探訪!オートデスク株式会社
Tooでは毎年、アウトプットを重視した新人研修のプログラムが組まれています。その一つが「プレゼンテーションの極意」。講師としてお世話になっているのは、すべての子どもの「話すちから」強化のために、プレゼンテーション教育などを行う一般社団法人アルバ・エデュです。今回は、代表理事を務める竹内明日香様に、新卒入社時代に研修を受けたTooの古正がお話を伺いました。
人生の原動力になる「話すちから」をさまざまな授業の形で届ける
古正:私も2年前の新人研修で、明日香さんにプレゼンテーションの極意を教えていただきました。改めてアルバ・エデュさんの活動について教えてください。
竹内明日香様(以下、敬称略):私たちアルバ・エデュは「すべての子どもに話すちからを」を理念に掲げています。社団設立当初は地域の公民館でのワークショップから始まり、さまざまな企画を通じて「話すちから」について学んでもらっていました。しかしながら募集型の活動では、教育について熱意があるご家庭の子供しか集まらないと気がついたのです。そこで、たくさんの人に「話すちから」の大切さを知ってほしいという思いから、学校を訪問する出前授業や、教員自治体研修などと活動の幅を広げ、現時点で30,200人の子供たちに授業を届けることができました。
授業ではテーマを軸に、自分の考えを論理的にまとめて発表をしてもらいます。未就学児向けにはShow and Tellで自分のお気に入りのおもちゃを紹介する、中高生になるとSDGsを勉強して「自分たちができそうなこと」を発表するといった内容にステップアップします。対象は子供だけではなく、教壇に立ちたいという大人向けにもプレゼン講座を開催、認定資格制度も作りました。
現在はオンラインでも授業を届けています。学校や自治体に向けてデジタル教材指導書の作成などを行い、特に経済困窮世帯には無償で授業を届けています。このような活動を通じて、市原市から依頼を受けてGIGAスクール構想のアドバイザーに就任しました。
「話すちから」とは
竹内:私は11年ほど銀行に勤めており、海外との商談にも同行していました。そうした経験の中で、ビジネスの場で日本人の話す力が非常に弱いことが分りました。せっかくの良いアイデアも、表現できなければ埋もれてしまいます。さらに3人の子供を持つ親として小学校の公開授業に参加した際に、昭和と同じ授業をしていることにも気がつきました。両者の現状を知りながら何もしなかったら、私は死ぬ時にすごく後悔するんじゃないか…何かアクションを起こさなきゃ、と始めたことでもあります。
古正:そもそも「話すちから」はどういったもので、なぜ重要なのでしょうか?
竹内:子供の頃であれば、おうちの人に食べたいもののリクエストをしたり、友だちを作ったり、生活全般に関わるのが「話すちから」です。
赤ちゃんが一人でおしゃべりしているように、見たものは言語化することで認識できます。言葉にすることで、世の中に存在する抽象的な問題を認識することにも繋がります。例えば、環境破壊や地球温暖化という言葉も昔はありませんでした。問題に名前が付けられることによって、世界中で共通認識されるようになりましたよね。これも「話すちから」の一つです。
最近は、「話すちから」はスポーツや音楽でも見直されています。例えば走るときに、ひじを後ろにできるだけ強く引っ張る、ひじを振り下ろす勢いで前に進む…一連の動作が言葉になると、その通りに動きやすいですよね。
成長していくと、入学試験の面接で自分をアピールできるか、といった将来を決める重要な場面でも必要になります。特に就職活動においては、経団連が取った「面接の際に何を一番重視するか」というアンケートで、20年以上も連続で「コミュニケーション能力」が1位になっています。
けれども、コミュニケーションの授業は学校にはありません。たまたま「話すちから」の重要性に気がついた子や、家庭で学ぶ機会があった子はいいですが、そうでない子にとっては、手足を縛って泳げと言っているようなものです。子供の頃から訓練をする機会すらないのは大きな問題だと思いました。「考える・伝える・見せる」というステップを踏んで話すことが当たり前になっていれば、苦労することはないと思うのです。
誰でもプレゼンテーションの達人になれる
古正:確かに私も、就職活動の時にいきなり「コミュニケーション」と連呼されて戸惑いました…。明日香さんの研修を受けて、練習次第でいかようにもなると知って衝撃を受けました。
竹内:「プレゼン上手」というと、生まれ持った才能だと捉えられることが多いです。でも、そんなことはまったくありません。運動神経がなくても筋トレをすれば腹筋は割れるように、練習さえすれば必ずうまくなります。
身振り手振りを付けるとか、原稿を見ないで話すといった、テクニックにあたる部分はイメージしやすいと思います。でも重要なのは、そこに至る前の「思考」の段階です。話したいテーマについてどうやって情報を集めるか、相手に受け入れてもらうために、自分の思いをどう組み立て伝えるか、を考えることが大切なのです。
「話すちから」と「学力」の関係
古正:アルバ・エデュさんのホームページに、プレゼンの授業を受けたら学校の成績が上がったと掲載されていました。「話すちから」と「学力」がどう関わっているのか教えてください。
竹内:特に国語と数学の成績が顕著に上がりました。中学二年三年と「話すちから」の授業を受けてくれた子たちに聞いてみると、人生全般に自信がついたという感想を多くもらいました。プレゼンの練習を人前ですることによってクラスに心理的安全性が担保され、褒められることがとても気持ちよくなったと。そうするうちに、まずは友達と話すことに自信がついて、しだいに初対面の人に話しかけることも得意になったのです。
プレゼンをするときにはまずはテーマを決めて、その主張に持っていくためのストーリーを作ります。プレゼンの練習を重ねるうちに、考える癖がついたのですね。その癖を、人の話を聞くときにも当てはめるようになると、「この人が言いたいのはつまりこういうことだ」と理解できるようになる。その結果、授業がとてもわかりやすくなったそうです。そんな副作用があるのかと私も驚きました。
もったいないのは、日本の授業が縦割りだということです。例えば、国語の作文の授業では自分の思いを言語化している。音楽の授業では発声練習。図工では作品制作で自己表現している。算数だったらデータの使い方や図の作り方…といった具合に、プレゼンテーションの技術はいろいろな授業にパーツとして入っているはずです。それを一つの力として認識するためにも、横につなげて意識することが大事だと思います。
オンラインならではの授業で探究の種まきを
古正:話すちからは、生活する上でも非常に重要な力なのですね。さて、アルバ・エデュさんでは、2020年の3月2日に臨時休校要請が出された際にも、「オンラインおうち学校」としていち早く学びの場を提供されていました。
竹内:子供たちの学びが急遽止まってしまう未曾有の状態でしたが、なんとか休校の1日目からオンライン授業を開始し、プレゼンの授業を実施しました。最初は私たちのコンテンツだけで授業を組み立てていましたが、しだいに科目という概念を取り払い、各分野のプロフェッショナル達にも参加してもらい、バラエティ豊かな授業をしてもらいました。
私たちが特に気にしているのは、運動会や修学旅行などの学校行事が中止になってしまったことです。同じような体験ができる家庭の子どもたちはいいですが、そういった子ばかりではありません。すべての子供たちに社会科見学を届けようと、オンライン社会科見学として、職場体験や工場見学、さらに美術館や博物館見学など、いろいろな場所にオンラインで行きました。その他にも、8カ国の子供たちを繋いでお互いの近況を話し合うグローバルオンラインホームルームも開催しました。
古正:場所や時間の制限がなくなり、学びの場が広がったんですね。その他にもオンラインならではの利点はありましたか?
竹内:チャットのフル活用で、オンラインでも答えのない問題をじっくり考えられる授業内容にできたことです。意見や感想を求めたとき、テキストであれば生徒全員のコメントを拾うことができます。一方通行にならない授業を、講師の皆さんと一緒に作っていきました。
遠く離れたものが目の前に見えるのも魅力です。奥手の子って、みんながわらわらと前に出て行ったときに、なかなか一緒になって前にいけませんよね。そうした子も、オンラインなら最前列の目線で見学できます。また、不登校の子や病院に通っている子も、同じように学びの機会を得られたのはとても大きいと思います。
オンラインで国境を越えて、ルワンダやバルセロナなどにも行きました。現地の方がカメラでつないで案内してくれるので、リアルタイムで映像を見ることができますし質問もできます。「電気が通ってないから、ルワンダには冷蔵庫はないんです」と説明されると、「どうやって食料を冷やすの!?」とみんな異文化に興味津々でした。そうした気持ちには、探究の入り口になる種まきの役割があります。この授業がただの動画だったら、ここまで自分の環境と比較できずに「あぁそうなんだ」で終わってしまいます。双方向性があるだけで、こんなにものめり込めることが分かってとても感動的でした。
開かれた学びを提供するために
古正:これまでお話を伺った中で、常に前進し続けるアルバ・エデュさんの熱量に圧倒されてしまいました。今後、さらに挑戦したいことはありますか?
竹内:出前授業・教員研修を含めて活動を全国に展開できたらと考えていますし、私立学校や国立学校との共同研究に力を入れたいです。また、GIGAスクール構想で一人一台端末が配布されても、デジタル教材が少ないといった問題にも取り組んでいきたいです。ゆくゆくは、指導要領を改訂する現場に加わり、アクティブラーニングをしっかりと授業に組み込むような活動もしてきたいです。
こうした活動も、今まで教育に関わりがなかった企業と一緒に行いたいですね。親でも先生でもない人たちのことを、私たちは「第三の大人」と呼んでいます。子供のまったく違う良さを引き出したり、異なる切り口で接することができる存在なので、人生が変わる子がたくさんいると思います。そのためには、開かれた学校づくりを自治体に提案する必要も出てきます。学校を卒業したらもう二度と関わらないのではなく、生涯教育という意味で、大人たちも一緒に勉強できる仕組みができたらいいなと思っています。
最近教育分野にも力を入れているTooさんとのコラボも、とても楽しみです。Tooさんは会社の事業もさることながら、社員の皆さん一人ひとりがとても魅力的で個性豊かです。これからもいろいろな場面で一緒に活動できるのが嬉しいです。
古正:さっそくアルバ・エデュさんには、5月12日〜14日に開催された、第12回教育総合展「EDIX東京」でTooブースに一緒に立っていただきました。これからさまざまな提案ができると思いますので、とても楽しみです。ありがとうございました!
一般社団法人アルバ・エデュ
編集後記 竹内さんから、その後「EDIXでは大変お世話になりました。たくさんの社員さんとご一緒して、さらにTooさんとのコラボの可能性が見えてきて、スタッフ一同興奮しています。」というコメントをいただきました。
アルバ・エデュ様と共同で出展した第12回教育総合展「EDIX東京」で、TooのブースがImpress Watchに掲載されました。 記事はこちら