現場を変えるMobilityのアイデア

第2話:目的の定まった"定着する"モバイルの活用

コラム

2018.06.21

Mac Fan誌で連載中!
仕事や学びを変えていく、明日から使えるヒントがここにあります。

福田 弘徳
株式会社Too モビリティ・エバンジェリスト
企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。
www.too.com

ある調査によると、タブレット端末の導入目的の50%以上は「生産性の向上」であるという。しかし、いざiPadを導入しても、そもそも「何のために使うのか」という目的が明確化されておらず、現場に定着しないケースがある。生産性の向上という目的は業務の現場では言葉だけが先行してしまいがちで、実際に業務の効率化には結びつかないことも多い。モバイルを中心とした働き方による真の生産性の向上を成し遂げるためには、「現場の業務に定着した」iPadの活用が必要不可欠といえる。

ある自動車販売会社の事例である。2011年より、全国にある販売店の約1000人の営業スタッフにiPadを配付した。導入の背景には、2つの目的があった。

1つ目の「商談のスピードアップ」は、顧客のライフスタイルの変化に伴い、店外での商談機会が増えたことへの対応だ。iPadが配付される前は、店舗にある共有のPCを使って、見積作成やローンシミュレーションを行い、顧客対応を行っていた。そのため商談時にお客様の元から離れることが多く、営業スタッフが離れることでお客様の気持ちも逸れてしまい、商談の機会損失が起きていた。それがiPad導入をきっかけに見積作成やローンシミュレーションをiPadで行えるようにしたところ、店舗業務の負荷が軽減。商談時にお客様と相対して見積を提示したり、ローンのシミュレーション結果を案内することが可能になった。結果、すんなりと商談のスピードアップを実現できたのである。

もう1つの「セールストレーニングの効率化」も見事iPadで解決できた。販売台数の増加に伴って、営業スタッフや車種が増えるたびに行われるセールストレーニングを効率的に実施する必要があったが、従来は新しい車種が出るたびにセールストレーニングを紙のテキストを中心に行っていた。それをiPadに変えたところトレーニングコンテンツをデジタル配信できるようになり、いつでもどこでも空いた時間に気軽に事前学習ができる環境が整った。営業スタッフは移動時間などの空いた時間を有効活用でき、iPadから気軽にアクセスできることで、トレーニングに対するモチベーションの維持も実現している。

また、集合研修においては、グループワークでのセールスポイントの確認やプレゼンテーションのシナリオを共有し、魅力的なセールストークを構築する手助けにもなっている。iPadにトレーニングコンテンツが配信されることで、コンテンツの閲覧状況を把握し、誰がどのコンテンツを閲覧しているのかの効果測定も可能となっている。

このようにiPadが業務に定着し、日々の営業活動やセールストレーニングの中で使われるようになると、営業スタッフのセールススキルの向上につながる。この自動車販売会社は2011年にiPadを導入してから、販売台数が右肩上がりで成長している。目的が明確化されたiPadによる営業プロセスの変革があり、それが現場に定着するからこそ生産性の向上を実現できている好例である。

iPad活用のポイントは、システムを導入することを目的とするのではなく、業務上の負荷になっていること、現場の課題をどのように解決できるかにある。言い換えれば、iPadが利用されるシーンを明確にし、その中の業務をiPadでいかにシンプルに実行するかがキーとなる。そうした具体的な目的を掲げることが、iPad導入が成功する1つのシンプルな答えだ。その場に応じたモバイルを活用し、モバイルの特性を活かした働き方を実現していくことがモビリティである。モビリティを実践し、業務に定着させることで現場の課題を解決し、生産性の向上を実現することが重要ではないだろか。



この記事は、月刊誌Mac Fanに連載している「現場を変えるMobilityのアイデア」の転載です(初出:Mac Fan 2016年1月号)。

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