探訪!オートデスク株式会社
on fleek株式会社 代表取締役社長
1980年代後半に日本IBMに入社。メインフレーム機のOSやJava仮想マシンなどの海外開発部門での活動や国内・海外のお客様サポートなどのグローバルチームでの活動などを経て、Watson IoT事業部にてIoTのテクニカルリードとして新しいビジネス価値を創出。2017年8月よりTooのCTOに就任。趣味は野菜作り。
仕事がなくなる?
Too:実際には「AIで仕事なくなるんじゃないの?」という不安が、結構根強いですよね? 先日、社会人一年目の時ってどんな仕事してたんですか? と後輩に聞かれて「郵便物を大量に出す」「ファイリングする」とかの仕事だったね、と話してて気がついたのですが、すべてもう現在の社会人一年目はやってない仕事ですよね。仕事は変わっていくんだねと。
鈴木:はい。つまり機械で代替可能な単純な作業はなくなった、ということですね。AIも同じように道具なので、単純な繰り返し作業はAIに代替させる方向性になっていくと思います。また人間には覚えきれない大量の情報を整理して使えるようにしたり、蓄積や習得に長い時間がかかるスキル、たとえば医療保険請求の計算などはAIに代替させると便利だと思います。
さまざまな「繰り返し」をAIに学習させて再利用可能な価値にしています。われわれの仕事の中の繰り返しを上手にAIに学習させ、道具として活用することで、人間はより充実した個性を発揮する仕事に集中できるようになると思っています。
Too:マーケティングの世界では、数字とデータでAdobe SenseiのようなAIが大活躍で、今後はクリエイティブも全自動でいけるだろうとも言われています。クライアントさんもデータドリブンに慣れてきています。クリエイティブの世界も、知らないでは済まされません。
鈴木:これまでは手作業の手間や煩雑さからやり直しが難しかった手順でも、AIという道具を用いることでどんどん新しい組み合わせを試せるようになっています。その道のプロの方だからこそ、新しい組み合わせを柔軟に発想してスピーディに提案できるので、その意味でAIはプロフェッショナルの方々の仕事をより創造的にする、ということになると思います。
車を上手に走らせたければ、車が動く原理を知っていたほうがいい
鈴木:例えば、車をより速く走らせたい、より上手に走らせたいと思う人は、車がどうやって動くのかの原理を知っているほうが上達も早いと思います。どんな道具でもそうですが、プロフェッショナルの方が仕事に活かそうと思ったら、道具の原理を知っているほうがより効果的にその道具を活用できると思います。AIを書ける必要はありませんが、AIがどうやって学習するのか、効果的な学習とは何か、の概念を知っていることは役に立つと思います。
Too:デザイナー自身がプログラムを書けるようになる必要はないんでしょうか?
鈴木:必要はないです。でも少し知っていると理解しやすいことも多いと思います。PythonやSwiftなど新しい言語は学びやすく、作ったものがすぐ動かせるなど楽しいので、プログラミングについて食わず嫌いの方にはちょっと試してみるのをお薦めしています。
クリエイターの皆さんが、今後ネットを前提にした市場でデジタルな道具を活用されていく際に、あらゆるところでAIは使用可能な道具として現れてくると思います。その際にそれらのAIで何ができるのか、お客様へ伝えるのにAIがどう使えるか、を知っていることは役に立つと思います。Adobe Senseiのボタンを押して使うだけの人と、これがなぜ動くのか、どういう原理なのかを理解している人の違い、ということですね。
Too:道具を進化させるのも自分、ということですね。それにはテクノロジーを知っておいたほうがいいと。Tooでは、営業など一般社員が技術を学ぶ勉強会をトールさん主導で定期的に開催しています。あれ、デザイナーさんも参加したらいいと思うんですけど、なぜいいのかを説明してもらえますか?
鈴木:お客様のニーズや課題を伺う際に、その解決へどんな道具が使えるかを皆さん頭をフル回転させて考えていらっしゃると思います。AIを含むデジタル道具も、同じように頭に入っていることが期待される時代になっていると思います。
とはいえ、カタカナ語を何時間も聞いていても勘どころを掴むのは容易ではありません。それよりも、簡単な道具をAIで自作してみて、どうやって動かすのか、その原理を体得していただければと思い、勉強会を定期開催しています。実際に参加された営業の方から「お客様との会話で役に立った」とのフィードバックもあり、今後も内容を進化させながら継続していこうと考えています。
面白いことをキャッチするスキルを鍛える
鈴木:膨大なネットの情報や多様化する顧客の嗜好、変化し続けるマーケット動向などへのアクセスは、今後は個人の用途や好みに合ったAIをフィルターとして通すのがむしろ普通に、膨大な情報を手作業の努力で分類するといったAIなしのアプローチの方がむしろ珍しくなると思います。自分用のAIをいろいろな目的別にそれぞれ活用して仕事や生活に活かす、ということになりますね。AIやデジタルを活用したdigital disruption(破壊的イノベーション)は現場から起こります。日々の仕事や生活にどんな道具が使えるか、高感度のアンテナで反応できるかが鍵になると思います。
またAIを含むデジタルの道具は進化が早く、新たな論文が出されて一日で陳腐化したりすることも珍しくありません。提供する企業が問題を起こして、昨日までのプラットフォームが一斉に疑念の的になるといった事態もあります。これらの道具やそれによって生み出された価値観を固定化させようとするのは適切ではなく、常に進化し続けるものとして、その変化を楽しむ距離感で使う姿勢が良いのではと思っています。
Too:利用する側としても、付き合い方を鍛えておく必要があるということですね。
鈴木:無理する必要はないですが、アンテナを張って感性を磨いておくのは役に立つと思います。AIなどの道具の原理を踏まえて、普段の仕事や生活で「あ!」と思うことがあったら、どんどん仲間と話してみるとアイデアが広がるのではと思います。IT系じゃないから、ではなく、非IT系だからこそ、新しい発想でAI活用の面白い着眼点を見つけられるのではと思います。
AIに限らずネットやスマホも含め、デジタルな技術の進化はずっと続いていて、特にいまになって急にスピードが上がったわけではないと思います。世界中でこれだけ多くの人々が熱中して試している道具なので、食わず嫌いで触ってみないのはもったいないと思いますよ。
どんどん押し寄せるテクノロジーとどう付き合っていくのか、ヒントがもらえたような気がします。「プロこそ強い道具を手にすると強くなる」というのが印象的なインタビューでした。
終わり