訪問!日本商環境デザイン協会様

インタビュー

2022.04.20

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デザイン協会訪問シリーズです。今回は、一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)理事長の窪田茂氏(以下、敬称略)にお話をお聞きしました。


生活と密着した商環境デザイン

Too:まずは商環境デザインについて教えてください。

窪田:店舗を中心とした商業に関わるデザインを指します。例えば飲食店や洋服店、ホテル、最近では医療機関にもデザインの力が使われているので、皆さんの生活に非常に密着しています。1歩外に出れば、商環境デザインに誰でも触れているということになりますね。

店舗のデザインには流行があります。商環境デザインというのは経済の流れに非常に敏感で、最近はSDGsやサステナビリティにデザインの主軸をおいているものが増えています。新しいものを作ればいいのではなく、古いものをうまく利用するデザインが好まれています。

見て、知って、伝える

JCDは、2021年で設立60周年を迎えました。1964年東京オリンピックの前後に日本の経済が一気に発展して、建築デザインも新しい時代を迎えました。当時は、店舗のデザイン性というものは考慮されていないことがほとんどでした。そんな時代に、店舗のデザインによって人を集め、商売そのものがよくなると考えている人たちがいました。彼らが集まって設立したのが始まりです。

僕たちの役割として、業界を盛り上げることはもちろん、時代の流れをとらえながら、デザインそのものの質を見て、知って、伝えていくことが挙げられます。特に最近の若いデザイナーは非常におもしろい発想をするので、そうした才能を発信していくのも大切です。それがデザインの歴史を作っていくことにつながるのだと思います。

Too:全国に支部がありますね。

窪田:デザイナーは全国各地で活躍していますが、情報の発信は東京中心になってしまうことが多々あります。世の中の流れを知るためにも、各地域が主体となった活動は非常に重要です。それぞれの支部が動いていくことで、新しいデザインを感じることができるのではないでしょうか。

最近はオンラインでのイベントが主流になったことで、地方のイベントも全国のJCD会員が参加できるようになりました。ウェブサイトやSNSを活用できるようになってきたこともあり、支部同士の連携がさらに強く、オープンな環境に変わってきています。

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心動かされる瞬間を演出する

Too:いま、人々の交流のかたちは変化しています。リアルな空間はどのように変わったのでしょうか?

窪田:商環境デザインに携わる人たちは、人を集めるためのデザインを一番に考えて仕事をしていました。それが、コロナウイルスの流行で、人を集められなくなってしまったのです。僕らの発想の根源は覆されてしまいました。

しかし、オンラインだけですべてを完結させるのが難しいのは間違いありません。その中で、なぜリアルな空間が必要なのか、どのような空間が選ばれるのかは、僕らも定義していく必要があります。コロナ以前からですが、最近のデザインは「体験」や「経験」がキーワードとなることが多いです。リアルならではの可能性や付加価値を与えるための、次の一手を考えなければいけません。

Too:私自身観劇が趣味なので、コロナ禍でオンライン観劇をしたこともあります。ただ、実際に劇場に足を運んだ時の方が強く印象に残っています。劇場の重厚な内装、視界いっぱいに広がるステージ…足を踏み入れるとワクワクする体験も、空間が与える力の一つなのでしょうか。

窪田:リアルならではの空気感は絶対的だと思います。建物の素材の色や香り、触感や光の入り具合で、「空気感」を演出することができます。そういったものに僕たちは心動かされます。劇場にしてもレストランにしても、これらはオンラインでは成し得ないことです。心動かされる瞬間には、空間が与える影響が重要じゃないかと思います。

一方、商環境デザインの力で、オンラインの魅力をさらに引き出していくこともできるはずです。オンラインで何かを鑑賞するとしたら、パソコンかテレビぐらいの大きさのモニターが一般的だと思います。例えば映画館のような大きなモニターや、立体音響の設備をデザインとして取り込んだら、体験はまた変わるのではないでしょうか。それで「オンラインでもいいじゃない」となってしまったら難しいところですが…。ただ、現在少しずつリアルな空間に人が戻りつつあります。どこの商業施設も基本的には利益がダウンした状態ですが、このままでいいとは思っていません。この状況を打開するためにも、デザインのニーズはますます高まっていくと思います。

継続することの価値

Too:この先どのような空間が生まれるのかすごく楽しみです。その他にも大事にしているアクションを教えてください。

窪田:基本的には、JCDがやっていることを継続して、さらにおもしろくしていくことが重要だと思います。アイデアはいくらでも出ますが、実行して続けていくことは意外と大変なことです。

毎年日本空間デザイン賞というデザインアワードを開催しています。JCDと日本空間デザイン協会(DSA)、二つの団体が開催してきたアワードを2019年に合併させ、今年で4回目の開催です。

去年の日本空間デザイン賞大賞には、「未来コンビニ」「神水公衆浴場」が選出されました。この二つはサステナビリティや震災復興がテーマのプロジェクトですが、これまでと比べると、デザインの質や考え方が大きく変化した特徴的な回でした。日本空間デザイン賞も、継続するからこそ社会の仕組みや方向性の変化を感じる取ることができて、さらには若手の登竜門として認識されるようになってきました。DSAとJCDの共同で、この先何十年も何百年も続けていくべきだと考えています。

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デザインの種まき活動

国際系の活動としては、East Gatheringを開催しています。日本、韓国、香港の3カ国で始めたデザインイベントで、学生を連れて交流をしたり、講演会を開いたりということを続けていました。国ごとにデザインの思考はかなり異なりますね。日本人はどちらかというと、理論的にきちっとした解答を持ちながら一つ一つ組み立てて作り上げることが多いです。一方韓国の人々は、日本人と比べると感情を大切にします。「私は降り注ぐ太陽を見て感じた思いをデザインにした」といったように、情熱や感情で物事を考える点はアートに近いかもしれません。

そのほか、小学生を対象としたSodaというデザインの出前授業を行っています。小学校にJCDの会員が訪問して、グループごとにお店をデザインしてもらいます。最後は模型にするのですが、JCDの会員が実際に使っている木やタイルなどの材料を使ってもらいます。仕上げに照明を入れると、一気にイメージが作り込まれます。その模型を使ってプレゼンテーションしてもらうのですが、私たちでは想像できないようなアイデアがたくさん生まれてきます。毎回驚かされますね。

Too:Sodaに参加された生徒がEast Gatheringに参加したり、アワードに応募したり、デザインに関わる仕事に就いた事例もあるのでしょうか?

窪田:まだ聞いたことはないです。活動開始初期に参加していた生徒たちは社会人になっているころでしょうか。いつかデザイナーになる子が出てきたら…これは楽しみですね。Sodaは「Seeds Of Design Award」の頭文字から来ています。「デザインの種」という意味ですが、その種が芽になって、いつか花が咲いたら嬉しいです。

これからのデザインをつくる

Too:最後に、協会に加入する魅力を教えてください。

窪田:同じ仕事をしている人たちと顔を合わせることができたり、相談に乗ってもらえたり、有名なデザイナーの方々と直接話ができる関係になったり、ということが分かりやすいのかなと思います。でも、入会するだけではこれらのメリットは感じにくいです。

JCDの活動は基本的にボランティアで、会費で運営されています。会員が少なくなれば、存続が危うくなるかもしれません。それはデザインの歴史をなくしてしまうのと一緒です。次の世代につなげるためにもJCDのメンバーになって、まずは僕らの活動を見に来てもらえると嬉しいです。

さらに興味を持ってもらえたら、メンバーとして一緒にいろいろと企画していきたいです。そうすると、横縦のつながりの幅が広がっていきます。活動はすごく大変ですが、いろいろな人と知り合い、いろいろなことを発見できることは、十分なメリットだと思います。

あとは…JCDの人たちはみんな超優しいです(笑)。いい人が本当に多いので、活動も楽しいと思います。現在、ワクワクするようなアイデアをいくつか仕込んでいるところです。この数年で、JCDはかなりおもしろくなると思います。楽しみにしていてください。

jcd_interview3.jpg crafTecギャラリーテラスにて。取材当日は桜が満開でした。


経済活動や私たちの生活と強く結びついている商環境デザイン。社会の方向性を示す大きな仕事なのだと知りました。

また、カメラマンはJCD会員であるナカサアンドパートナーズ様が、会場はJCD様が日頃活用されているcrafTecギャラリーを使用させていただきました。たくさんのご協力をいただき、JCDの皆様の暖かさを実感した取材でした。

一般社団法人日本商環境デザイン協会(JCD)

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