価値を刷る。100年の歴史で培った印刷技術でお客様のニーズを先取りする山口証券印刷株式会社様

インタビュー

2021.12.23

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(写真左)山口証券印刷株式会社 インセンクス事業部 プロデューサー
山口誉夫様

(写真右)山口証券印刷株式会社 取締役
山口真司様

切符やプリペイドカード、有価証券…。印刷物そのものが価値を持つ印刷の世界があります。これら、高いセキュリティを求められる有価証券の印刷や、特殊印刷、ポスターやグッズ制作などの印刷事業を、企画から制作までワンストップで手がけている山口証券印刷株式会社様。2021年10月1日に創業100周年を迎え、技術力を武器に新たな領域に挑戦されています。これまでの歴史やこの先の100年に向けた想いを、インセンクス事業部プロデューサー 山口誉夫様、取締役 山口真司様に伺いました。


時代の変化を先取りする技術力

Too:今年100周年を迎えられたということで、おめでとうございます!まずは御社の歴史を教えてください。

山口誉夫様(以下、敬称略):私たちは1921年に創業し、当初は封筒やハガキなど一般的な印刷を手掛けていました。その後当時としても特殊な「硬券(乗車券)」の印刷に着手し、高い技術力を要した地紋、ナンバリングを偽造防止のために施して提供していました。昭和初期には「透かし」に関しても構想を練るなど、常に印刷技術の研究開発を行っていたそうです。戦時中は、鉄道会社の東急、小田急、京王、京浜急行が統合され、いわゆる「大東急」が誕生し、乗車券事業も一気に拡大します。戦後、東京オリンピックのころになると、乗車券だけではなく自動券売機を独自の技術で開発し、一部の私鉄で採用されたこともありました。ロール紙や感熱紙の登場に合わせて乗車券印刷に必要とされる技術も次々と変化していき、その変化に合わせた技術を提供してきました。

1970年ごろになると、紙メーカー、機械メーカー、印刷会社である私たちの三つが一緒になって、磁気乗車券を開発しました。その後、プリペイドカードであるパスネットの製造ラインを構築し、鉄道関係だけでなくテレフォンカードなどにも技術を応用していきました。

Too:さすが100年間の技術変遷がすごいです!ここ数年で注力されていることも教えてください。

山口真司様(以下、敬称略):弊社では乗車券に関しては、硬券からパスネットまでを手がけてきました。各電鉄さんからの要望や世の中の情勢に合わせ、現在は乗車券に留まらず、鉄道関連のポスターや記念切符、グッズなども展開しています。いま事業の主力となっているのは、乗車券製造で培った可変印刷の技術を応用して製造しているプリペイドカード「POSAカード」です。当社は国内トップシェアを占めており、万全のセキュリティ体制を実現するため、工場ではPOSAカード専用のラインを独自に構築しています。バーコードやQRコードなどの可変情報印字と、これらの検査照合、ログ管理などは、他社には簡単に真似できないものだと自負しています。

山口誉夫:電子決済が主流になりつつある中で、POSAカードの特徴はモノとして残る点です。カードを使い切っても記念に取っておく人も多くいます。また、コンビニにPOSAカードがずらっと並んでいる光景をよく目にすると思うのですが、記憶に残りやすいため広告宣伝の効果も期待できるのかなと思います。

印刷技術へのこだわりと新たな役割

Too:得意とされている有価証券印刷には、どのような印刷技術が活用されているのか教えてください。

山口誉夫:有価証券の印刷は、版下の段階から通常印刷と工程が異なります。マイクロ文字や彩紋・地紋を施したり、不正にコピーをすると「複製」などの文字が浮かび上がる印刷を施していきます。家庭にスキャナーやプリンターが普及してからは、これらの対策は必須になりました。印刷の工程でホログラムを載せることもありますので、ホログラムメーカーと一緒に、2Dホログラムや3Dホログラムの制作から手がけています。また、特色印刷にすることで、一般的なCMYKを掛け合わせたトナーを使っているプリンターでは再現できない色を表現することもあります。偽造防止はイタチごっこではありますが、技術の進歩に合わせたセキュリティー対策をしています。

近年はブランドの価値を守るという観点で、真贋判定やトレーサビリティの印刷にも力をいれています。例えばこちらの一見変哲ない化粧品パッケージですが、専用端末をかざすと読み取りできる特殊コードを印刷しています。パッケージデザインを損なうことなく、コードを読み取ると誰がいつどこで作った製品なのかを証明できます。ここ最近SDGsの取り組みも活発になり、制作側と発注側それぞれが責任を持つべきだという考えが世界的に主流になっています。通常の印刷技術では賄えない領域ですので、我々が一層力を入れるべき分野だと考えています。

yamaguchi_2.jpgパッケージ(右)に印刷された目には見えない特殊コードを専用端末(左下)で読み取ると、製品の真贋判定や出荷元の証明が瞬時に可能になります。

山口真司:そのほか、近年マルチタッチカードにも注力しています。カード上のボタンに触れながらスマートフォンの画面にタッチすると、特定のサイトに飛んだり画像を表示させたり、動画や音楽を再生することができます。アイデア次第でさまざまなシーンで活用できるのが特徴です。デジタルと印刷の掛け合わせは私たちの得意分野ですし、データマーケティングへの活用も期待しています。

Too:セキュリティや価値が関わると、印刷品質チェックも重要になってくるのではないでしょうか?

山口真司:特殊コードを印刷するときに重要な「検査」も工場で行います。ここが通常の印刷会社とは異なる部分で、確実に印刷されているか、印刷ミスはないかを細かくチェックします。昔は人の目で時間をかけて検査していましたが、現在は高精細なカメラを導入してデジタルで行っています。印刷機に検査機が付いているため、印刷されたら工場内で検査まで行うことが特徴です。印刷から検査までを一貫して実施することで品質を担保しています。

山口誉夫:チラシやポスターは時期が過ぎれば捨てられるものがほとんどですが、有価証券はいつまでも残り、ミスも許されません。さらに、個人情報の取り扱いはとにかくシビアです。高度な技術が必要な可変印刷を継続していくことが、私たちの使命でもあります。

お客様とつながる切符「Kumpel」

Too:ステーショナリーブランド「Kumpel」について教えてください。

山口真司:「Kumpel」は、私たちの強みである「切符」をコンセプトにしたブランドです。他社が真似できないような新規事業の立ち上げを考えたときに、社内のデザイナーが切符の厚みのある紙を活かしてノートを作ったのが始まりでした。リリースを開始して4年ほどですが、大々的な展開はせずに少しずつ地道に商品数を増やしています。

鉄道グッズは世の中にたくさんありますが、大抵はコアな鉄道ファンやお子様向けです。Kumpelではあえて、文具や紙ものが好きな層に向けたオシャレな鉄道グッズを制作しています。お客様も若い女性が多いです。最初は値段のつけ方から製造数、どこで売るのかすべてが手探りでしたが、メッセージカード「いろ色きもちきっぷ」が日本文具大賞2021デザイン部門グランプリを受賞するなど、徐々に認知度も広がっているのかなと思います。

yamaguchi_3.jpg

Too:切符の良さはどのような点にあるのでしょうか?

山口真司:手のひらに収まるので落ち着くサイズ感であるところや、レトロな色味やざらついた紙質など、特有の暖かさでしょうか。切符に1枚ずつナンバーが振られていることをモチーフに、「世界に1つ」をコンセプトにして1冊1冊にシリアルナンバーを入れたノートも作っています。こうしたアイデアは私とデザイナー2名で考えているのですが、私たちも楽しみながら商品を開発しています。

そのほかには、記念切符や鉄道雑貨を通販するウェブマルシェ「きっぷと鉄こもの」を2020年に立ち上げました。鉄道会社が販売している記念切符やグッズは、ほとんどが駅やイベントで販売するためコロナ禍で売れ行きが伸び悩んでいました。特に地方鉄道さんですと自社で通販サイトを運営するのは難しいですから、お互いに連携しながら地域と密着した活動に取り組んでいます。

次の100年に向けて

Too:印刷を軸にさまざまな事業を展開されている山口証券印刷様が、この先さらに力を入れていきたいことを教えてください。

山口真司:他社がやりたがらないことに、情熱をもって挑戦し続けていきたいと考えています。モノからデータへの移行が激しい現代で、私たちが培ってきたセキュリティ、検査、品質保証の技術力は強みになると考えています。親和性の高いシステムのセキュリティに進出していきたいという思いもありますが、既存企業が強い領域でもあるので、私たちにしかできない分野を探っていければと思います。

山口誉夫:Kumpelの事業も含め、近年少しずつBtoCの領域にも力を入れています。今まではデザイナー、印刷会社、販売店と階層分けされて一方通行だったものづくりも、これからは消費者と私たちが双方向に歩み寄っていく時代です。消費者の気持ちを直接聞きながら、表面は楽しく裏面はセキュリティーがしっかり守られているものを作り続けていきたいです。

乗車券に関しては、ICカードが主流になったとはいえできることはたくさんあります。一昔前までは、乗車券は表面にデザインが施され、旅が終わった後もファイリングして思い出に残すことができました。現在は文字情報が印刷されているだけになってしまい、旅をする高揚をあまり感じられません。サーマルにデジタルで印字された乗車券は年月が経つと色飛びしますが、かつて主流だった特色の切符は数十年経ってもその味わいがにじみ出るので、経年劣化も楽しめます。輸送手段としてだけではない、皆さんの心に残るような乗車券作りにも力を入れていきたいです。

yamaguchi_4.jpg特色で印刷された乗車券。栞として使うこともできます。

Too:最後に、山口証券印刷様にとってTooはどのような企業でしょうか。

山口真司:ソフトウェアだけでなく印刷機、ネットワークなどなんでも幅広くお願いできます。我々印刷会社の気持ちになって提案していただけるのがとてもありがたいです。印刷会社にとっては、今までと同じことをしていたら苦しい時代が続いていくかもしれません。そんなときに、これからも幅広い視点で導いていただけると助かります。

山口誉夫:私がデザイン専門学校に通っていた当時、御茶ノ水にある「いづみや」さんでいろいろな画材を買っていました。30歳を過ぎたぐらいに、「これからはデジタルの時代だ」と思い始めたタイミングでたまたまTooの営業さんと出会ったのが最初の転機でした。Macintoshが日本に登場して、アドビで一生懸命作ったデータを出力する際にはTooさんにお世話になりました。また、当時Tooさんから高性能インクジェットカラープリンターを導入していた協力会社さんで出力したカンプで、コンペを勝ち取れたこともありました。あまりにもキレイに出力されすぎて、その後印刷での再現が難しく、結局特殊印刷でホログラムを施したというオチがつきましたが(笑)。しかしこのできごとが、パスネット等のプリペイドカード開発に取り組む起点になりました。

Tooさんは私たちの分岐点を支えてくれて、勇気を与えてくれた会社です。デザイナーとベンダーの中間地点のような感覚で、日本でまだ広まってない先進的なツールも紹介してくれます。それが3年後ぐらいに日本のスタンダードになるんです。常に先へ先へ行くTooさんは、私たちにとって本当に心強いパートナーです。

Too:私たちTooも画材屋から始まり、時代の変化に合わせてコンピューターやディスプレイ、クラウドストレージなど、取り扱う製品の幅を広げてきました。これからも皆さまのクリエイティブを支えられるように、あらゆる分野に挑戦していきたいです。山口誉夫様、真司様、ありがとうございました!


山口証券印刷株式会社様
POSAカード
100周年特設サイト
・ウェブマルシェきっぷと鉄こもの
・ステーショナリーブランドKumpel

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