デザインの思考プロセスに感覚と幸福感を織り交ぜる。foxcoインタビュー

インタビュー

2026.03.31

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foxco (フォクスコ)

本名 渡邉香織。foxcoというアーティストネームで活動するイラストレーター・アーティスト。高校をカナダで過ごし、慶応義塾大学でプロダクトデザインを学ぶ。 大学在学中、パリ第一大学(ソルボンヌ大学)造型美術学部に留学。 留学中にイラストを描き始め、大学卒業後、外資系IT企業に通いながらイラストレーターの仕事を開始し、2017年6月に独立。ロンドン芸術大学大学院修了。現在はロンドンに拠点を移し活動中。展覧会の開催に加え、数多くのファッション・ライフスタイルブランドとのコラボレーションを行っている。旅やファッションなど、自身の経験やライフスタイルからインスピレーションを受けて描く作品は、あたたかいタッチと色合いで豊かな幸福感を表現している。

プロダクトデザインを学び、現在はイラストレーターとして有名プロダクトとのコラボレーションなども積極的に行うfoxco(フォクスコ)様にインタビューし、ブランドの世界観を伝えるイラストを制作する際の思考プロセスや、表現する道具へのこだわりについて伺いました。


幸福感溢れるイラストレーション

Too:まずは、普段の創作活動について教えてください。

foxco様(以下、敬称略):ロンドンを拠点に、国内外問わず仕事を受けています。イギリスであれば王立の歌劇場ロイヤル・オペラ・ハウスの公式グッズ制作をはじめ、マナーハウスやスキンケアブランドのグローバルキャンペーン、日本では広告・パッケージ・雑誌など、ファッション・ラグジュアリーブランドを中心に幅広くイラストを手がけています。最近では、2027年にイラストレーターとして10周年を迎えることを見据え、その準備に力を入れています。

実質的にはフリーランスとして、基本的に一人で制作を完結するスタイルです。絵の制作から納品まで一貫して担当し、必要に応じてデザイナーや空間デザイナーと協働することもあります。

ROH_1.pngロイヤルオペラハウスとのコラボレーションアイテム

作例_日本.jpg(左)カルビーとのコラボレーションパッケージ
(右)高島屋 クリスマス2023 広告ビジュアル“Happy Hug”

Too:どのようなインスピレーションが、現在のイラストスタイルに影響しているのでしょうか?

foxco:イラストレーター1本でやっていくと決めたきっかけが、あるブランドのキャンペーンで温かいイラストレーションを見たことでした。仕事で疲れてしまった時に久しぶりに幸せな気持ちになり、今度は私がその幸せな気持ちを渡す側になりたいと決心しました。だからこそ、幸福感のある絵を描くことを特に心がけていて、今のスタイルにつながっています。

あとは、漫画などを読んでいるときに主人公だけではなく、周りのキャラクターも感情移入できる描き方がされているものを好みます。キャラクター各々に存在するストーリーを考えながら描くことで、どこをみても楽しく、ずっと見ていられる幸福感のある絵になるのではないかと考えています。

また、イラストは大げさに動作を描くことでより感情を伝えることができます。ストーリーをわかりやすく伝えるために、劇やバレエの遠くの観客にも届くように、誇張されつつも品のある動きは、表現の大きなヒントにしています。

IZK_9919_1380x920.png

デザインとイラストレーション

Too:大学時代には、プロダクトデザインを学ばれていました。デザインの学びが、現在のイラストレーターの活動に活かされていることはありますか?

foxco:大学では、身体と接するプロダクトに関心を持ち、主にゼミで義足のデザインについて学んでいました。その中で、「使う人がいる」という視点を強く意識するようになりました。

観察することの重要性も学びました。ゼミの先生は、プロトタイプをたくさん作り、それをもとに実際に履いてくれる人に聞きに行くことで、「義足は海外製が多く、日本の靴を脱ぐ文化への配慮があまりされていない」など、潜在的な課題を発見していました。そういった相手の目線に立って観察し、対話するという姿勢は今も大切にしています。

また、機能性だけでなく、心地よさや美しさを考える経験は、イラストにも活きています。特に、クライアントワークでは、目的や条件を満たしながら美しい表現を考えることを大切にしています。自分の感覚と論理的な整理を行き来しながら描くスタイルは、デザインを学んだ経験が基盤になっています。

Too:具体的に、どのように自分の感覚と論理的な整理を行き来してるのでしょうか?

foxco:制作期間の中で、ラフになるまでのプランニングに一番時間をかけており、必ずクリアしなきゃいけないものを押さえながら、与えられた枠の中でどう自分が楽しんで表現できるかをじっくりと考えます。

例えば、2025年に手がけたラルフ・ローレンのバレンタインパッケージでは、ポロのロゴとトラックのイラストはマスト条件でした。その中で、どのようにクスッとできる要素を散りばめていくか、ラルフ・ローレンのイメージや、渡すシーンも想像しながら思考を深めていきました。

消費者としての私の中のラルフ・ローレンの印象は、何というか正統派で、伝統を重んじる反面、色などが鮮やかなことからチャーミングさも感じていました。依頼された条件を叶えながら、もっとストーリーを加えられないかと考え、トラックに乗ってコーヒーを提供しているポロベアと、店先で風船を配るポロベアを描きました。するとそれが「チャーミングだね」と気に入ってもらえました。

あとは、「ラルフ・ローレンだから、バレンタインだけど”ハートだらけ!”ではないだろうな」とか、「この箱を渡す人たちはきっと、会社とかでそっと渡すくらいの温度感だろうな。でも、クールすぎず、もらった時のドキッとする感じは残したいから赤いハートは入れたい」とか、依頼された内容を消費者目線で見ながら、自分の感覚と織り交ぜるということをしています。

Ralphscoffee_3.pngRalph's Coffee 2025 Valentine’s Day Package

ロイヤルオペラハウスのグッズで制作している「ジゼル」のメッセージカードの制作時には、第1幕の人間の姿のジゼルと第2幕で精霊になったジゼルをどのように違和感なく共存させられるか、どの場面を切り取るのが良いか、ポップアップのカードなので奥行きのある構図が良いか、などの伝えたいことと、仕様を思い浮かべて思考を巡らせながらプランニングをしていきました。

自分の感情や熱量は作品に乗ると思っているので、楽しみながら制作したいと考えています。そうでないと、ただの「仕事」になってしまう。作品が完成した時に声を大にして「私が描きました!すごく楽しかった!」と言えるように、こだわりや感情をイラストレーションに織り交ぜながら描いています。

Too:クライアントとの対話で心がけていることはありますか?

foxco:イラストレーターの起用経験の有無を確認するようにしています。起用経験がないと「どう進めるんだろう」と不安を持つ方も多いです。制作期間や修正回数など、クライアントの温度感を最初に掴んでおき、コミュニケーションを重ねながら同じ期待値を持って進めることを大事にしています。「お任せします」と言ってくださる方も多いのですが、実は頭の中にイメージが浮かんでいることが多いので、会話の中で必要だと感じたら参考資料やイメージ画像、色だけでもいいので伝えてもらうようにしています。

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言葉だけでのすり合わせが難しい時には、最初の打ち合わせが終わった直後に、簡単なラフを作り、イメージのすり合わせをすることもあります。やはりスケジュール通りに進めることが欠かせないので、最後の最後で大きな修正がないように、最初の段階で期待値を合わせることを心がけています。

アナログ工程を大事にした制作プロセス

Too:イラストを描く上で重要な道具についても教えてください。アナログとデジタルを駆使しながら描かれている印象があります。

渡邉:iPadでデジタルラフを作成後、印刷してトレース台を使い、コピックでアナログ清書を行います。その後スキャンし、Photoshop等で調整・仕上げをします。

特にコピックスケッチのにじみや色合い、筆先のしなりが好きで、日本とイギリス両方の拠点で揃えて使用しています。水彩ではにじんでしまう工程も、コピックなら美しく仕上げられる点が欠かせない理由です。

Too:なぜアナログの作業を大事にされているのでしょうか?

foxco:何度かデジタルも試しましたが、コピックならではの発色の良さがあります。あとは、やっぱり紙の上に描いている方が楽しいし、一つひとつのラインや着色に集中して描ける気がします。

デジタルで描けば、綺麗に着色できますが、大学の時に友人からもらった手描きのカードがとても心に残ったのを覚えていて。上手くいかない線を楽しみたいですし、そこに滲み出る温度、紙に描かれた手書きの絵を大事にしたいという思いがあります。

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Too:どのようなきっかけでコピックを使い始めたのでしょうか?

foxco:小学生の時、漫画が好きな友人が使っているのを見たのが最初です。自分が使っている画材とはレベルが違う綺麗な発色に驚き、試し書きをした紙をずっと取っておいたのを覚えています。その後、大学のゼミでプロダクトデザインのために教授が使っているのを見て、その綺麗な発色やグラデーションから、やっと小学校の時に出会ったのがコピックスケッチだったことに気がつきました。大学での資料作りに実際に使ってみて、イラストを描く時にも使いたいなと思い、何本か買って描き始めました。

水彩絵具や色鉛筆、他のマーカーも試してきましたが、コピックと出会ってからはずっとコピックです。原画でもスキャンをした時でも発色や濃淡、グラデーションをはっきり表現でき、自分の絵とも相性が良いです。みんながコピックを使う理由が分かります。

イラストレーター10周年に向けた挑戦

Too:これからの活動で挑戦したいことや展望を教えてください。

foxco:2025年に開催した個展では、3D作品やインスタレーションに挑戦し、イラストにストーリーが生まれたり、登場しているモチーフのキャラクター性に気が付いたり、とてもセンセーショナルな経験をして大きな刺激を受けました。今後は絵が別のかたちで立ち上がる表現にも挑戦していきたいです。

Too:10周年に向けた取り組みも楽しみです!生き生きとした幸福感を与える渡邉様のイラストレーションを支える、デザインの思考プロセスや表現へのこだわりを伺うことができました。ありがとうございました。

※この記事は、株式会社トゥーマーカープロダクツとの共同取材によって作成しています。


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