探訪!オートデスク株式会社
(写真右)株式会社 白舟書体 代表取締役
丸岡 照登 氏
(写真中央)シヤチハタ株式会社 EC・サブスクリプション部
間瀬 要 氏
(写真左)株式会社白舟書体 J-Font.com担当
真嶋 崇之 氏
メーカーさんを訪問して、ツールが提供される背景を取材するシリーズ。今回は、遊び心溢れる筆文字フォントを開発している「株式会社 白舟書体」と、印章関連商品や文具などを世界中に提供し、白舟書体のサブスクリプションサービスを展開している「シヤチハタ株式会社」です。
Too:まずは白舟書体様とシヤチハタ様について、そして両社の関係について教えてください。
丸岡さん(以下、敬称略):白舟書体はもともと町の小さな印章店で、『丸岡白舟印舗』として1934年に創業いたしました。創業者である丸岡勝が、長年にわたって書き溜めていた印章用の手書き文字をデジタルに直し、1996年より印章業界向けに販売したのがフォントメーカーとしての始まりです。手書きの文字をフォントにするというノウハウを利用して、2002年に白舟書体の顔である「デザイン筆文字シリーズ」が誕生しました。
真嶋さん(以下、敬称略):その他活動には、1997年より続けている教育漢字版フォントの無料ダウンロードをはじめ、「Web認印」「Web風雅印」「ひともじ雅印」など各種サービスをWebで展開しています。
間瀬さん(以下、敬称略):私どもシヤチハタは、1925年の創業時『万年スタンプ台』の開発から始まり、今日まで『ネーム印』をはじめとする各種の浸透印を販売してきました。現在は『電子印鑑サービス』の開発、販売などにも取り組んでいます。これらの製品に「フォント」は欠かせない存在です。2000年代に入って、生産の効率化や加工法の変化で必要性が出てきたデジタルフォントを、弊社でも開発しております。そのころから白舟書体さんとはお付き合いがあり、そういったご縁から白舟書体と協業でサブスクリプションサービス「J-Font.com」を展開しています。
一文字にかけるこだわり
Too:それでは白舟書体さんのフォントについて教えてください。筆文字フォントといえば白舟書体が第一に思い浮かびますが、個性あふれるフォントはどのようにして生み出されているのでしょうか。
丸岡:白舟の顔である「デザイン筆文字シリーズ」は、基本的に手書きベースでフォントを作成しています。その中で第一弾として開発されたのは「鯨海酔侯(げいかいすいこう)」というフォントです。誕生のきっかけですが、先代の社長行きつけの串カツ屋の店内に短冊に書かれたお酒のメニューがあって、それが手書きの字でなんとも味があった。地元の酒屋さんが書いているという話を聞いて、社長がその酒屋さんにフォント用の文字の執筆を依頼しました。
そうした流れもあり「デザイン筆文字」シリーズでは、プロの書家だけではなく、お好み焼屋の女将さんや病院勤務のOLさんなど、趣味で筆を持たれている方に制作を依頼することも多いです。筆だけでなく、割り箸やハケを用いて書かれる方や、あえて利き手と逆の手で味わいを出す方など、個性豊かな方々に執筆していただきました。
白舟書体の仕事は、その個性を存分に引き出せるようにプロデュースすることです。これがなかなか難しく、書家さんは書く文章によってイメージを少しずつ変えておられたり、様々な書き味を使い分けています。どのようなイメージを切り取ってフォント化するか、すり合わせの作業を大切にしています。
一つのフォントを作成するのに3,000字くらいを執筆していただきますが、手書きだと最初の100文字と最後の100文字では雰囲気が変わってきますよね。統一感をもたせるために、一通り書いてもらったら、頭に戻ってふたたび数100字書いてもらうこともあります。最終的に漢字を追加して7,000字ほどまで字数を増やす必要があるので、そこからはデジタルで作業を行います。その後「個性を足しこむ」編集作業をすることもあります。
Too:「個性を足しこむ」とは?
丸岡:「大髭(おおひげ)」というフォントの制作を例に挙げます。非常にアナログな方法ですが、実際に執筆していただいた原本をコピーして、1文字1文字修正液や油性ペンを使って手作業でハネや髭を加えています。字母の持つイメージを壊さないように調整を重ねてこだわって制作しています。
真嶋:いろいろなフォントベンダー様がいますが、白舟書体の作成方法はその中でも非常にアナログです。対極に、最初からデジタルデータでパターンを起こす方法もありますが、白舟書体では筆文字ならではの温もりを第一にしていることから、昔ながらの手法をとっています。
制作側の意図を超えて
Too:一文字にかける思いに圧倒されます。御社のフォントはあらゆるところで目にしますが、面白い使われ方や市場でのニーズの変化はありますか?
丸岡:インパクトがある書体が多いので、基本的にはテレビのテロップやゲーム画面、コミックなどのキャッチ部分に使われています。ですが、制作時に意識したイメージとまったく異なるケースで使われているのを見ると驚きますね。
「京円(きょうまどか)」というフォントがあるのですが、まろやかで優しい文字というコンセプトで売り出していますし、世間一般的にもそういったイメージがついている書体です。しかし、とある北海道のテレビ番組で「京円」が「バカ野郎!」といったテロップに使われていて(笑)。チグハグに見えますが、そのインパクトの強さで逆に「これしかない!」という使い方に思えたんです。ユーザー様から意外性のある使い方を気づかされることもあります。ぜひ皆さまには、いろいろな使い方を試して遊んでほしいですね。
真嶋:市場の変化としてですが、解像度の高いモニターに表示することを意識したご要望が増えています。少し前までは、印刷を想定して書体は「潰れない太さ」を求める声が多かったのですが、エンタメのお客様を中心にディスプレイ映えする、より太い・大きい・勢いがあるフォントを望まれます。技術の進歩に合わせて、白舟書体としてもニーズに応えられるように開発を進めていきたいです。
丸岡:他には取り組みとしてですが、2002年に「僕らのフォント」というボランティア活動を行いました。地元の小学校の1クラス全員に教育漢字の1,200字ほどを書いてもらい、それをフォント化する取り組みです。完成したフォントで、最後は作文を提出してもらいました。文字って、フォントにすると思った以上に個性が出るんです。子供時代の個性を保存する、タイムカプセルのようなコンセプトで取り組みました。
地域と関わったプロジェクトは今後も何かしら挑戦してみたいです。弊社のフォントは地域に密着して制作していますので、何かしら還元するコラボレーションができれば面白いなと思っています。
新たなサービス展開へ
Too:昨年の3月にスタートしたフォントサービス「J-Font.com」について教えてください。
丸岡:3月に前後する話となりますが、昨年6月をもって、それまで他社様のサブスクリプションにて提供されていた白舟フォントが終了となりました。それに伴いフォントを提供する新たなサービスの立ち上げが必要で、シヤチハタさんご協力のもとシステム開発に取り掛かりました。
間瀬:我々シヤチハタは、以前から捺印作業を電子化する「電子印鑑ビジネス」に取り組んできました。ベースとなるEコマース関連のビジネススキームがあったので、白舟書体さん向けフォントライセンス提供システムの構築にすみやかに着手することができました。お客様がスムーズに移行できるよう、検討を重ね、スピード感を最優先にシステム構築に取組みました。その結果、初年度としては計画通りにサービスを開始することができ、大きなトラブルもなく運営することができました。
今年、サービス提供が2年目に突入し、充実度を高めるために、新たに2書体の追加と、フォント管理アプリをリリースしました。管理アプリでは、フォントの一括インストールや削除、フォント使用中のPC確認(WEBのMy Pageにて)ができるようになっております。アプリのリリース以降、ユーザー様から使用感のご意見をお客様からいただくこともありますので、今後ともサービス向上のアップデートを図っていきたいと思います。「J-Font.com」は現在、国内にあるPCへのインストールのみの許諾ですが、海外、特に中国からの利用のお問い合わせが増えていますので、海外展開もマーケットの一つとして考えていきたいです。
丸岡:提供するフォントも、白舟書体らしさを保ちつつ進化させていきたいです。お客様から「ゴシック体や明朝体は作らないんですか?」というご質問もよくいただきます。ですが、現時点ではもっと面白い、もっと楽しい、お客様にワクワクしてもらえるようなフォントを増やすのが、我々の役割だと思います。
Too:それでは最後に、Tooはどのようなパートナーでしょうか?
丸岡:Tooさんはアナログのデザインツールを販売していた「いづみや」時代から、現在のデジタルソリューションの展開へと順調に変遷してきた会社だと認識しています。デジタル化のプロセスは、時期は違えども白舟も同様の歩み、必然であったと思います。この先、白舟書体、シヤチハタ、そしてJ-Font.comの方向性に迷うこともあるかと思います。Tooさんには一歩先を進んでいただき、私どもが進む「道」を示してほしいです。道を拓くための道具、「白舟フォント」をこれからも心を込めて提供させていただきます。
Too:パートナー企業として新しい道を進みながら、これからもユーザー様を一緒に支えていきたいと思います。
また、今回は兵庫県に会社を構える白舟書体様と、名古屋に本社があるシヤチハタ様、東京のTooと3拠点をつなぎ、ビデオ会議システムZoomを使用したリモートでの取材を行いました。原稿のやりとりもクラウドストレージサービスのBoxを使用するなど、完全オンラインの取材形式にチャレンジしてくださりありがとうございました。