人材とは何か」という問いも、我々だけで答えを出すのではなく、さまざまな立場の人たちと一緒に考え続ける、そのプロセスに意味があると思っています。

Designship1.jpg

境界が曖昧になった時代にデザイナーの役割はどう変わるのか

Too:生成AIの登場で変化のスピードが速くなっているとのことですが、デザイナーの役割の変化をどのように感じますか?

小松:例えば営業の人がClaudeなどを使って、簡単なUIのたたき台を作れるようになりました。つくること自体のハードルは確実に下がっています。デザイナー側も、ビジネスや営業の知識を身につけて、提案や意思決定の場に関与する動きが増えています。職種の境界線はどんどん曖昧になってきています。

そのためCDOクラスの方々から、「これまでの評価基準を見直さなければいけない」という声をよく聞きます。昨年のDesignshipでも組織や評価制度をテーマにしたセッションが多くあり、現場の変化を反映したものだと感じています。

また、「何をどうつくるか」というプロセスの重要性はむしろ高まっていると感じます。最終的なアウトプットはAIでもある程度生成できますが、その背景にある意図や判断、検討プロセスが見えないと、再現や改善の起点を持てず、実務に組み込みづらいからです。どの工程をAIに委ねるのが最適かは、まだ業界全体が試行錯誤している段階だと思います。私は医療分野でVRの研究もしていますが、業界ごとにプロセスやベストプラクティスが異なり、「これが正解」という状態にはまだ至っていません。

「つくる理由」に込められた意志が価値になる

小松:試行錯誤の段階である一方、効率化が進めば進むほど「人間がやるべきこと」はより明確になってきます。最近はデジタルデザイナーの間でも、クラフトマンシップへの回帰が起きているように感じます。例えばZINE制作のように、効率だけを考えれば不要ともいえる行為に時間をかける人が増えています。

AIによって一定水準のアウトプットが容易になったからこそ、「なぜ作るのか」「誰が作るのか」という問いの重要性が高まっているのだと思います。写真が登場しても絵画がなくならなかったように、人は機能性だけを重視するのではなく、その背景にある作り手の意図や思想にいかに共感できるかを価値として捉えています。

Designshipも同じです。採算性だけを考えれば削れる部分はありますが、あえてステージ演出には時間もコストも大きく投資をしています。大型スクリーンや照明で登壇者の熱量を最大限に伝え、単なる情報の共有ではなく体験として届けることを重視しています。クリエイター自身が作るカンファレンスだからこそ、その背景にある思いや人の顔が浮かぶような場にしたいと考えています。

デザインというと機能や見た目の話になりがちですが、本質は社会課題や人の感情と向き合う、もっと人間的な営みだと思います。だからこそAI時代になればなるほど、その価値はむしろ高まると思います。すべてを効率だけで考えるなら、もっとシンプルで均一なものが増えていくはずです。でも実際に人は、オリジナリティや美しさを求めます。だからこそ、「なぜそれを作るのか」という意志を持って創造することが、人間にしか発揮できない価値なのだと思います。

Designship2.jpgDesignship 2025 Tooが登壇したステージの様子。演出効果がなされた大きな舞台に立ちました。

産学官をつなぐハブとして次のフェーズへ

Too:変化の時代で、デザインシップの皆さまが次に目指すことを教えてください。

小松:これまでの取り組みで、コミュニティやネットワークは形作られてきたと感じています。実は2023年に、代表の広野が『広がりすぎたデザインを、接続する。』という新たなコンセプトを掲げました。設立時は『デザインの壁を越える』ことを目指していましたが、あれから5年で、デザインの領域は越えるどころか、広がりすぎるほど広がっていた。だから次は、広がったものをつなぎ直そう、という意志の表明です。

次のフェーズとしては、産学官のつながりをさらに強めていくことが重要だと考えています。企業・大学・行政は、それぞれ異なる視点と期待をもってデザインに向き合っていますが、AIの進化も相まって、どの業界も次に何が起きるのか見えづらくなっています。だからこそ、一緒に考える場が必要です。デザインシップは、人や組織、デザインの領域を横断しながら対話を生み出すハブとして機能していけると思っています。

企業・大学・行政は、それぞれ異なる視点と期待をもってデザインに向き合っていますが、AIの進化も相まって、どの業界も次に何が起きるのか見えづらくなっています。だからこそ、一緒に考える場が必要です。デザインシップは、人や組織、デザインの領域を横断しながら対話を生み出すハブとして機能していけると思っています。

Too:最後に、私たちTooのような企業に期待する役割があれば教えてください。

小松:Tooさんは歴史があるからこそ、とても多くのお客様に接しています。AIによって制作プロセスが大きく変わろうとしている中で、現場のユーザーが何に困っていて、何を求めているのかを継続的に捉えられる立場にあることは、非常に重要です。

グラフィックやデジタルデザインだけではなく、3Dや映像制作、アニメ、出版、ゲームなどの異なる領域を、横断的に捉えられる存在は多くはありません。業界間の境界が曖昧になっているいま、そうした情報は、新たなツールの開発やワークフローの進化に直結する資産になります。また今は、ツールを導入すること以上に、それをどう現場に定着させ、どう業務を変えていくかが問われています。変化を支援できる存在は、今後さらに重要になるはずです。

Too:私たちも、現場の最前線で日々起きている変化をしっかり捉え、そこから得られた知見を、デザインに関わる皆さまの働く環境づくりに還元していきたいと考えています。今後も業界を横断した対話を続けていければと思います。小松さん、ありがとうございました!


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