あにつく『河森メカアニメの秘密』で知るデザインの視点

レポート

2019.06.17

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「あにつく」はアニメ制作技術に関する総合イベント。その企画のひとつである「アニメ制作ワークフローセミナー」は、アニメ制作現場の方々が登壇し、最新技術の話題から、作品へのこだわり、制作の裏話まで聞けるとあって、満席必須の人気セミナーです。

河森正治監督のプロデビュー40周年企画「河森正治EXPO」が開催される今年、「あにつく」も5周年を迎えました。これらを記念して今回は、スペシャルゲストとして河森正治監督と株式会社サテライトより後藤氏、森口氏、原田氏にご登壇いただきました。

河森正治EXPO

作品づくりにつながる原体験

前半部では、河森氏よりデザインの考え方について、デザインの視点がメカニカルデザインや監督・演出をするなかでどう活かされているかを伺いました。

まずは、いまの作品づくりにつながる幼少期の体験談から。特撮テレビ番組『サンダーバード』が好きで、プラモデルを参考にして機構を考えながら機体のペーパーモデルを手作りしていたことや、いすゞ社の117クーペを見て、同じ車でもカッコよさがこんなに変わるのかとデザインに興味を持ったエピソードが紹介されました。

アポロ計画が盛んだった小学校時代には、飛行機とまったく異なる宇宙船の形に衝撃を受けたそうです。「空気がないところを飛ぶものは、こんなにも形が違うのかと感動しました。」と、大きな影響を受けたと明かされました。この「機能によって形が変わる」というものの考え方は、セミナーの中で河森氏からくり返し伝えられました。

また、監督や演出も手がける河森氏ですが、「世界観を考えるときもデザイン、物語もストーリーのデザインだと思っています。」と、その根幹は同じだと言います。映像作品では決まった尺の中でいかに効果的に物語を配置していくか、演出ではどう見えたらどう伝わるかを考えて表現することにデザイナーとしての視点が活きていると話されていました。

世界観にあわせたデザイン

「デザインとは、目に見えないもの、例えばコンセプトや感情・気持ち、人間の欲求・欲望、表現したいテーマなどに形を与えることです。形を整えるスタイリングに対して、設計や根幹に関わるところをデザインだと考えてます。」という河森氏。

実用性が重視される現実世界のデザインに対して、フィクションでは、どんな時代なのか、どんな場所なのか、地球、宇宙、異世界なのか、宇宙法則や文化はどうなのか、その世界観にあわせることが重要だと言います。

例えば、地球では1Gの重力で物が落下しますが、宇宙であれば浮ぶ、SF作品なら重力の強い世界もある、魔法世界なら重力が崩れている場所がある……といったように、世界の特性や法則が違えば、できあがる形が変わるとのこと。メカニカルデザインに限らず、文化的な習慣なども、世界観やその世界の法則を掘り下げて考えるそうです。

(c)2007 BIGWEST/MACROSS F PROJECT・MBS
『マクロスF』『交響詩篇エウレカセブン』『G-3ガンダム』などの作品を例に、
どの要素がどう形に影響を与えているのかを解説。作品ファンにとってもたまらない内容でした!

オリジナリティのあるものを作るには?、というテーマでは、発想法や視点の変え方について、多くの具体例を挙げつつ説明いただきました。

河森氏は、現実世界にある戦闘機を見たときに、何のためにその形になったのかを突き詰めて考えるそうです。「理論や航空力学、機体の構造学などの原理に基づいて形ができています。同じ理論をベースにして、作品世界が必要としている条件を満たすように形を考えるのがデザイン。そこまで考えればオリジナルになるはずです。」という言葉が印象的でした。

河森作品における制作フェーズでのこだわり

後半部は、河森作品における3DCGの関わり方ということで、株式会社サテライトのお三方にバトンタッチ。森口氏、後藤氏、原田氏が登壇され、3DCGモデリング、1枚絵、演出といった各制作フェーズでのこだわりの数々が紹介されました。

森口氏からは『マクロスΔ』の可変戦闘機(バルキリー)を題材に、河森氏の変形メカをどう3DCGモデルに落とし込むかを説明いただきました。河森作品の変形メカの特徴は「完全変形であること」。これは3DCG上だけではなく、玩具にしたときにちゃんと変形させられることが求められます。

イメージのやりとりにはレゴブロッグを使っているそうです

バルキリーには、基本の戦闘機形態「ファイター」、そこから手足を展開した中間形態「ガウォーク」、人型ロボット形態「バトロイド」という3つの形態があります。3DCGモデリングの段階で「(玩具にしたときに)ヒンジ部分の強度が足りるか?」といったところまで検討されるそう。少しのパーツ修正ですべての変形に影響がでてしまう、といった完全変形の難しさが伝えられました。

後藤氏からは、DVDジャケットやポスターで使用される1枚絵の制作についてです。3DCGモデルを使って、いかにカッコよく見せるかのお話を伺いました。一見してわかりやすいのが大切ということで、キャラクターの特徴が伝わるポージング、シルエットへのこだわりなどが紹介されました。

原田氏からは演出について。視聴者の呼吸やテンションを意識したカット割りなど、河森氏の絵コンテの意図を汲んだ上で、よりよくするための試行錯誤の話がありました。

原田氏より「細かなこだわりがある一方で、意図を汲んだ上でスジの通った提案であれば、河森監督は受け入れてくれます。」という言葉があり、話題は制作過程での自由度の高さについて。河森氏からは「大元の意図さえ汲んでくれればいいです。オペレーションに止まらないで欲しくて。むしろ作り手の個性が反映されないと、いっしょに作る意味がない。」と熱く語られました。

制作時のエピソードも盛りだくさんに、皆さんの仲の良さが垣間見える掛け合いのおかげで、和やかな雰囲気でセミナーは幕を閉じました。制作裏話に貴重な資料の数々、河森氏のデザインの考え方やチームでの作品づくりに触れ、アンケート回答では「作品づくりだけではなく仕事の哲学を学べた」「デザインとは何か、一から考えさせられるお話でした」と大好評をいただきました。

河森正治監督プロデビュー40周年企画「河森正治EXPO」は、2019年5月31日(金)~6月23日(日)東京ドームシティにて開催です。

あにつく2019もお楽しみに

「あにつく」の活動は、アニメを作る楽しさや、その手法として2D作画ソフトの運用や3Dアニメーション技術の紹介、作品のメインキングとマーケットアピール、人材発掘・育成などを目的に2015年から開催してきました。今後もアニメ業界を支援するべく継続していきます。

あにつく2019

アニメ制作技術に関する総合イベントです。

メインイベント「あにつく2019」を企画準備中です。どうぞ、今年もお楽しみに!


河森正治EXPO

あにつく2019

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