探訪!オートデスク株式会社
皆さまには持っているだけでワクワクしたり、元気になるアイテムはありますか?私は文具です。気に入ったデザインの文具を見つけると、似たような機能でもついつい集めてしまいます。今回は、そんな私もたくさん持っている製品を作り出している株式会社デザインフィル様に伺いました。
デザインステーショナリーのリーディングカンパニーである株式会社デザインフィル様は、2020年にプロダクトブランド「ミドリ」誕生70周年を迎えるなど、ユーザーに長く愛される製品を日々生み出しています。今回はデザイナーの浅岡美香様に、機能性だけではなく使う楽しみを感じられる製品が生まれるまでの裏側や、デザインに対する想いをインタビューしました。
気持ちを伝える「紙シリーズ」
Too:デザインフィル様のステーショナリーは毎日のように使っているので、今日はそのデザインを手がける浅岡様にお話をお聞きできるのが楽しみです。まずは日々のお仕事について教えてください。
浅岡様(以下、敬称略):デザイナーとして、季節の手紙「紙シリーズ」や、「のりもの柄」をはじめとしたダイアリー、カレンダーなどを担当しています。当社は企業様向けのノベルティやOEM製品なども手掛けているのですが、最近は宿泊施設のアメニティなどのデザインも行いました。
私の仕事の中でメインとなる「紙シリーズ」は、デザインによって、手紙を書くことを手助けできないかという想いから誕生しました。便箋は白地に罫線があるものが一般的ですが、「紙シリーズ」は季節の花や風物を大胆に配することにより、文章量が少なくても見栄えが良く、気持ちがより伝わりやすいデザインにしています。また製品名の通りこだわりの和紙を使用した製品です。
Too:紙シリーズは2021年で15周年を迎えましたが、デザインする上で浅岡様が心がけているのはどんなことでしょうか。
浅岡:紙シリーズは、春、夏、秋、冬と年間4回発売されます。毎年同じ季節モチーフという制約の中で、より良い新たなデザインを生み出すのには苦労することもあります。例えば、春であれば一番人気がある桜を、毎年違うデザインとして出さなければいけません。そのためには、アイデアをいかにストックするかが勝負なので、自分の引き出しを常にフルにすることを大切にしています。手を替え品を替え15年間、さまざまな桜をデザインし、毎年、はっと驚きのある素敵なデザインをお客様に届けたいと考えています。
Too:アイデアストックの方法は?
浅岡:日頃から気になった草花をスマートフォンで撮影したり、展覧会にもよく行ったりします。特に日本画や昔の襖絵、着物などから着想を得ることが多いです。過去には、京都で見た板絵に描かれた桜をイメージしたデザインがあります。胡粉で表現されたふっくらとした白い桜をなんとか再現できないかと考え、白インキを極限まで厚盛りにし、シルク印刷で仕上げた製品もあります。
デザインとコミュニケーション
Too:まさに「手を替え品を替え」に当たる部分ですね。さて、デザインフィル様では「デザインによる社会と文化への貢献」を企業理念として掲げていますが、デザインにおいて浅岡様が大切にしていることを教えてください。
浅岡:私がデザインフィルに入社した当時(株式会社ミドリ)のスローガンは「design for communication」でした。「コミュニケーションのためのデザイン」という考えは、とても率直で素敵だと思い、今でも共感しています。
女性をターゲットとした文具は、フェミニンでかわいらしいデザインがとても多いのですが、その中で私は、かっこいいデザインを目指しています。デザインに共感していただき、大切な方とのコミュニケーションや、ここぞというシーンで使っていただけたらうれしいです。紙シリーズは男性が使うのもとても粋で素敵ですよ。
仕事に対する姿勢は、「日々リベンジ」を意識しています。自分がベストであると提案したデザインを却下されたときこそ、そのデザインを「いかに捨てられるか」ということです。それこそ提出期限の前日にダメ出しをされたときでも、いかに気持ちを切り替えて、新しいデザインアイデアを提案できるかが勝負だと思います。ときにはボロボロになりながら新しいデザインを出します。「そうそれ!」と言われたときには、新しいものが生み出せてよかったとほっとしつつ、自分のデザインの至らなかった点に冷静に気付くことができます。
Too:自分がデザインしたものを「捨てる」のはかなり勇気がいることだと思いますが…どうやって納得されているのですか?
浅岡:なぜ否定されたのかを理解できるまで対話します。良いものを生み出すためには、否定された部分を汲み取り、理解することがデザイナーの仕事だと思います。今出したデザインが違うと言われるのなら、次はこれ、その次はこれと、次々提案して形にできなければいけません。
納得しないで仕事を進行するのはとても辛いことです。『プロデューサーがこう言ったから、営業がああ言ったから、こうデザインせざるを得なかったのだ』と諦めてしまうと、結果が伴わなかったとき「私はそんなつもりじゃなかった」と、自分に言い訳をし、人のせいにしてしまいます。私自身、今でも失敗することはありますが、自分の失敗だと素直に認めることが大切だと考えています。アイデアや企画を目に見える形でアウトプットできるのはデザイナーだけですから、まず自分自信が納得して自信を持ち、製品を世に出すことが一番大切です。
そうやって完成したものが自分でも「いいな」と思えたときはすごく嬉しいです。それこそ一緒に仕事をしている仲間に「このデザイン最高にかっこよくない?」と自慢したりもします。自分が手がけた製品を使ってくださるお客様に、こだわったデザインの肝に気付いてもらえたときはより一層嬉しいです!
自分を高められる文具
Too:続いて、「のりもの柄」のダイアリーについて教えてください。イラストにはコピックをお使いいただいているそうですね。
浅岡:デザインフィルに入社して2年目のときに、ダイアリーの新しいデザイン募集がありました。自分のデザインのダイアリーを製品化するのは、新人デザイナーにとって夢でしたから私も応募し採用されたのが、この「のりもの柄」のデザインです。おかげさまで2023年版のダイアリーで25周年を迎えることができました。
ロットリングペンで線を書き、コピックで色をつけるアナログな方法で描きます。パソコンでも描けると言われることもありますが、このロットリングペンのカスレや線の細さ、またコピックのにじみ具合は、アナログならではの表現だと思います。
「のりもの柄」にかかせないコピックの色が何色もあり、ピンクのコピックのボディに直書きで「ほっぺの色」等、イラストに使う場所を記しています。三角帽子のキャラクターの頬にコピックでちょこんとピンクを乗せてあげると、いきいきと生気が宿ります。その他、グレイッシュカラーのコピックは影などのニュアンスをつけ、イラストをひきしめるとても大切な色です。
ダイアリーは作業量も多いため毎年大騒ぎです(笑)。このダイアリーは全ページ異なるイラストが描かれているのが特徴ですから、ネタ探しも苦労します。ひと月ごとに6カットほど絵柄を描いて、それが12ヵ月分なので全部で80カットほど。ネタが揃ったら下描きをし、ロットリングペンで線を描き、コピーをして、最後にコピックで色をつけます。絵が仕上がる実感があるからなのでしょうか、コピックで色をつけるときが一番楽しい時間です。こうした作業をするデザイナーは社内では少なくなっていますが、個人的にアナログな作業がすごく好きです。理由を問われると明確に答えるのは難しいですが……画材に囲まれて作業すること自体が嬉しいですね。
Too:なんだか私が文具を集める理由と似ています。「今日は気合を入れなきゃ!」という日にデザインフィル様の文具を持っていると、勇気づけられてワクワクするような気がします。
浅岡:そう言ってくださるお客様がいらっしゃって成り立つのが、私たちの仕事です。実用的で便利な機能文具がいくらでもある中で、なぜ新しい製品をデザインするのかと言われると、文具がきっかけで、お客様自身の気持ちを高められるような製品を作るためです。持っているだけでワクワクすることもそうですし、誰かと話すきっかけになったり、遠く離れた人とコミュニケーションする道具になったり……そうしたお手伝いができるデザインをしていきたいと思っています。
私自身が制作を続けていくためにも、学生時代から使っているコピックは絶対になくならないでほしいですね。Tooさんのことは「いづみや」のときから知っています。学生時代に通っていた美術予備校に売店が入っていて、よく画材を買いに行っていました。コピックのようなアナログ画材ももちろん、今ではMacの環境まで、私たちの仕事を分かってくれる頼りになる企業さんです。これからも私たちデザイナーに寄り添ってくれる存在でいていただけたら嬉しいです。ぜひこれからもよろしくお願いいたします。
Too:私はデザイナーではありませんが、自分自身が納得しながらアイデアを生み出すこと、常に目的を第一に掲げることなどは、どんな仕事にも必要な力だと思いました。また、デザインフィル様の文房具のいちユーザーとして、製品誕生の裏側をお聞きできる貴重な機会でした。浅岡様、ありがとうございました!
株式会社デザインフィル 紙シリーズ ダイアリーのりもの柄シリーズ