探訪!オートデスク株式会社
一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA ) 会長
株式会社乃村工藝社
クリエイティブ本部
統括エグゼクティブクリエイティブディレクター
鈴木 恵千代(すずき しげちよ)氏
Too:今日は一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA)の会長、鈴木恵千代さん(以下、敬称略)にお話をお聞きします。
人が集まる場所をつくる
Too:まずは空間デザインというジャンルについて教えてください。
鈴木:日本空間デザイン協会は、元はディスプレイデザイン協会といい、数年前に名称変更しました。2019年でちょうど60周年になります。
空間デザインは、ショーウィンドウからランドスケープまでが含まれます。人が集まり商売が行われる場所、つまりお金のやりとりがある空間や、メッセージが発信される空間は、ほぼすべて空間デザインの対象になります。
一番小さいのはショーウィンドウのデザインでしょうか。これはもっともアートに近い分野かと思います。そこも空間です。そこから始まって、商業スペースでは百貨店やレストラン、ショップ、車のショールーム。企業のコミュニケーションスペース、例えばショールームや商談スペース。そして仮設のエキジビション、ミュージアム、資料室などが含まれます。建築はまた別ジャンルになりますが、建築物でもビルの外壁は空間デザインと捉えられることがあります。専門家と組んで、牧場のデザインをすることもあります。
Too:人を集める空間ということでしょうか。
鈴木:そうですね。その空間でビジネスが回ること自体が空間デザインの成果になります。単にかっこいいとかおしゃれ、ということではなく、人がそこに集い、そこでコミュニケーションが生まれ、メッセージが発信され、ビジネスが回っていく場所を作る、ということが仕事になるんです。
幅広い知識が表現の幅を広げる
鈴木:売り上げにどう貢献するかという仕事なので、例えば床を赤くして壁を白くしましょう、だけではなく、店舗として数年稼働したときに建材の耐久性やコストはどうか、ということを加味して設計します。そのスキルを身につけるのも時間がかかりますね。空間デザインは、技術的な知識との関連性が高い仕事だと思います。
商業施設やイベントなど、担当分野によって必要となる技術知識が変わります。例えば、モーターショーのブースをデザインする場合はやはり車を知らないとできない。百貨店には百貨店のノウハウがあります。専門店の売り場はそれぞれ専門の知識が必要です。これらのノウハウや技術情報は日進月歩だし、時代によっても変わるのでずっと情報を追い続ける必要があるのです。
場合によっては建築士の免許が必要になることもありますし、建材、照明などの知識は知っていた方が有利です。さらに、技術的な知識だけではなく、マーケティングの知識や情報処理など、全体的な技量が大きければ大きいほど、表現できる幅が広がります。
Too:技術の進歩もありますし、常に勉強が必要ですね。
鈴木:時代による変化もあります。2005年から10年間は、それはもう「エコ」の時代でした。「すべての照明をLEDに」「リサイクル建材で」など、環境に配慮した設計が求められました。環境設計について勉強し、LED、素材について勉強する必要があったのです。
それらがあたり前になった現在では、環境だけではなく、人間の精神的な環境を潤すようなデザインが求められている気がします。働き方やライフバランス、コミュニケーションを重視した場所を求める動きが非常に大きい。
人を中心に見たときに、個人の権利や安全をどう守っていくかが重要になってきているようです。公共の場所でも、どんどんパーソナルになっています。百貨店でも個々人にあわせた環境を求められ、オフィス空間でも、同じ机を並べるというのではなくなってきました。
Too:これからどんな風に変わっていくのでしょうか。
鈴木:いま人々は、AIやテクノロジーに囲まれて、四六時中あらゆる情報にさらされています。皆がそのことを知っていて、同時にさまざまなことが進行しています。空間デザインもこういった全部の動きの中で、在り方を考えていくのだと思います。
空間の中で行われる"こと"が変われば、空間も変わっていくでしょう。例えば、衣食住が無料で提供されるような未来になったとき、いま衣服を売っている空間はどうなるのか誰もわからないのです。売り上げ以外に、人はなにを価値として感じるのか、ということをデザイナーは考える必要がありますね。
五感に訴える
Too:空間というと、音とかも含まれるのでしょうか?
鈴木:その通りです。すべてのデザイナーが意識しているかどうかは別として、空間デザインはまさしく、人の五感に訴える仕事です。視覚が与える影響はわかりやすいですが、空間に足を踏み入れて最初に感じるのは靴底の触感です。床の素材が感情に訴える影響はとても大きいのです。
それから匂いのデザイン。入った瞬間に気がつきます。壁面に匂いを吸着したり分解する素材を使ったり、空気を意図的に流したりすることで快適な環境をデザインをします。
それから音。耳障りな高周波音をどれだけ聞かせないようにするか考慮します。百貨店では高周波音を出すエスカレータの機械音をなるべく聞かせないようにして、滞在時間を長くするデザインを施します。滞在時間が長くなれば、それだけ売り上げに貢献するからです。
味覚は、直接はないかな……。素材として塩のタイルが使われたことがありましたね。このお茶をこの空間で飲んでもらう、とかかな。でもまあ、四感でしょうか。こういう全体を含めてデザインしていきます。
協会で交流の場をつくる
Too:協会ではアワードを実施されています。
鈴木:今年は、JCD(一般社団法人日本商環境デザイン協会)さんといっしょにアワードを開催します。それぞれの協会がいっしょになって、日本の空間デザインを一本化できるようになるので大きな意味があると思います。日本の空間デザインは素晴らしいところがいっぱいあって、独特の良さがありますね。日本デザインのいいところを世界に真似してもらって、世界規模でより良い社会、より良い生活をつくるお手伝いができればと思っています。
西洋をどれだけ追いかけても西洋にはならないですし、特に和風なデザインにしていなくても、世界から見ると "The Japanese Design" になっています。国ごとの個性があり、それはそんなにすぐには変わりません。それぞれの個性を活かして空間デザインのレベルをどんどん上げていくことができると思います。
Too:外部との連携は実際に増えていますか?
鈴木:協会員の7割が企業に勤めるデザイナーですが、社外の人とのつながりや活動は、自分や自社の仕事に大きく影響し、次の仕事につながっていくと思います。
例えば、時間という軸をデザインに取り入れる動きから、映像とのコラボなどが多くなってきています。国際的な交流も増えてきました。協会でももっと分野ごとの交流を活発にしたいですね。さらにリアルなコミュニケーションを活性化させて、協会自体がそういう場所になれるといいと思います。
時代が大きく影響する空間デザインの世界。あらゆる角度からの挑戦ができる分野です。こんど新しい商業施設を訪れたら、五感をフルに働かせて空間を感じてみよう!と思いました。