VISUALIZEを通して本質に迫る。日本デザインセンター

インタビュー

2021.02.01

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1959年の創業以来、数々のデザイン制作やプロデュースを行っている日本デザインセンター。創業60周年を迎えた今年、展覧会「VISUALIZE 60」を開催しています。全4回にわけて開催される展覧会で60のプロジェクトをピックアップし、2021年1月22日(金)まで30のプロジェクトを展示した前期Vol.1が開催されていました。展覧会でディレクションを担当している、日本デザインセンター アートディレクターの色部義昭氏にお話を伺いました。

※本インタビューは2020年12月に実施されました。

60周年を迎え、新たな領域へ

Too:まずは、本展覧会のメッセージ「DESIGNはVISUALIZEへ」に込められた意味を教えてください。日本デザインセンター様が掲げているミッション「本質を見極め、可視化する」と繋がっていると思うのですが。

色部氏(以下、敬称略):二つのメッセージは直結しています。日本デザインセンター(以下、NDC)は今年60周年を迎えました。メディアの変遷とともに、設立当初と現在でデザインに求められる役割が大きく変わっています。こうした情勢に加えて、「60」という数字には様々な意味があることをある人に言われて気がつきました。時計の針でいうと1回転し、新しい時間が始まります。また、人で例えると60歳は還暦で、もとの干支に返り新たに生まれ変わるタイミングです。我々もデザイン会社として、新たなビジョンを待つべきだということを軸に据えました。

この展覧会を周年行事として考えると、過去の名作や自分たちの記憶に残る作品を並べてアーカイブとして見せることが一般的だと思います。しかし今回は、NDCの方向性を示すべきだということで、古い作品は紹介せず、ここ5年以内の作品や、クライアントワークではない自分たちの構想を形にした作品を揃えました。

自分たちの仕事を表すことはなんだろうと考えたときに、「本質を見極め、可視化する」に立ち返りました。そこで可視化、つまりビジュアライズという言葉を今回の展覧会のメッセージに取り入れました。

リアルとオンラインの融合

Too:会場内は、NDC様にもとからあった円柱を活かした、余白のある空間づくりが印象的です。コロナ禍でリアルな展覧会を開催するうえで、どのようなところを意識したのでしょうか。

色部:展示の手法にはかなり翻弄されました。昨年の構想段階では、展覧会というのは目で見て触って体験する場だと思っていました。今年の3月、4月と状況が深刻になるにつれて、「そもそも人を呼べるのか」といったところまで追い込まれました。一方で情報が蓄積され、どのような対策をすれば大丈夫かがわかってきました。一つは手で触らないこと。目で見て感じてもらうことを重視しました。次に音です。指向性スピーカーを導入することで、ヘッドホンを着けなくてもプロジェクトの世界観に没入できる環境を整えました。そして、回遊性のある空間を作り密度を上げないようにしたこともポイントです。

ndc5.jpg会場内は、円から円へ誘導される空間づくりが印象的。

色部:また、同じ会社にいながら直接繋がることなかったバックオフィスの社員も含めて、全員参加で運営したのも特徴の一つですね。機器の導入や、予約制に対応する仕組み作り、人を招き入れた時のオペレーションなど、デザイン以外の部分は未経験でした。見えない部分で必要なことがたくさんあったので、僕らも運営しながら学んでいます。

Too: YouTubeで配信されたオンラインセッションや、SNSでのデザイナーのインタビュー動画など、オンラインで楽しめるたくさんのコンテンツも魅力的です。

色部:リアルも大切にしながら、オンラインでのコミュニケーションも取り入れる。そういう意味で、これらも新たな挑戦でした。NDCには専属の広報担当がいないので、デザイナーやコピーライター、プロデューサーが慣れないながら自分たちで試行錯誤しながら運営しています。そして、その先にはクライアントへの提案というフェーズがあると考えています。SNSコンテンツのデザインを提供することがありますが、皆さん最初はとても躊躇されます。誰がやるのか、どれだけ大変なのか、未経験だからこその不安を想像されているのです。それを、NDCの我々が挑戦することで、生きた経験値を伝えることができます。

プロジェクトの背景を伝える

Too:それでは展示についてお聞かせください。作品の前に立ったとき最初に目に入ったのは、一枚の絵で本質を捉える役割を持ったトビラ絵でした。

色部:「トビラ」という言葉通り、トビラ絵にはプロジェクトを本質に導く入り口の役割を持たせています。「トビラ」の前に立った瞬間はピンと来なくとも、実際に作品を鑑賞すると、見る人に訴えかける「ちょっと余白を持った絵」になります。トビラ絵によっては謎めいていて、展示を見ても最後までピンと来ないものもあります。それも含めて、展覧会のコミュニケーションとして楽しんでもらいたいです。皆さんの想像力を掻き立てるように、なるべく想像の余白を残すことを重視しています。

ndc6.jpg「女子美術大学・短期大学部 Webサイト」のトビラ絵

Too:非常にシンプルな、強弱のない線で表現されていますね。

色部:「トビラ絵」だけが、展覧会場やWebサイト、SNS、書籍、その他のコンテンツすべてに共通して掲載されていることから、展覧会全体を横糸で編んでいく役割を持っています。トビラ絵として60作品分の個性が内包されている必要がありますが、まとまりも必要です。手描きのような人の手に依存した線よりも、削ぎ落とした線の方が横糸として機能するということで、シンプルな表現になりました。

Too:まだ展覧会に足を運んでいない方に伝えるとしたら、どのような点が見所でしょうか。

色部:一つはモノがあることです。本やウェブでは伝えられない、モノが訴えかけてくる力を感じ取れるのはこの会場だけです。昔はポスターやパッケージデザインなど、モノとして存在感がある作品を展示することが多かったです。最近は、VI (ビジュアル・アイデンティティ)なども印刷すれば展示が可能になりました。でもそれが社会にどう実装されているか、実物を見なければ本当の効果はわかりません。モノをボンと置いただけでは成立しない、その背景を伝えるために今回の展覧会では映像を駆使し、社会に実装されているプロジェクトを工夫して伝えています。

もう一つは、NDCという普段はなかなか入る機会がない空間に入れることです。会社には入りづらい…という方もいますが、デザイン関連の仕事をされている方、デザインに興味がある方、学生さんにもNDCという会社を知ってもらえる機会ですので、たくさんの方に来ていただきたいですね。

Too:展覧会に合わせて書籍も出版されました。

色部:デザインの仕事集としてはかなり変わった体裁で、非常に淡々とした語り口でプロジェクトを解説していく本です。展覧会ではモノを重視しているのに対し、書籍の一番のポイントはトビラ絵です。

作品の掲載順は展覧会とあえて変えました。順番というのは一つの編集軸として意味を持つものです。ジャンルごとにひとまとめにするアイデアもありましたが、どのプロジェクトも外枠が異なるために、分類が難しいんです。ふと分類をやめたときに、展覧会のキーワードを活かしてビジュアル優先の並び順にしようと、最終的にビジュアライズに戻ってきました。どのような順番であれば目が喜び頭が活性化されるのか、隣り合った作品同士が起こす化学反応を感じ取りながら考えました。

ndc8.jpg

ページの順番決めは変わった手法で行いました。大きな円卓にページを小さくリサイズしたものを置き、それぞれのプロジェクトが引き立て合う順番を実際に並べ替えながら整えていきました。作る行為は、部分に入り込んでしまうと見づらい作品同士の関係性も、このように一覧性をもつことで客観的な視点で最適解を探すことができます。部分最適と全体最適を繰り返す手法を取り入れました。

Too: SNSでは「#VISUALIZE60」で既にたくさんのコメントが寄せられていますね。どのような感想が多いですか。

色部:来場者の皆さんもそうですが、日頃からお付き合いのあるクライアントからの意見は印象的です。普段仕事を依頼されている接点でしかNDCを知らないので…例えばパッケージを長年依頼していただいているクライアントからすると、「映像も撮れるんですか?」などの驚きの声を結構聞きますね。我々の多面性を見せることによって、クライアントの課題解決の可能性を広げられるきっかけになると思います。

観察することで本質に迫る

Too:ここまでで、ビジュアライズの役割についてお話しいただきました。色部さんにとって、ビジュアライズとはどんなことか教えていただきたいです。

色部:ビジュアライズの捉え方は多様だと思います。僕で言うと…自分がやっている行為は、デザインというよりもビジュアライズと捉えた方が自然です。ある商品の「顔つき」を表現するときに、メーカーが作った内容物そのものの良さや個性を見えやすくする。そうした行為は、誰かの作ったものをデザインするというより、ビジュアライズしていると言った方が、すごくしっくりきます。そういう意味で、ビジュアライズという言葉の謙虚さが好きで、いいなと思っています。

Too:ビジュアライズする上で、日頃意識されていることを教えてください。

色部:いろいろな視点で観察することでしょうか。様々なデータを集めてビジュアライズするのも一つの観察ですが、纏っている空気や雰囲気をぼんやり眺めることも観察です。例えば友達って、遠くに離れていて顔が見えなくても立ち姿でわかりますよね。それはディテールではなく、全体の雰囲気で判断しているからです。物事の本質は意外とそういうところにあったりします。ただ、本質に迫れば迫るほど表現は広がるので、自分の首を絞める作業になったりもするのですが(笑)。

また、物事はひとつで完結することはありません。ロゴひとつとっても、ロゴ単体で美しいかどうかではなく、街に置かれてきちんと機能するかどうかが重要です。そう考えると、それぞれの関係性を把握することは大事だと思います。

ndc4.jpg色部氏がアートディレクターを務めた「WALL」。街区表示板という最小点のデザイン提案で、街の様相がどう変わるか実験的に示した。

Too:首を絞める作業とはおっしゃいますが、それでもビジュアライズを続けようとする原動力はどこにあるのでしょうか。

色部:月並みですけれど、クリエイションがすごく楽しいんです。特に展覧会は一つのメッセージなので、発信するとフィードバックをもらえます。普段の仕事ではユーザーからの感想は、アンケート調査や数字のデータでしか出てきません。展覧会なら会場で生のコミュニケーションが発生します。企画を立ち上げるのはもちろん大変ですが、確かなフィードバックがあるのが一番の楽しさですね。

Too:さて、会場では弊社グループ会社 バニーコルアートが扱うリキテックス ガッシュ・アクリリック プラスも展示いただきました。色部さんによるディレクションで、創作活動の喜びや葛藤をビジュアライズしていただいたということですが、どのような角度で本質を観察したのでしょうか。

色部:僕自身、美大生だったころにリキテックスのユーザーでした。企画をする時には、絵の具を実際に使っているシーンを思い出すところから始まりました。すると、アトリエの床にバラバラと散らばった臨場感のある様子が浮かんだんです。わかりやすく簡素化した姿ではなくて、絵の具が溢れてくるようなパッケージの方が使う人を刺激できると思って。遊び心にチャレンジしたプロダクトです。

ndc1.pngリキテックス ガッシュ・アクリリック プラス。絵の具が滴る様子は、色ごとに異なっている。

Too:リキテックスの他に、会場に設置されたモニターのキャリブレーションなど、Tooも展覧会の一部に関わらせていただきました。最後に、NDC様にとってTooはどのような企業でしょうか。

色部: TooさんはNDCに所属する以前も、画材を買うのにお世話になっていた空間です。道具ってとても大事ですし、ものづくりをする人は道具に対する愛着や、そこから受けるワクワクを常に持っています。今もコンピューターやディスプレイ、ネットワークなど、学生時代とは形を変えてTooさんとお付き合いしています。改めて、道具はクリエイションを掻き立て自分たちの仕事を左右する、大事なポイントだと思います。いい道具があることは、我々が力を100%発揮するうえで何よりも大切なことなのです。

Too:目に見えるものに存在する、潜在的な価値を形にするビジュアライズ。私はデザイナーではありませんが、クリエイティブに携わる仕事をしている立場として、視点を変化させて観察する手法は、どんな領域にも応用できる力だと思いました。色部さん、ありがとうございました。2月1日(月)からは「VISUALIZE 60 Vol.2」が開催されますね。そちらも楽しみにしています。


日本デザインセンター
「VISUALIZE 60 Vol.2」は、2021年2月1日(月)から4月16日(金)まで日本デザインセンター本社にて開催中です。

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